映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

人生、ブラボー!

2013年08月31日 | 映画(さ行)
この少子化時代、たくさんの兄弟が羨ましくもある



* * * * * * * * * *

うんと若いころに693回の精子提供を行い、
ある日突然、533人の子供の父親であることが発覚した42歳ダビッド。
そのうち142人が遺伝子上の父親の身元開示を求める訴訟を起こす予定
と知らされたダビッドは困惑します。
しかし、そのうちの一人が、彼の応援するサッカーチームのスター選手であることを知った彼は、
興味を持ち、こっそり他の子どもたちの様子を調べ始めます。


子どもたちというのは、二十歳より少し前くらいでしょうか。
路上のミュージシャンだったり、役者志望だったり、薬物中毒だったり、
あるいは障害を持つ子もいます。
ダビッドは自分の正体を隠し、彼らの手助けを始めてしまいます。
子どもたちを見る彼の目はあくまでも優しく、彼のお人好しさがにじみ出るのですが、
まさに父親の目。
いや、これは既に親バカ。
そして若者たちは訴訟団として懇親キャンプをしたりするのですが、
そこにもちゃっかり顔を出して世話を焼き、
若者たちにも好かれてしまいます。



つまり彼・彼女らは皆真の意味で兄弟ですよね。
すべてが順調に行っているものなど稀で、
皆これからの自分の人生に悩み、孤独や不安を感じたりしている。
特に自分の父親が誰なのかも分からないという点では
自らのアイデンティティにも関わります。
そんな時に、こんなふうな仲間、兄弟とともにひとときを過ごせるというのは
とても大切なことではないかと思うのです。
この少子化時代に、なんかこういうのもいいなあ・・・などと思ったりして。



さて、ダビッドは、次第に自分が本当の父親であることを隠しているのが心苦しくなってきます。
皆自分を慕ってくれているのに、これでは彼らを裏切っているようです。
けれども、借金の問題もあって、それを明かすと不都合が生じる・・・。
悩めるダビッドに救いの手を差し出すのは・・・!



う~ん、親子とか、家族っていいなあと思える作品。
まあ、現実はなかなかこうでないからこそ、なのかもしれませんが。
そもそもダビッドが多数回の精子提供で得たお金の使い道というのが、又感動的なのです。
彼は533人の子どもたちの父親として、仮の名「スターバック」と名乗っていましたが、
これはカナダの超優良遺伝子を持つ種牛の名前だそうです。
なんともユーモラス。
笑って、ちょっぴり泣ける、
ハートウォーミングストーリー。



人生、ブラボー! [DVD]
パトリック・ユアール,ジュエリー・ル・ブルトン,アントワーヌ・ベルトラン,ドミンク・フィリー,マーク・ベランジェ
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン


「人生、ブラボー」
2011年/ カナダ/110分
監督:ケン・スコット
出演:パトリック・ユアール、ジュエリー・ルブルトン、アントワーヌ・ベルトラン
ダビッドの人のよさ★★★★★
満足度★★★★☆
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

火の粉

2013年08月30日 | 本(ミステリ)
薄気味悪いほどの善意

* * * * * * * * * *

「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
元裁判官・梶間勲の隣家に、
二年前に無罪判決を下した男・竹内真伍が越してきた。
愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の手伝い・・・。
竹内は溢れんばかりの善意で梶間家の人々の心を掴む。
しかし梶間家の周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。
最後まで読者の予想を裏切り続ける驚愕の犯罪小説!


* * * * * * * * * *

本作、怖いというか、うす気味の悪い話でした。
文庫にしては割りとボリュームがあるのですが、
この梶間家の行く末が心配で心配で、
一気読みに近く、読みふけってしまいました。


紹介文にある通り、もと裁判官の梶間の隣家に、竹内という男が越してきてから、
梶間家の中がぐちゃぐちゃになっていきます。
過剰なほどのおせっかいで、いい人と思われる竹内ですが、
何か人の家を覗うようなところがある。
この家の家族構成は、一家の主、元裁判官の勲と
その妻・尋恵。
勲の母(寝たきり)。
長男俊郎とその嫁・雪見。
長男夫婦の幼い娘・まどか。


尋恵は家事と義母の介護に疲れ果てています。
けれど嫁姑の仲は比較的良くて、まあ、うまく行っている家庭でした。
隣に竹内が越してくるまでは。
まず竹内はおばあさんの介護を手伝いましょう・・・ということで、
この家に入り込んできます。
義母は嫁が介護するのは当然と思っており、
感謝の言葉一つ口にしたことがありません。
そのくせ、自分の娘(つまり勲の姉)が来れば大げさに喜び、ありがたがる。
全くこれではたまりませんよね。
尋恵はこの小姑にも気を使わなければならず、
ストレスのあまり倒れるところまで行ってしまいます。
そんな心の弱ったところに竹内はつけ込んできたわけですね。
いえ、それは実際"善意"なのです。
けれど、その押し付けがましいほどの善意が
次第に気味悪く感じられてくる。



それにしてもこの介護の件で、
私は勲の無関心度に実はかなり頭にきました。
なぜ妻にばかり全てを押し付けるのか・・・。
今は介護サービスだってあるのに。
彼は母ばかりか孫の面倒すら見ずに、ふんぞり返っているだけ。
尋恵はそのことに愚痴もこぼさず、実によくやっています。
う~ん、これが普通の日本の家庭像? 
ちょっとひどすぎますね。


・・・しかし、本作、後の方で、勲の家族への無関心の問題を突くシーンもちゃんとあるのです。
よしよし、そうでなくっちゃね。
いやいや、はじめから竹内を無罪にしてしまったことと
勲の心のありようは別ものではないということで・・・。
小説として、実にうまくできています。


それから、長男の俊郎も、全くニブイというかしょうもない奴です。
最後の最後まで竹内のことをいい人と思っている。
そこへ行くと嫁の雪見は、サバサバとしていて好きです。
彼女にも悩みはありつつ、感がいいですよね。
この家はこの女たちで成り立っているようなものです。
嫁と姑の陰湿なバトルにならないところがまたいい。


著者は男性ですよね?どうしてこんなにきちんとした女性心理を描けるのか、
不思議なくらいです。
ともあれ、こうして、じわじわと武内への疑惑が積もっていきながら、
終盤のサスペンスへと一気に盛り上がっていくところもスゴイ。


結局は病的といえるほどの異常性癖を持つ男の話・・・ですが、
もし身の回りにこんな人がいたら・・・と思うと怖いですねえ。
そうして、こちら側の家族の結束とか人間性をも問われそうなところが
またオソロシイ・・・。


まさに衝撃の一作でした。

火の粉 (幻冬舎文庫)
雫井 脩介
幻冬舎


「火の粉」雫井脩介 幻冬舎文庫
満足度★★★★★

コメント   トラックバック (1)
この記事をはてなブックマークに追加

つやのよる

2013年08月29日 | 映画(た行)
愛する人を奪われた妻、恋人、娘たちの心の揺れ



* * * * * * * * * *

井上荒野原作の恋愛群像劇です。
家族を捨て、艶(つや)という女性と駆け落ちし、
大島で暮らしている松生(阿部寛)。
しかし、妻は不治の病に冒され昏睡状態。
妻はその名の通りお色気たっぷり、
次々に男を変え、駆け落ちしてきたこの島でさえ男漁りで島中に知れ渡っている。
妻を愛しても愛しても報われない松生は、焦燥し切った中で考える。
艶と関係のあった男たちに
彼女の死期の迫っていることを知らせてみよう、と。
本作は、その艶の過去の男たちの様々な今、
そしてその妻、恋人、娘たちの心の揺れと愛の有りようを描いていきます。



いやいや、よほど魅力的な女性なのでしょう、艶は。
本作ではずっと病床で酸素マスクを付けた姿しか映し出されず、
彼女のことは登場人物が語る姿を想像するしかありません。
過去の男たちは、
ある者はもう過去を忘れ、
ある者は腑抜けたまま、
またあるものは艶を失ったためか自殺、
実際それぞれです。
けれどその周りの女性たちは、もっとしたたかなように思われる。
それはある種の諦念かも知れないし、
結局は生き残ったものの勝ちであることを知っているのかもしれない。
そして男などに振り回されす、
自分らしく生きていくことの方が大事と思っているようでもある。
なんだか彼女たち一人ひとりに共感を覚えます。
艶には全く共感できないのですが。

たぶん私は、他の妻たちと似たようなハートの持ち主なのかもしれない。
夫の浮気を知って、ヒステリーで泣き喚くとか、
そういうふうには絶対ならないな・・・と、自覚しております。


・・・それにしてもなかなか豪華キャストでしたね。
小泉今日子VS荻野目慶子のバトルは見ものでした。



阿部寛さんは、本作のために10キロほども減量をしたそうです。
頬はこけ、目も落ち窪んでギラギラ。
ほとんど狂気の淵にいる感じ。
迫力があります。
二人乗りの自転車で坂道を登るシーンは、
いやはや役者さんも大変だなあ~、とついリアルに心配してしまいましたが。


本作の題名は「通夜の夜」でもあったのか・・・。
ラストが思いがけずにいい。



つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語 [DVD]
阿部寛,小泉今日子,野波麻帆,風吹ジュン,真木よう子
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


つやのよる ある愛に関わった、女たちの物語 [Blu-ray]
阿部寛,小泉今日子,野波麻帆,風吹ジュン,真木よう子
TOEI COMPANY,LTD.(TOE)(D)


2012年/日本/138分
監督:行定勲
原作:井上荒野
出演:阿部寛、小泉今日子、野波麻帆、風吹ジュン、真木よう子、忽那汐里、大竹しのぶ
恋愛の多様度★★★★☆
それぞれの生き方★★★★★
満足度★★★★☆
コメント   トラックバック (1)
この記事をはてなブックマークに追加

きいろいゾウ

2013年08月27日 | 映画(か行)
本当に大事なことは口に出せない


* * * * * * * * * *


互いに「ムコさん」(向井理)、「ツマ」(宮崎あおい)と呼び合う田舎暮らしの若夫婦。
ふたりは互いをよく知らないまま結婚しました。



ツマは天真爛漫、エキセントリックで
草木や動物と話ができたりします。
まあ、それでちょっぴりファンタジー仕立て。
幼いころ満月の明るい夜に、きいろいゾウが来て、
体の弱い彼女を空を飛んでアフリカへ連れて行ってくれた。


ムコの方は売れない小説家。
生活の足しに老人介護施設で働いていたりします。
何故か背中に大きな鳥のタトゥ。
(うわー、向井理にタトゥ、似合わない~)
いやしかし、これには深いわけがあるので、ガマン、ガマン・・・。


何の杞憂もなく幸せそうな二人でしたが・・・・。
ある日ムコ宛に届いた一通の手紙から、二人の気持ちが揺らぎ始めます。
実は互いのことはほとんど知らないことに気付いて狼狽し・・・。



ファンタジックな割に、二人の気持ちのすれ違う最大の山場、流しの蛇口の場での決闘(?)は
なかなか鬼気迫るものがありました。

本当に大事なことは口に出せなくなる。
そういうのはなんとなくわかります。



さてとそれでまあ、納得できる作品ではありながら、
あまり好きにはなれませんでした。
向井理さんは大好きなんですけどねえ・・・。
このツマ、「女」の女らしいところがあからさま過ぎ。
満月の夜、生理になると感情の起伏が激しくなっちゃう。
笑っていればたしかにカワイイけど、スネルは怒るは泣くは・・・、
私は自分が女だからなのか、こういうのは生々しすぎて苦手。
男性はこういうのを「かわいい」と思えるのでしょうか? 
とすれば相当包容力があって、結構なことです。
でもたいていは退いてしまうんじゃないかなあ・・・。
妙なところで感が鋭くて繊細で・・・う~ん、苦手だ・・・。
それをファンタジックでくるんであるのが余計にイヤだ。

という、私の全く個人的感想でした。



2013年/日本/131分
監督:廣木隆一
原作:西加奈子
出演:宮崎あおい、向井理、緒川たまき、リリー・フランキー
「きいろいゾウ」
ほんわかさに隠されたリアル★★★★☆
満足度★★☆☆☆

コメント (4)   トラックバック (2)
この記事をはてなブックマークに追加

「チャンネルはそのまま! 6」 佐々木倫子

2013年08月26日 | コミックス
この手のコミックで泣ける??・・・いや、それが何故か泣けるのです・・・。

チャンネルはそのまま!(6) (ビッグ コミックス〔スペシャル〕) (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL)
佐々木倫子
小学館


* * * * * * * * * *

さよなら花子。さよならバカ枠!?
不振が続く北海道☆テレビでは、
小倉部長の発案で新番組「夕方ビッグバン」が始まり、花子もそのスタッフに。
ひぐまテレビの攻勢も激しくなる中、
花子らは前代未聞のドラマ企画「北のさくら」に挑もうとするが、
社内からは反対意見が続出。
一方、山根は「バカ枠は、酷使しすぎると普通の人になる」
という事実に気が付き・・・!?


* * * * * * * * * *


正直、マンネリ化してきていて、もう読むのをやめようかな・・・?
などと思っていた矢先でした。
本巻が完結編ということです。
・・・が、これがなかなか盛り上がりまして、
やっぱりやめるのは惜しいのでは?などと、
まことに身勝手な感想をいだいてしまったのでした。


本作、「北海道☆テレビ」と、ライバルの「ひぐまテレビ」の争いが随所に見られます。
ライバルというか、☆テレビが勝手にそう思っているだけで、
実は視聴率ではとてもかなわないひぐまテレビの強大さ。
そのやり方もかなり強引。
というところで、北海道人なら、
ある特定のTV局を連想してしまうのですけれどね・・・^^;
その後追いの弱小TV局が舞台、というのが本作のいいところです。


なんと本作中で、泣きそうになったところがありまして・・・。

第40話「街の灯」
報道部からキラキラ情報局に配置換えとなった雪丸。
山根の苦悩は深まる・・・。
そんな時、番組でヴァイオリンの生放送をすることになった。
しかし、クラシックなのでスタッフにも馴染みが薄く、
なかなかカメラのカット割りのタイミングがつかめない。
そこへすばらしいアイデアを出したのが雪丸。
彼女は勝手に曲に歌詞をつけてしまったのです。
(もちろん、心のなかで歌うだけですが)

心が折れそうなときには
丘に上って街の灯を見るの
雪の夜ににじむ街の灯
あの窓のむこうにはテレビを見てる人がいる
それは他局かもしれない
NHKかも知れない・・・


始めは叙情的?と思われる歌詞も
次第に現実的な雪丸の思いになってしまいますが、
これがスタッフには受けた。
本番も、皆この歌詞を心に秘めながらの生放送。
大変思い入れの深い曲となったのですね。
何故かこの異常な盛り上がりが、
電波を通じてお茶の間にもちゃんと伝わったという・・・。
そんなことがあるわけない、と思いますか?
どうしてかわからないけれど、
私も朝の情報番組などで生放送の音楽を聞いて、
妙に感動してしまった経験があります。
普通に音楽番組で聞けば、まあ、それなりなのですが、
いつもと違う情報番組の場で、というのがすごく新鮮で、
スタッフの緊張とか感動がそのまま伝わる気がすることが、確かにあると思うのです。
本作ではもちろん著者佐々木倫子さんの力量もあり、ということですね。
このシーンで、私まで感動してしまった。
考えてみたら実際には曲なしですよね。
スゴイ。


さて、その後、雪丸や山根は「夕方ビッグバン」という新番組のスタッフとなります。
雪丸は前代未聞のドラマ企画「北のさくら」に挑むことに。
さてその生放送の最終回・・・どうなる!!

そうでした、この「北のさくら」最終回も泣きそうでした。


「チャンネルはそのまま! 6」佐々木倫子 小学館
満足度★★★★★

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

シャドー・ダンサー

2013年08月25日 | 映画(さ行)
もう一人の密告者



* * * * * * * * * *

1993年北アイルランド。
コレット(アンドレア・ライズボロー)は
IRA(アイルランド共和軍)のメンバーとして活動をしていました。
彼女は幼いころ自分のせいで弟を死なせてしまうということがあり、
おそらくそのことがきっかけとして、
この一家がこの活動に足を踏み入れたことが伺えます。
ロンドンの地下鉄駅爆破未遂でコレットは捕まってしまうのですが、
MI5の捜査官マック(クライブ・オーウェン)から、
このまま25年間投獄されるか、
IRAの動向を知らせる密告者となるかどうかの選択を迫られます。

まだ幼い息子が気がかりで、彼女は密告者の道を選びますが・・・。



はじめから幾人にしか知らされない秘密を漏らしてしまったら、
自分が疑われるのは必至です。
だから非常に危険な任務ですね。
そういう重圧を受けながら、必死で息子を守り生きようとする女の芯の強さを、
アンドレア・ライズボローが好演しています。



しかし、実はコードネーム「シャドー・ダンサー」という、
マックにも知らされていないもう一人の密告者がいた・・・!!

このことが思いがけないラストに私達を導きます。
長く相容れずにいた北アイルランドと英国。
愛の力ではのりこえられないのか・・・苦い思いが広がるのですが、
安易なハッピーエンドでは得られない残像が
心に焼き付きました。
特に派手なアクションなどはなく、とつとつと語るような作品ですが、
見応えのある良い作品です。



ところで、MI6はわかるけれど、MI5って、どう違うの?
というのが無知な私の疑問でした。
その答えは本作のオフィシャルサイトにありました。
つまりMI6は英国の海外の情報局。
MI5は英国内の情報局とのこと。
勉強になります!

シャドー・ダンサー [DVD]
クライブ・オーウェン,アンドレア・ライズブロー,ジリアン・アンダーソン,エイダン・ギレン,ブリッド・ブレナン
東宝


「シャドー・ダンサー」
2011年/アイルランド・イギリス/101分
監督:ジェームズ・マーシュ
原作:トム・ブラッドビー「哀しみの密告者」
出演:アンドレア・ライズボロー、クライブ・オーウェン、ジリアン・アンダーソン、エイダン・ギレン、ドーナル・グリーソン

サスペンス度★★★★☆
歴史の重み度★★★★☆
満足度★★★★☆
コメント   トラックバック (2)
この記事をはてなブックマークに追加

北京のふたり

2013年08月23日 | 映画(は行)
異国でトラブルに巻き込まれた時の恐ろしさ

* * * * * * * * * *

リチャード・ギア主演、北京が舞台という異色作です。
先日見た「いたいふたり」と、シリーズです、
と言いたいところですが、全然関係ありません^^;


米中間初の衛星放送契約のため
北京を訪れた米国のジャック(リチャード・ギア)。
ナイトクラブで出会った女性リンに惹かれ、
自分のホテルに誘い一夜を過ごします。
その翌朝、突如警官が踏み込んできて、
彼を殺人犯として逮捕するという。
みれば部屋には血まみれのリンの死体が・・・・。
裁判の席で、ジャックについた女性弁護人ユーリン(バイ・リン)は
いきなり「有罪」を申し立てます。
この国では死刑を免れるためには有罪を認めるしかない、
と彼女はいうのですが・・・。
当局の都合の良いようにしか物事が運ばず、おまけに隠蔽体質。
このわけの分からない中国の裁判を、
ジャックとユーリンが次第に心を寄せながら戦っていきます。


何を考えているのか意味の分からない不気味な中国。
最近はさすがにそこまでのイメージは薄れてきていますが、
そこに巻き込まれてしまった男の奮闘を物語っています。
異国でトラブルに巻き込まれた時の恐ろしさをつくづく感じさせる作品です。
そんな中で、凛と筋の通った女性、ユーリンがステキでした。
二人は互いの危機的状況を自分の身を呈してかばい合うのです。
けれどそこには肉体的関係はありません。
だからこそ、ラストは切なく、
そして美しいですね・・・。

レッド・コーナー~北京のふたり~ [DVD]
リチャード・ギア
20世紀 フォックス ホーム エンターテイメント


「北京のふたり」
1997年/アメリカ/123分
監督:ジョン・アグネット
出演:リチャード・キア、バイ・リン、ブラッドリー・ウィットフォード、バイロン・マン

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

「黒田如水」 吉川英治

2013年08月22日 | 本(その他)
藤蔓の生命力に心打たれて

黒田如水 (角川文庫)
吉川 英治
角川書店


* * * * * * * * * *

激しい戦国の世で、御着城主・小寺政職は、
東に織田信長、西に毛利輝元の勢力に挟まれ、
身の振り方をどうするか決断を迫られていた。
彼に仕えている若き家老・黒田官兵衛は、織田側につくことを提案。
その結果、官兵衛が使者として信長がいる岐阜へ赴く。
さっそく信長との仲介を羽柴藤吉郎へ頼みに行くと、
軍師・竹中半兵衛に引き合わされる。
それは、官兵衛にとって、運命の歯車が廻り始めた瞬間だった…。


* * * * * * * * * *

2014年NHK大河ドラマの主人公、黒田官兵衛の若い時代を描いています。
最近歴史に興味を持ちだした、にわか歴女の私、
まあ、名前はよく出てくるけれど・・・というくらいで
よく知ってはいませんでした。


「黒田如水」は官兵衛が後に出家した時の名前で、
本作はそこのところまでは描かれていません。
もともとそう高い地位の家柄ではないのですが、
自己の知恵と力でのし上がっていった、
戦国武将の典型といってもいいと思います。
紹介文にもある通り、もともとは小寺政職につかえていたのですが、
これが優柔不断のダメな城主。
織田側につくよう官兵衛が説得すれば納得し、それでよしとするのですが、
その後他の配下に又説得されれば、簡単に前言を撤回。
全然あてにならない。
このために、官兵衛がひどい煮え湯を飲まされてしまう事件が中心となっています。


散々説得し納得させた、「織田側につく」という話を翻し、
毛利側につこうとする小寺政職の策にはまり、
荒木村重のもとにおよそ1年間、幽閉されてしまう。
彼は一粒種の息子松寿丸を信長の人質として差し出していたのですが、
荒木村重のところへ行ったまま帰らない官兵衛を、信長は「裏切り」とみなし、
直ちに人質を殺してしまえと命じます。
いかにもあの気性の激しい信長ですよね。
やがて、竹中半兵衛から信長のもとに、松寿丸のものという首が届きますが・・・。


本作、泣けるところが2箇所。
狭くて湿気がひどい穴蔵のような場所で、
粗末な食事でかろうじて生きながらえていた官兵衛が、
ある日、高窓に藤の蔓を見つけます。
生きる希望もなくし、もう死んでしまおうかと思い始めた時のこと。
彼はその蔓のみずみずしさに心打たれ、
なんとしても生き延びようと決意する。

すばらしいシーンですねえ・・・。
そしてもうひとつはラスト。
・・・まあ、知る人は知る話ですが、
今度の大河ドラマになる話でもありますので、ネタばらしはやめておきましょう。


しかし、穴蔵の中で1年を過ごした官兵衛の精神というのが、
何か一つ突き抜けているのが素晴らしくて、
それに重ねたように、主君と友との邂逅があったりする。
非常に小説的に完璧にできているのです。
それはもう、さすがに吉川英治。
今頃それを知ったというのも、お恥ずかしい話ですが。
本作は1989年の作品。
でも、歴史小説は、古びないからいいですよね・・・、
と思ったら、本巻巻末にこんな注釈がありました。

「本文中に生まれや職業、国籍、障害者を差別する語句や表現があるが、
人権意識の低い時代に発表されたものであること、
著者が亡くなっており、みだりに表現を改編すべきでないこと
などを熟慮の上、原文のままとしている」
と。


確かに、読みながらアレ?と思うことはありました。
近頃はまず見かけない言葉が時々出てきます。
古びないはずの歴史小説でも、
やはり時代と世の中の影響はあるものなのですね。

「黒田如水」吉川英治 角川文庫
満足度★★★★☆
コメント (2)
この記事をはてなブックマークに追加

いたいふたり

2013年08月21日 | 西島秀俊
究極の痛みとは?



* * * * * * * * * *

カメラマンを目指しながらも芽が出ず、塾の講師をしている涼(西島秀俊)。
元看護師で今は小さな会社のOLなつ(唯野未歩子)。
二人は結婚して間もないのですが、
あまりの愛の深さ故か(?)体の傷や痛みを共有するようになってしまいます。
どちらかが怪我をすれば相手にも傷ができ、
どちらかがよそで殴られれば、遠く離れた相手も痛みを感じる、ってわけだよね。
そう、だからまあ、寓話的作品といえるかな。
この二人に、なつの弟や、涼に片思いの女子高生、
なつに思いを寄せる同僚の男などが絡んで
何やらドタバタな様相を呈してきます・・・。


「愛の深さ故」の後についたクエスチョンマークには意味があるんだよね。
この涼ときたら、とんでもなく女好きで浮気のし放題。
でもやっぱり奥さんの事は大事にしているようなので・・・。
このへんの男性心理は、やっぱり私にはわからないなあ・・・。
で、この「痛みを共有する」という部分の最大の山は、なつの妊娠のところ。
この場のための設定だったわけだよね。
つまり、出産の時の痛み。
それを男性も味合わなければならいわけなんですよ。
遠くアフリカに以前同じように痛みを共有する部族があったが、
まもなく全滅した、という話し。
そして、もし男性が妊娠したらどうなるのかな・・・? 
という問いかけ。
その答えは作中では出ていないのだけれど、
暗に、あの痛みは女性だから耐えられるのであって、
男性なら死んでしまうゾ・・・と、そのようなことを言っているわけだ。
なつの妊娠に大喜びする涼でしたが、
その直後、自分の命とひきかえなのか?・・・という恐怖に駆られるんだね。


・・・とまあ、何やらドタバタした話だけど、
それらをあえて淡々と映し出すことで効果をあげていると思う。
かくれんぼが好きななつが新婚らしくてカワイイし、
一応カメラマンなのに、食べ物の写真ばっかり撮ってる涼もヘン。
それから、自分の作った料理を写真にとられるのがイヤというなつ。
平凡でいながらどこかヘン。
でも、実際の生活ってそんなものだなあ・・・と、思ったりするね。
案外痛みを共有するなんてことも、
実はちょっとヘンだけど、ありきたりなことだったりして・・
んなわけないでしょう!!
いや、それで万が一そんなことがあったとしても、
男性の皆様、死ぬほどまでは痛くないと思いますよ
・・・ご安心を。
だから、んなわけないってば。

いたいふたり [DVD]
アップリンク
アップリンク


「いたいふたり」
2002年/日本/112分
監督・脚本:斎藤久志
出演:西島秀俊、唯野未歩子、鈴木卓爾、原一男、川越美和
日常性★★★★☆
西島秀俊の魅力度★★★★☆
満足度★★★☆☆

コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ワールド・ウォーZ

2013年08月19日 | 映画(わ行)
究極のゾンビ映画



* * * * * * * * * *

突如発生した謎のウィルスが瞬く間に世界中に広がり、
各国の政府や軍隊も壊滅状態。
もと国連捜査官で伝染病調査や紛争国の調査役を勤めた経験のある
ジェリー・レイン(ブラッド・ピット)が国連事務次官に呼び出されます。
このウィルスのワクチン開発のため、情報収集調査隊に同行してほしいというのです。
人をゾンビ化させるこのウィルスの対抗策とは・・・!?



本作はつまり、ゾンビ映画なんですね。
ゾンビ映画といえばかなりB級臭が漂うものですが、
このスケールの大きさ、ゾンビ映画の究極といってもいいかもしれません。
ウィルスのナゾ解明に最も近いとされる科学者が、
初めのほうであっさりと死んでしまうのですよ。
うひゃ~、ど、どうするつもりなんだ???
と焦ってしまいますが、
ここからが、ブラピの腕の見せ所となるわけです。
彼は優秀な国連捜査官であったわけですが、
特別に強靭な体力とか卓越した格闘技術を持っているというわけではありません。
ただ人より感が良くて勇気がある。
なかなか魅力がありますね。



ゾンビといえば何やらノタノタよろよろ歩くイメージですが、
ここに出てくるゾンビたちの動きの素早いこと。
エルサレムの防護壁のシーンは、予告編でも何度も拝見していましたが、
実際スゴイです。
あんなにわらわらと押し寄せてこられたら、ほんとに怖い・・・。
それと旅客機のシーンもすごかったですね。
機体に穴が開いて、そこから吸い出されてしまう人々(いえ、既にゾンビでしたが)。
これで無事にすむわけがありませんが、
実際、迫力に満ちていてスゴイシーンでした。



ストーリーもゾンビもスピーディー。
ゾンビって要するに何なのさ?
などと考える暇も与えないってくらいで、
だからこそ成功しています。
解決策も、結構ユニーク。
そこで一役買うブラピが、ただの体力自慢でないところをのぞかせて、
良かった。



「ワールド・ウォーZ」
2012/アメリカ/116分
監督:マーク・フォースター
原作:マックス・ブルックス
出演:ブラッド・ピット、ミレイユ・イーノス、ダニエラ・ケルテス、フアナ・モコエナ、アビゲイル・ハーグローブ
緊迫度★★★★☆
満足度★★★★☆
コメント (2)   トラックバック (3)
この記事をはてなブックマークに追加

「四畳半王国見聞録」 森見登美彦

2013年08月18日 | 本(その他)
ミクロからマクロへ めまい的四畳半迷宮

四畳半王国見聞録 (新潮文庫)
森見 登美彦
新潮社


* * * * * * * * * *

「ついに証明した!俺にはやはり恋人がいた!」。
二年間の悪戦苦闘の末、数学氏はそう叫んだ。
果たして、運命の女性の実在を数式で導き出せるのか(「大日本凡人會」)。
水玉ブリーフの男、モザイク先輩、凹氏、マンドリン辻説法、
見渡すかぎり阿呆ばっかり。
そして、クリスマスイブ、鴨川で奇跡が起きる―。
森見登美彦の真骨頂、京都を舞台に描く、笑いと妄想の連作短編集。


* * * * * * * * * *

例によって、京都で繰り広げられる森見氏の学生ストーリー。
連作短編です。
個性豊かな面々が織りなす悲喜こもごも。
彼らが目指すのは真理の追求か
はたまた桃色ビデオか、
ついには無限につづく「四畳半」の王国か。


面白いといえば確かにに面白いのですが、
四畳半で思い出すのは、かの「四畳半神話大系」。
あのどこまで行っても四畳半が続くSF的無限四畳半の世界に魅せられた私としては、
こちらはやや物足りなく思われました。
森見氏が四畳半に抱く愛着はよくわかりますが、
それについては「神話大系」でやめておくのが賢明だったのではないでしょうか。


今作中、誰が見ても絶対に睡魔に襲われるという映画作品、
これなどはむしろ不眠に悩む人の福音であるかもしれません。
入眠映画として、DVDで出せば絶対売れるのになあ・・・・。


例えばある学生の虫歯をず~っとクローズアップしていくと
その親知らずの虫歯の山中を迷子になってさまよっている男がいる。
その男の傍らに一匹の蝸牛がいて、
その角のてっぺんに鴨川が流れており、
その両側に京都の市街が広がっている。
・・・というような、なんだかくらくらするミクロとマクロのつながりが、
とても興味深く思われました。
そこのところをもっと突き詰めていくと面白かったと思うのですが、
結局単なる場面切り替えの手段のようになってしまったのも残念。
どこにいても、誰からも存在を認めてもらえないという無名氏は好きでした。



「四畳半王国見聞録」森見登美彦 新潮文庫
満足度★★★☆☆
コメント   トラックバック (1)
この記事をはてなブックマークに追加

ローン・レンジャー

2013年08月17日 | 映画(ら行)
爽快感とちょっぴりの郷愁



* * * * * * * * * *


「パイレーツ・オブ・カリビアン」のチームが再結集して作られたこの作品。
単に舞台を海からアメリカ西部へ変えただけ?とも思えるのですが、
そうとも言えるけれど、それだけじゃないよ、というところでした。



自称悪霊ハンターのトント(ジョニー・デップ)は、
瀕死の重症を負った郡検事ジョン(アーミー・ハマー)を聖なる力で蘇らせます。
始めは全く気の合わない二人ながら、
ジョンは白馬にまたがり、トントとともに巨悪に立ち向かっていく・・・。


白塗りのジョニー・デップは、また変人の役・・・ではありますが、
これがけっこういいのです。
いかにも怪しげで、インチキ臭くて
オトボケでもありながら、どこか真実を突きます。
彼がこうなってしまったわけは、少年時代の忌まわしい事件にあるというあたりで、
なんだか納得させられ、
その内に秘めた悲しみを見出してしまうと、
彼の奇行にも重みが出てくるという仕組み。
それはまた、アメリカ先住民の悲しみでもありますしねえ・・・。



彼らの敵は、
この世ならぬ魔法を使い、世界征服を企むなどというワケの分からないものではなく、
極めて世俗にまみれた欲深い「人間」に他ならない、
というところも気に入りました。



そしてなんといっても終盤の列車のアクションシーンがスゴイ!! 
特に白馬で列車の上を駆け抜けるなんて、
見たこともないシーンにア然。
いや、かっこいいです!!
私はすっかりこのナゾのお馬さん、シルバーの大ファンになってしまいました。



「ローン・レンジャー」は1930年代にラジオドラマで、
50年代にTVドラマで大人気を得た作品です。
私も幼少の頃TVを見た記憶はありまして、
ストーリーは全く覚えていないものの、
「ハイヨー・シルバー!」の掛け声と、
あの「ウィリアム・テル序曲」は忘れられません。
そんなわけもあってか、本作にこの曲が流れると
心浮き立ってしまうのを止めることができません。


今はもう遠い昔の物語・・・。
トントをうんと老人にして昔語りのスタイルでストーリーを進めたのには、
こういう郷愁があればこそ、なのだと思います。
しかし、単なるリメイクではなく、
見事に現代の「ローン・レンジャー」として蘇らせてくれました。

あ~、面白かった!! 
それで全てです。


「ローン・レンジャー」
2013年/アメリカ/150分
監督:ゴア・バービンスキー
製作:ジェリー・ブラッカイマー
出演:ジョニー・デップ、アーミー・ハマー、ヘレナ・ボナム・カーター、トム・ウィルキンソン、ウィリアム・フィクトナー

列車アクション★★★★★
ジョニー・デップのおとぼけ度★★★★☆
満足度★★★★★
コメント   トラックバック (6)
この記事をはてなブックマークに追加

「永遠の0」 百田尚樹

2013年08月15日 | 本(その他)
凛々しく飛び立っていった青年たち

永遠の0 (講談社文庫)
百田 尚樹
講談社


* * * * * * * * * *

「娘に会うまでは死ねない、妻との約束を守るために」。
そう言い続けた男は、なぜ自ら零戦に乗り命を落としたのか。
終戦から60年目の夏、健太郎は死んだ祖父の生涯を調べていた。
天才だが臆病者。
想像と違う人物像に戸惑いつつも、1つの謎が浮かんでくる――。
記憶の断片が揃う時、明らかになる真実とは。

* * * * * * * * * *

本屋大賞受賞作にして、この12月に映画公開となる作品です。
以前から書店の店頭で大々的に売り出していて気になっており、
この夏やっと読むことができました。
はからずも、本作は
戦争の記憶を呼び起こすこの8月に読むにふさわしい作品でした。


題名の0(ゼロ)は、零式戦闘機
すなわちゼロ戦のゼロを表しています。
ゼロ戦といえば今夏公開中の「風立ちぬ」が
ゼロ戦の設計者堀越二郎を主人公としていますが、
当時米国人も驚くすばらしい性能を備えた飛行機だったわけですね。


今作では健太郎が「祖父は特攻で亡くなった」と聞き、
その経緯を知る人を訪ねて回ります。
祖父、宮部久蔵は、誰もが認めるすばらしいゼロ戦の操縦技術を持った人物だった。
しかし、死にたくないと公言する臆病な人だった
・・・そう聞いた健太郎はちょっと失望します。
けれども、多くの人を訪ねまわりながらわかっていく真実は、
もっとすばらしいものでした。


本作はその祖父の人間的魅力とあわせて、
当時の日本海軍のどうしようもない体質と
特攻の虚しさも重ねて私達に訴えかけます。
特攻はあくまでも「志願」が建前だけれども、
当時の状況でこれは決して拒むことなどできず、
「命令」と殆ど変わらなかった。
けれども、特攻の青年たちは、
お国のため凛々しく飛び立っていった・・・。
多くは目的の船に辿り着く前に撃ち落とされてしまったというのですが・・・。


宮部は確かに、
妻との約束を守り「必ず生きて帰る」ことを自らに課していたのです。
それなのに、あと数日で終戦という時に
特攻で命を落としてしまったのです。
なぜ・・・?
その答えを知るときには、つい涙がこぼれ落ちていました。
このストーリーのすごいのは
その筋立ての影にもう一つの真実が隠されているというところ。
人の思いは受け継がれていくのですねえ・・・。
価値ある一作です。

「永遠の0」百田尚樹 講談社文庫
満足度★★★★★
コメント   トラックバック (2)
この記事をはてなブックマークに追加

「月と蟹」 道尾秀介

2013年08月14日 | 本(その他)
あの人もこの人も、自分とは違う

月と蟹 (文春文庫)
道尾 秀介
文藝春秋



* * * * * * * * * *

海辺の町、小学生の慎一と春也はヤドカリを神様に見立てた願い事遊びを考え出す。
無邪気な儀式ごっこはいつしか切実な祈りに変わり、
母のない少女・鳴海を加えた三人の関係も揺らいでゆく。
「大人になるのって、ほんと難しいよね」
―誰もが通る"子供時代の終わり"が鮮やかに胸に蘇る長篇。
直木賞受賞作。


* * * * * * * * * *

道尾秀介さんの直木賞受賞作。
なるほど、本作はほとんどミステリをはなれ、
しっかりした文芸作品でした。


慎一は、父をなくし、母、祖父と3人で暮らしています。
友人といえるのは春也一人。
放課後はいつも二人で海辺で遊んでいた。
普通小学生が主人公というと、
清く正しく、明るく元気。
そのような紋切り型になることも多いのですが、
この慎一くんは非常にリアルに迷える小学生です。


春也は家で虐待を受けているようです。
そうとははっきり彼も言わないし、
慎一も簡単に同情するような言葉など口にしません。
慎一が密かに心を寄せている少女鳴海は、
はじめ慎一に興味がある風でしたが、
次第に春也に関心を示し始めます。
何気ないふりをしながら、心の底からこみ上げる嫉妬に自分自身でも戸惑ってしまう。
そしてまた、母が密かに男性と会っているのを見てしまう慎一。
小学生の慎一にとって、
母を「女」として見ることは難しい。


グルグルと渦巻く自分の中の暗い思いを
彼は誰にも告げることもできず、
危うい淵に沈み込んでいきます。
子供が無邪気だなんて嘘っぱちですよね。
子供には子供なりの鬱鬱とした思いが確かにあるのでしょう。
そして自分の感情を整理することが大人よりも難しいのだと思います。
そんなところの描写が、いつもながら秀逸。
慎一の、抱え込んだ問題の重さに同調し、
ついこちらまで暗澹とした気持ちになってしまいました。


みんな違う。
―――唐突に、そんな思いが突き上げた。
それはこれまではっきり意識しないまでも、
微熱のようにずっとまとわりついてきた思いだった。
あの人もこの人も、自分とは違う。



世界の中の自分を初めて認識するとき。
こんな感じでしょうか。
母や祖父、親しい友も結局は自分とは相容れない別の人間であること。
それはひどく孤独なことなのですが、
それを認めて初めて人は自立し、
そしてだからこそ他者をも尊重できるようになる。
それが大人になるということなのかもしれません。


やや重いのですが、久しぶりに本らしい本を読んだかなあ・・・
と言う気がします。


「月と蟹」道尾秀介 文春文庫
満足度★★★★☆
コメント
この記事をはてなブックマークに追加

ペーパーボーイ 真夏の引力

2013年08月13日 | 映画(は行)
ドロドロ、ぐちゃぐちゃ、猥雑、野卑・・・だけど。



* * * * * * * * * *

1969年、フロリダ。
問題を起こし大学を追われたジャック(ザック・エフロン)は、
特にすることもなく、父の会社で新聞配達を手伝っています。
そこへ、大手新聞社の記者である兄、ウォード(マシュー・マコノヒー)が、
ある取材のために帰省。
殺人事件で死刑囚となっているヒラリー(ジョン・キューザック)という男に冤罪の疑惑があるため、
調査に来たのです。
ジャックはウォードの調査を手伝うことに。
又そこに、ヒラリーの婚約者であるというシャーロット(ニコール・キッドマン)が現れ、
彼女も調査に加わります。



死刑囚にファンレターを出したり愛を告白するというのは、
「二流小説家」にもありました。
私、そこで知っていなければ、
今作、ワケがわからないままだったかもしれません。
とにかく世の中にはそういうイカれた女がいるということです。
しかし、驚くのはそのイカれ女を演じるのがニコール・キッドマンということ・・・。
いやはや、ものすごい汚れ役なのですが、
これをしれっと演じてしまうのが彼女のスゴイところです。
生唾を飲むシーンあり。
あードキドキした・・・。
いかにもお馬鹿な女風に、化粧がどきつく、このプラチナブロンドはカツラだったりしますが、
最後の方に、わりと素に近い顔のシーンがあり、
ああ、やっぱりこの方がキレイだな・・・と思わせるところも心憎いです。



さて汚れ役といえば、ニコール・キッドマンばかりではありません。
ジョン・キューザック。
死刑囚・・・ですが、イメージではやっぱり冤罪でしょ、と思いますよね。
しか~し!! 
出てきて10秒で、やっぱりこいつが犯人だろ!!と思いますよ。
粗野でいい加減で、誠実のカケラもありそうにない人物だ・・・。


そしてまた、兄のウォード。
知的でスマートなマシュー・マコノヒーですが、
なんと弟も知らない隠れた一面が・・・!!



これだけの豪華メンバーを、よりによってこんな使い方をするとは、
監督、恐るべし。


今作は、陽光きらめくフロリダではなくて、
ワニの住む沼地、暑苦しく、じとじとギラギラのフロリダを映し出します。

なんといいますか、
猥雑、野卑、ドロドロ、ぐちゃぐちゃ、ズブズブ、汚くて、不潔で、臭くて、貧乏・・・
なんだか耐え難い場面の連続なのです。
ではありながらも、力がありますね。
圧倒されて、目が離せない。
う~ん、スゴイものを見てしまった・・・。
脱帽。


本作、結局当初の事件については、謎が解けないままだったりするのですが、
まあ、それもどうでも良くなってしまう、
迫力に満ちた作品でした。
こんな中で、若々しいザック・エフロンの存在が、
一種清涼剤のように救いです。
童貞君ではありますが、彼がまた、スレたワルだったりしたら本作は救いようがありません。
彼の幼い頃に母が家を出たため、
母親代わりに彼を育ててくれた黒人メイドとのやり取りが又、
ちょっぴり心を温めてくれます。


「ペーパーボーイ 真夏の引力」
2012年/アメリカ/107分
監督:リー・ダニエルズ
原作:ピート・デクスター
出演:ザック・エフロン、ニコール・キッドマン、マシュー・マコノヒー、ジョン・キューザック、デエビッド・オイェロウォ

猥雑さ★★★★★
推理★☆☆☆☆
満足度★★★★☆
コメント   トラックバック (7)
この記事をはてなブックマークに追加