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映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ゆきてかへらぬ

2025年02月26日 | 映画(や行)

セピア色の彼方

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大正時代の京都・東京を舞台として、実在の女優・長谷川泰子、詩人・中原中也、
そして文芸評論家・小林秀雄、男女3人の愛と青春を描く物語です。

 

京都。
20歳の新進女優・長谷川泰子(広瀬すず)は、17歳の学生・中原中也(木戸大聖)と出会い、
互いに虚勢を張りながらも惹かれ合い、一緒に暮らし始めます。

やがて2人は東京に移り住み、2人の家に中也の友人、小林秀雄(岡田将生)が出入りするようになります。

小林は詩人・中也の才能を認め、中也も小林に一目置かれることを誇りに思う。
互いを理解した2人の交友には割り込む隙がないようにも思え、
泰子は置き去りにされたような思いも。

しかしやがて小林も泰子の魅力に取り込まれていき、
複雑でいびつな三角関係となっていきます・・・。

3人それぞれ強烈な個性を持っていて、プライドが高い。
でもそれぞれが互いに持つリスペクトも愛も本物で、
でもムキになって争うほどばかでもない。
手が届かなければやせ我慢で、興味ないフリ。
しかしそのことがまた互いを傷つけ合う。
心のベクトルがぐちゃぐちゃにもつれてゆく、切ない物語。

大正ロマンのその雰囲気がスバラシイです。
特に、広瀬すずさんがその存在感を放っています。

「海街diary」の頃から見ている広瀬すずさんが、
こんな役をこなすまでに女優として成長したのだなあ・・・と、感慨にふけってしまいました。
映画女優(当時まだ無声映画ですが)という役柄のためか、
見たことのない着物の着こなし方をしていたのが、ステキでした! 
和装であれ、洋装であれ、この時代のファッションはいいですよね。

中原中也の詩は、おそらく女性なら少女時代にちょっぴり憧れてしまう時期があるのではないかな? 
かくいう私もそうでして・・・。
30歳で夭折。
であるからこそ、その才能が惜しまれてしまうのですね。
でも、中原中也自身のことについてはほとんど知らなかったので、
こんな三角関係があったなどということはこの度始めて知りました。

小林秀雄氏は1983年80歳没。
長谷川泰子さんは1993年88歳没。
お二人とも近年(と思うのは私のような年寄りだけかもだけど)まで生きていて、
中原中也だけがセピア色の歴史の彼方・・・という印象ですね。

 

<TOHOシネマズ札幌にて>

「ゆきてかへらぬ」

2025年/日本/128分

監督:根岸吉太郎

脚本:田中陽造

出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、柄本佑

大正ロマン度★★★★☆

三角関係度★★★★★

満足度★★★★☆


雪の花 ともに在りて

2025年01月29日 | 映画(や行)

医師としての使命に燃えて

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江戸時代末期。

疱瘡(天然痘)は、有効な治療法がなく多くの命を奪ってきました。
福井藩の町医者、笠原良策(松坂桃李)は、
疱瘡の流行の折、なすすべもなく何もできなかったことを悔しく思っていたのです。
ある時、疱瘡に有効な「種痘」という予防法が異国から伝わったことを知ります。

笠原は、京都の蘭方医・日野(役所広司)に教えを請い、
私財をなげうって必要な種痘の苗を福井に持ち込みます。
しかし、天然痘の膿をあえて体内に植え込むという種痘の普及には、様々な困難が・・・。

天然痘の予防法というのはまさに世界を変える画期的なものですね。
でも、それが人々の間で当たり前に受け入れられるまでには、
様々な困難があったことは想像に難くありません。

この時代、種痘はすでにヨーロッパや隣国・唐で普及していたのですが、
鎖国のため日本に入るのが遅れていたわけです。
外国との窓口は長崎のみ。
種痘の苗を入手するにも、まず幕府の許可が必要だし、
実際の輸入と、国内移動にも困難が山ほど・・・。
なにしろ“苗”は生ものなので、普通に物品を運搬するのとは別なのです。

それにしても、役人の事なかれ主義とやる気のなさが第一の障害とはなんともはや・・・。

それでもようやく、福井まで苗を持ち込むことに成功。
しかし今度は、誰も接種しようとしない。
無理解、というよりほとんど恐怖なのは分かる気もしますが。

これらの困難に立ち向かう笠原の物語。
その強い意志こそが美しい。

妻・千穂(芳根京子)は、ただ貞淑な妻ではなくて、
ちょっと強くてカワイイところも気に入りました。

全体を通すと、あまりにも正しくて良作なのが逆に物足りなかったりする・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「雪の花 ともに在りて」

2024年/日本/117分

監督:小泉尭史

原作:吉村昭

出演:松坂桃李、芳根京子、三浦貴大、宇野祥平、坂東龍汰、吉岡秀隆、役所広司

困難度★★★★☆

達成度★★★★☆

満足度★★★☆☆


やすらぎの森

2024年11月15日 | 映画(や行)

世捨て人たちの住むところ

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カナダ、ケベック州。
人里離れた深い森の中にある湖のほとり。
そこで3人の男性老人がそれぞれの小屋で犬と共に暮らしています。
3人はそれぞれの理由で社会に背を向け、世捨て人となったのです。

毎日湖で泳ぎ、絵を描いたりギターをつま弾いて歌ったり、気ままな暮らし。
しかしその、絵を描いていた男が、ある日穏やかに永遠の眠りについてしまったのです。
そんな時から物語は始まります。

1人の老婦人がここへやって来ます。
彼女は少女時代の不当な措置により、精神科療養所に60年以上も入れられ、
外界と隔絶した生活を強いられてきたのでした。

世捨て人たちに受け入れられた彼女は名を捨て、マリーと名乗り、
第二の人生を踏み出し、日に日に活力を取り戻していきます。

しかしそんな時、森の日常を揺るがす緊急事態が・・・。

この地域一帯は、その昔大規模な森林火災があって、
多くの人々が犠牲になった地でもあります。
絵を描いていた老人は、おそらくその時に家族を亡くして、
孤独の淵に沈みながら、焼け焦げた森の絵を描き続けていたのでしょう。

マリーはおそらく霊感が強い人で、子どもの頃そのようなことを口にしたために、
父親に気味悪く思われて精神病院に入れられたということのようなのです。
だから彼女は絵描きの描き残した絵に、強く反応するのです。

それにしても、60年・・・。
人間らしい扱いも受けられず、外の世界を見たこともない・・・。
あまりのことに言葉を失います。

そして世捨て人とはいっても老人同士は気心も知れて、
やはり人と人との絆を求めてはいるわけで。

けれど、なんのために生きるのか、生きているのか。
そうしたことが最後まで生きようとするか、もういいと思うのかの
分かれ目ではあるのですね。

とにかく、この森の奥の老人たちの世界はまずはうまく回っているのです。
ところが、これが外界の現実社会から見ると見方は変わってくる。

森の奥に勝手に住み着いている得体の知れない老人たち。
おまけに、違法薬物の原料である植物を栽培している(これは本当)。
そして、マリーは勝手に精神病者の施設を抜け出したわけで・・・。

どうやらここが安住の地というわけにはいかないらしい・・・。

幸福なのかそうでないのか、よく分らない物語。
それはつまり、見る人それぞれの考え方ということになるのでしょう。

<Amazon prime videoにて>

「やすらぎの森」

2019年/カナダ/126分

監督・脚本:ルイーズ・アルシャンボー

原作:ジョスリーヌ・ソシエ

出演:アンドレ・ラシャペル、ジルベール・シコット、レミー・ジラール、ケネス・ウエルシュ、エブ・ランドリー

世捨て人度★★★★☆

満足度★★★.5


雪の華

2024年10月25日 | 映画(や行)

病気のオンナノコの話

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中島美嘉さんのヒット曲「雪の華」をモチーフとした作品。

余命1年の宣告を受けた美雪(中条あやみ)。
彼女は命のあるうちにフィンランドでオーロラを見ることと、
人生初の恋をするという夢をかなえたいと思います。

そんなある時、美雪はひったくりに遭ったところを悠輔(登坂広臣)という青年に助けられます。
彼はガラス工芸家を目指しつつカフェで働いて、
両親亡き後、弟・妹を1人で養っているのです。
そんな悠輔が、カフェ店の経営危機で100万円を必要としていることを知り、
美雪は100万円を支払うことを条件に、
一ヶ月限定の恋人になってほしいと、悠輔に頼みます。

 

いつも言っているのですが、私は病気の女の子の話が苦手です。
どうしたってお涙ちょうだいで、
最後も想像がついてしまうワンパターンにならざるを得ないので。

そう分っているのに、また見てしまった・・・。
まあ、仕方ない。
中条あやみさんの美雪、カワイイですもんねえ・・・。
余命1年というには元気すぎる気がしましたが・・・。

100万円もらって、恋人のフリをしてほしいと言われたら、やっぱり引き受けますよね。
しかも可愛い子なら。
これがどう見ても自分の好みではない子だったり、
ものすごく年上のバーサンだったりしたらどうなのかな?とは思いました。
プロのホスト根性のある人なら誰でもOKなのかも。
いや、本物のホストなら100万円どころかもっと貢がせて搾り取ることでありましょう。
100万円で済むならラッキー。

スミマセン、どーでも良いこと考えてしまった。
つまり、病気の女の子とは、若きカワイコチャンでなければダメと言うことで、
そうじゃなきゃ話にならないと言う私のひがみ根性の話でありました・・・。

まあつまり、やはり始めからラストが想像ついてしまうし、
まさにその通りのストーリーではありましたが、
それなりのムードはでていたのでヨシとしましょう・・・。

 

それと、フィンランドの寒さなめてるな、と、北海道育ちの私は思ってしまった。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「雪の華」

2019年/日本/125分

監督:橋本光二郎

脚本:岡田惠和

出演:中条あやみ、登坂広臣、高岡早紀、浜野謙太、田辺誠一

病気の女の子ストーリー度★★★★☆

満足度★★★☆☆


ゆとりですがなにか インターナショナル

2024年05月01日 | 映画(や行)

トホホな男たち

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2016年日本テレビ系列で放送された連続ドラマ「ゆとりですがなにか」の映画化です。
私、TVドラマは楽しんで見ていまして、
この映画作品も見たいと思っていましたが、見そびれていた次第。

「野心も競争意識も協調性もない」と揶揄されてきたゆとり世代。
今はおよそ30代半ば。

夫婦仲も家業の酒屋もうまくいかない坂間(岡田将生)。

いまだに女性経験ゼロの小学校教師、山路(松坂桃李)。

中国での事業に失敗して帰国したフリーター、まりぶ(柳楽優弥)。

実のところストーリーも忘れかけていましたが、見ているうちに思い出しました。
つまりこの3人、相変わらずなのです。
この3人のその後、現在のストーリー。

働き方改革のこと、テレワークのこと、多様性のこと、グローバル化のこと・・・。
まさに「今」のあれこれの問題を絡めながら描かれるトホホな男たちの物語は、
笑いながらも見入ってしまいます。
この3人の名優のこんなトホホ姿を見られるのも本作ならでは。

坂間と結婚した茜さん(安藤サクラ)もまた同世代ですが、
とにかく痛快な彼女も大好きです!

ノンアルコールの日本酒なんて・・・あったらぜひ飲んでみたい。

題名に「インターナショナル」と銘打っているのもダテではなくて、
今や韓国や中国との関係無しには語れない日本のことも言っています。
そして多様性。
そもそも彼らの生き方自体が多様性として認められる・・・。
やっと時代が彼らに追いついてきたのかも。
けれどその彼らも、今時のZ世代にはタジタジになってしまうという・・・。

 

「ゆとりですがなにか インターナショナル」

2023年/日本/116分

監督:水田伸生

脚本:宮藤官九郎

出演:岡田将生、松坂桃李、柳楽優弥、安藤サクラ、仲野太賀、吉岡里帆

 

世相を表わす度★★★★★

満足度★★★★☆


山女

2024年03月13日 | 映画(や行)

あきらめることしかなかった人生

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重厚です。

18世紀後半の東北。
冷害による飢饉で苦しむ村。

凜(山田杏奈)の家は、曾祖父が火事を起こしたことから、
田畑の大半を奪われ、村の汚れ仕事を引き受けながら、蔑まれて生きています。
父や弟、自分にはなんの責任もないことながら、
村の中で酷い差別をずっと受け続けているのです。

そんな凜の心の支えは、盗人の女神様が宿るといわれる早池峰山。

ある時、盗みを犯した父が村人から責められているのを見た凜は
とっさに、それは自分がやったと言って、父を庇います。
そして家を守るため自ら家を出て山に入ります。
決して越えてはならないと言い伝えられている山神様のほこらを越えて、さらに山奥へ。
そこで凜は、人間なのかもよくわからない、
不思議な存在<山男>(森山未來)と出会います。

さてそんな時、村ではいよいよ食べるものも枯渇。
占いのばあさまの言葉を信じて、
天候回復のために、乙女を生け贄に捧げる相談がまとまります。
そこで凜が候補に挙げられ、山に入った凜を人々が探しに来ます。

山に入って、仙人のような暮らしをしている謎の男と出会ってからの凜は、
これまでの人生の中で最も幸せなときであったでしょう。
山男は、何も言葉を発しないのですが、やさしく凜に寄り添ってくれる。
何も強制はしない。
・・・しかし穏やかなこんな暮らしは長くは続かず、
凜を探す者たちによってあっけなく打ち砕かれてしまいます・・・。

そんな悲惨な運命をも、ただ黙って受け入れる凜。
彼女の人生にはあきらめしかなかったかのようです。

こんな彼女に、救いはあるのか・・・?
じっくり最後まで見届けてください。

 

<WOWOW視聴にて>

「山女」

2022年/日本・アメリカ/100分

監督:福永壯志

脚本:福永壯志、長田育恵

出演:山田杏奈、森山未來、二ノ宮隆太郎、三浦透子、永瀬正敏、でんでん、品川徹

 

困窮度★★★★★

満足度★★★.5


夜明けのすべて

2024年02月13日 | 映画(や行)

生きにくい事情のある2人

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PMS(月経前症候群)のため、月に一度イライラが抑えられなくなり、
人に攻撃的になってしまう藤沢(上白石萌音)。
ある時、会社の同僚、山添(松村北斗)に対して、
怒りを爆発させてしまいます。
山添は転職してきたばかりなのに、
炭酸水を飲んでばかりでいかにもやる気がなさそうなのです。

実は、そんな山添はパニック障害を抱えていて、
そのため転職せざるを得なくなってここに来て、
生きがいも気力も失ってしまっているのでした。

2人は互いにそのことを打ち明けあい、
しだいに自分の症状は改善できなくても、相手を助けることはできるのではないか
と考えるようになります。

恋人でも友達でもない、いわば同士の2人。
生きにくさを抱える人々がほんの少し寄り添って支え合う。
そういうドラマです。

私も実はPMSのことはよくわかっていませんでした。
症状や程度はもちろん人それぞれなのでしょうが、
この藤沢さんのようなケースもあるということですね。
確かに、普段控えめで大人しい人がある時突然切れて怒鳴り始めたら
大抵は引いてしまって、変な人というレッテルを貼られてしまう。
藤沢さんもそのためこれまでずいぶん職を変えているのです。

2人のいるこの職場は子供向けの光学機器を組み立てるような
小さな会社なのですがアットホーム。
皆は2人のこの症状のことを聞いてはいないのですが、
2人の症状が出たときにも実にさりげなく対処して、
その後もわだかまりがありません。

実はこっそり聞かされていた・・・?と思うほどなのですが、
こんな風に、いろいろな人がいていろいろなことがあるよねえ・・・と、
さらりと受け止められたらいいですね・・・。
それであれば逆にカミングアウトももっと気安くできるのかも知れません。

そしてまた、2人が仕事でプラネタリウムの解説文を考えていくという
サイドストーリーがいいのです。
果てしない宇宙のことと、このちっぽけな地球上の人々の暮らしのこと。
そんな中でささやかに生きていることの意味を思ってしまいます。

ここで2人には特に恋愛感情は芽生えません。
朝ドラ「カムカムエブリバディ」では夫婦を演じていたお二人。
でも本作は、男女に関わりなく、人と人としてわかり合い支え合うことを
あくまでも伝えたかったのでしょう。

良き物語でした。

松村北斗さんは、先の「キリエのうた」もそうでしたが、
良い役に就きますよねえ。

実は私は、目黒蓮さんにもこういう役をしてほしいのです。
彼の力量を十分に発揮できる作品に・・・。

 

<シネマフロンティアにて>

「夜明けのすべて」

2024年/日本/119分

監督:三宅唱

原作:瀬尾まいこ

出演:松村北斗、上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、りょう、光石研

 

生きにくさ★★★★☆

満足度★★★★★


山のトムさん

2023年12月08日 | 映画(や行)

ナチュラルな暮らし

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WOWOWのオリジナルドラマです。
石井桃子さんが戦後宮城県鶯沢で送った
開墾生活を題材に綴った回想記を元にしたもの。

 

東京で暮らしていた文筆業を生業とするハナ(小林聡美)が、
田舎で生活を始めた友人トキ(市川実日子)の元にやって来ます。

トキは小学生の娘とともにここへやって来て、
近所の人に教えてもらいながら農業を始めているのです。
ハナは、中学を卒業したばかりの甥っ子・アキラとともに、
しばらくここで野菜作りを手伝いながら共に暮らすことに。

古い家なので、近頃ネズミが出て困っていて、
子猫を飼うことになり、トムと命名。
4人と一匹の田舎暮らしが始まります。

原作は少し古い時代の話のようですが、本作は現在。

アキラの事情は詳しくは説明されませんが、
どうやら中学で不登校となり、高校進学もやめて、叔母に伴ってここへやって来たようです。
彼は慣れない田舎暮らしで、戸惑いもあるようですが、
彼なりに仕事を手伝い、ヤギの世話などもするようになって
少しずつ心の成長を遂げて行くようではあります。

が、本作中で意欲を取り戻して将来の進路を決意、
などというところまでは描かれません。
ですが私は、そこがいいなあと思います。
周囲の人も彼のことをあれこれ詮索はしないし、
あるがまま、気が向けばここを出ていってもいいし、
やりたいことが見つかればやってみればいい。
学校とか就職とか、一般の枠にあえてはまる必要はない、というのがいいです。

 

野菜を作り、鶏を飼い、ヤギを飼って、ネズミはネコに任せて・・・。

のどかな田舎暮らしに見えるけれど、実際は大変だろうなあと思います。
野菜作りは自分の家で食べる分くらいのようでしたし、
趣味ならともかく、それで生活は成り立つのか?
そこが知りたいところではあったのですが・・・。
ま、現実的なことはこの際考えないことにして・・・。

ほっこり田舎暮らし。
心が和みます。

 

子猫は抱っこするとネズミを捕らなくなるので、絶対に抱っこしてはダメ、
と地元の人に言われるのですが、
可愛い盛りの子猫を抱っこしないでいられるわけがありません。

皆それぞれ、こっそり抱っこして楽しんでしまったのですが、
トムは無事ネズミをとるようになりました!!
めでたし!

 

「山のトムさん」

2015年/日本/116分

(WOWOWドラマW)

監督:上田音

脚本:群ようこ

出演:小林聡美、市川実日子、光石研、高橋ひとみ、もたいまさこ、伊東清矢

 

ナチュラルな暮らし度★★★★★

満足度★★★☆☆


夕霧花園

2023年10月18日 | 映画(や行)

荒れ果てたかつての日本庭園で

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舞台はマレーシア。
戦中1940年代、戦後50年代、80年代と、三つの時間軸で構成されます。
亡き妹の夢だった日本庭園作りに挑むマレーシア人女性と日本人庭師の物語。

80年代。
マレーシアで史上二人目の女性裁判官となったユンリン。
さらなるキャリアアップを図ろうと奮闘しています。
そんな時、かつて愛した日本人庭師・中村(阿部寛)が、
終戦時、日本軍が埋めたとされる埋蔵金にまつわるスパイ容疑をかけられていることを知り、
彼の潔白を証明するため、かつての彼との出会いの地を訪れます・・・

1940年代、マレーシアは日本軍に支配され、
ユンリンと妹は捕らえられ、日本軍に過酷な労働を強いられていました。
そして妹は若い女性として、さらに過酷な運命にさらされてしまう。

辛くも生き延びたユンリンはその後50年代、
日本人戦犯の裁判などにも関わる地位を得ていました。
そんな精神的にも金銭的にも落ち着いてきた彼女が、
亡き妹が憧れていた日本庭園を造りたいと、日本人庭師中村有朋の元を訪ねるのです。
しかし有朋は依頼を拒否。
自分で覚えて作ればいいと、無理矢理彼女を弟子にしてしまいます。

有朋というのは戦前から戦後の今までこの地に残っている謎の人物。
何でも天皇家に仕える庭師をクビになったのだとか・・・? 
一見穏やかそうである彼は造園には酷くこだわりをみせて、
同じ石を気に入るまで移動させたり向きを変えたり・・・。
そして背中には美しいタトゥー。
彼自身も彫り師でもあり、ユンリンの背にも彼自身の図案で美しいタトゥーを施します。

80年代の今、あの時美しかった中村が住んでいた家も今は荒れ果てて廃屋同然。
庭ももちろん、深い草に覆われています。
あの時、突然姿を消してしまった有朋とのあれこれを思い返しながら、
家の周囲や残された書類などを調べるユンリン。

そして、彼女は一つの驚くべき事実に気がつくのです。

時を経て、有朋が残した謎を解き明かすという、かすかにロマン漂う作品。
日本庭園と有朋の底に秘めた神秘性・・・静かな雰囲気に満ちています。

戦中の出来事を、日本人ではない視点で描いているこの作品。
そういう所も興味深いです。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「夕霧花園」

2019年/マレーシア/120分

監督:トム・リン

原作:タン・トゥアンエン

脚本:リチャード・スミス

出演:リー・シンジエ、阿部寛、シルビア・チャン、ジョン・ハナー、ジュリアン・サンズ

 

日本庭園の神秘度★★★☆☆

時と人のロマン度★★★★☆

満足度★★★★☆


四畳半タイムマシンブルース

2023年09月28日 | 映画(や行)

リモコンの行方

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森見登美彦さんのベストセラー小説「四畳半神話大系」と
劇団ヨーロッパ企画の人気舞台「サマータイムマシン・ブルース」がコラボレーションした
小説「四畳半タイムマシンブルース」をアニメ化したもの。

「サマータイムマシン・ブルース」は、実写映画化されたこともあって、私は大好きでした!

大学生「私」が暮らす、京都左京区の古びた下宿、下鴨幽水荘。
ある夏の日、唯一のエアコンのコントローラーが、
悪友・小津のために故障して使えなくなってしまいます。
そんなところへ、見知らぬ男子学生・田村が現れ、
25年後の未来からタイムマシンでやって来たといいます。
「私」はタイムマシンで昨日の夜に戻り、
壊れる前のリモコンを持ってくればいいのではないかと思いつきます。
しかし、小津たち悪友仲間が過去へ戻り、
勝手気ままに過去を改変してしまう。

そもそも、過去を変えるということは時空にひずみが生じ、宇宙の消失にまで繋がるのでは・・・?!
なんとか、つじつまを合わせ、過去と現在の齟齬が乗じないように悪戦苦闘する「私」たち。

・・・という大まかなストーリーに加えて、
「私」のマドンナ・明石さんへの儚い思いの行方も楽しめます。
そして、リモコンの壮大な時空の旅もまたよし。

アニメの雰囲気もまた、カンペキな森見登美彦ワールドを体現していまして、
言うことなし。

<WOWOW視聴にて>

「四畳半タイムマシンブルース」

2022年/日本/92分

監督:夏目真悟

原作(著):森見登美彦

原案・脚本:上田誠

出演(声):浅沼晋太郎、坂本真綾、吉野裕行、本多力、上田誠

 

SF度★★★★☆

森見ワールド度★★★★★

満足度★★★★☆


野球部に花束を

2023年08月29日 | 映画(や行)

高校野球にエールを送る作品!

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中学での野球部生活を終え、高校は自由に楽しくすごそうと茶髪で入学した黒田。
ところがうっかり野球部の見学に参加して、なぜか入部することになってしまいます。
新入生歓迎の儀式で無理矢理バリカンを当てられて、坊主頭に逆戻り・・・。

鬼監督の原田(高嶋政宏)や、後輩を奴隷のように扱う先輩部員の元、
過酷な日々が始まります。
強豪ではないが、弱小でもない、ごく普通の高校野球部の真実を描きます・・・。

 

まさに、体育会系の見本。
ヤクザの組長のような、妙に威張って言いたい放題、やりたい放題の監督。
3年はそんなヤクザの幹部。
2年は、普通に組員ですがいわば中間管理職。
上からも下からも突き上げを喰らう。
そし11年は、いわれたことは絶対服従の奴隷というわけ。

一年から見ると3年は皆ヤクザのおっさんにしか見えない、ということで
3年が皆、小沢仁志さんの顔になっているのには笑えました。

こういうとこ。
野球部のこういうイメージがどうもねえ・・・と、私は常に思っているのですが、
だがしかし、本作を見ていくと、
こんな中でも育まれていくチームワークやら、心の成長やらも
ちゃんとあることに心地よさを感じ始めます。

まあ少なくとも、理不尽なしごきやらいじめっぽい所はないストーリーなので。
そしてあの傲慢な監督も、実はよく生徒たちを見ていて、
面倒見も良かったりするわけで・・・。

時々「高校野球部あるある」の話が紹介されるのも楽しい。

こんな中でもまれながらも、一年生たちは少しずつたくましく成長し、
チームワークを結び、時には恋さえしてしまう。
そんな彼らをとても楽しく見させてもらいました。

ちょうど甲子園の大会が行われていたところ。
坊主頭の規定はなくて、ヘルメットをとるとさらさらヘアが風になびくなどと、
新たな高校球児のスタイルも出てきましたねえ。
良いのではないでしょうか。
なんなら茶髪でも。

<WOWOW視聴にて>

「野球部に花束を」

2022年/日本/99分

監督・脚本:飯塚健

原作:クロマツテツロウ(コミック)

出演:醍醐虎汰朗、黒羽麻璃央、駒木根隆介、市川知宏、高嶋政宏

 

高校野球の真実度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


よだかの片想い

2023年07月09日 | 映画(や行)

コンプレックスとアイデンティティ

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理系の大学生、前田アイコ(松井玲奈)は、顔の左側に大きなアザがあります。
そのために人間関係や自己形成に複雑な影響を受けているアイコは、
恋や遊びはあきらめ、研究一筋に打ち込む毎日。

ところがある日、「顔にアザや怪我を負った人」の
ルポタージュ本の取材を受け、話題となります。
そして、その本を映画化したいという映画監督・飛坂(中島歩)と会うことになり、
次第に彼の人柄に惹かれていきますが・・・

題名の「よだか」は、宮沢賢治の「よだかの星」から来ていて、
そこでよだかはたいそう醜い鳥とされているのです。
そこで大きなアザのあるアイコが、よだかを自分と重ね合わせてもいるのでしょう。

自分の生まれついての顔のことで、それはそれとして受け入れているけれども、
人からかわいそうだとか哀れみの視線を受けるのがイヤだと彼女は思っているのです。

そんなことは特に大きな問題ではなくて、アイコをアイコ自身として受け入れてくれる人々、
例えば研究室内の人々や、先輩、そして飛坂とともにいるときに、
アイコは安らぎを感じるのです。

だからまっすぐに自分を見つめてくれる飛坂を好きにならない方がおかしいですよね。

しかーし、確かに飛坂は実にイイ奴なのだけれど、
仕事熱心なあまり、恋人を大事には扱わない。
もしかすると、映画化を承諾させるために自分と付き合ってくれているのかな・・・?
とそんな疑問も湧き出てしまうアイコ。
そしてまた、飛坂のモトカノの登場で、アイコは平常ではいられなくなってしまう・・・。

自分の持つコンプレックスと、自分が自分らしく在ること、
その二つが葛藤するドラマなのでしょう。
あの「よだか」が、鷹に「名前を変えなければ殺す」といわれるのだけれど、
名前こそが自分自身の証であるわけだから、
よだかは名前を変えようとはしないわけなんですね。

手術でアザを消すことができると言われたときのアイコの迷いと、
ここは重なります。

貴重な物語でした。
あ、原作が島本理生さんなので、物語はよくて当然。

青木柚さん演じるアイコの後輩くんがステキでした。
なんて淡々とした愛情表現。
でも、そういうのもアリだよなあ・・・と。

 

<WOWOW視聴にて>

「よだかの片想い」

2021年/日本/100分

監督:安川有果

原作:島本理生

脚本:城定秀夫

出演:松井玲奈、中島歩、藤井美菜、青木柚

 

自己発見度★★★★☆

満足度★★★★☆


夜、鳥たちが啼く

2023年06月17日 | 映画(や行)

結婚していないのに家庭内別居

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私、佐藤泰志さん原作の作品は見逃さないようにしていたつもりなのですが、
本作、見損ねていたようです。

若い時に、とある賞を受賞したけれど、その後鳴かず飛ばずの作家、慎一(山田裕貴)。
同棲していた恋人に去られ、鬱屈した日々を送っています。
そんなところへ、慎一の友人の元妻・裕子(松本まりか)が
幼い息子アキラを連れて引っ越してきます。
慎一は、恋人と暮らしていた家を母子に提供し、
自身は離れのプレハブで寝起きすることに。

自身の体験や心情を元に小説を描く慎一は、自分の身を削るように文章を綴ります。
夜な夜なパソコンに向かい、もがき苦しむ毎日。
一方、裕子はアキラが眠ると町へ繰り出し、男たちと夜を過ごしていました。
2人は互いに深入りしないよう距離を保っていましたが・・・。

本作は、この売れない作家・慎一と、原作者・佐藤泰志さんが、
かなり重なっているのかもしれない・・・と思いながら見ました。

あんな風にして、浮かばない言葉を無理矢理のように生み出しながら、
著者も著作を続けていたのかなあ・・・などと。
自分の奥底の暗い部分としっかり向き合わなければならないのは、
つらいことだと思います。

さて慎一は、親しくしていた友人一家の離婚に当惑しつつ、
行き場を失った元妻と息子に家を提供したのでした。
しかし、その元妻が松本まりかさんと来れば、
何もないわけがないじゃありませんか!!

極力、深入りしないようにしていた2人だけれど、やはり次第に接近していく。
無邪気に親しみをみせる子供のために、
食事を共にしたり、たまにどこかへ遊びに出かけたり・・・と、
まだ何もない2人ではあっても、形の上で「家族」のようになってしまうのです。

けれど、なし崩しになれ合った関係になりたくはない2人。
そんな2人は自分たちのことを「結婚していないのに家庭内別居」と呼びます。
人と人との関係のあり方は様々。
特に近年は・・・。
むしろこういう方が、長く続くような気もします。

そして、私小説的な話であっても、必ずしもネガティブなものでなくてもよいのでは?
という気もしてきました。
先のことを考えすぎずに、成るようになる、ということでも。

<Amazon prime videoにて>

「夜、鳥たちが啼く」

監督:城定秀夫

原作:佐藤泰志

出演:山田裕貴、松本まりか、アキラ、中村ゆりか

 

家庭内別居度★★★★☆

満足度★★★★☆


湯道への道 「湯道」アナザーストーリー

2023年03月25日 | 映画(や行)

映画「湯道」ができるまで

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先に見た映画「湯道」のスピンオフドラマ。
Prime videoオリジナルです。

「湯道」より前の出来事・・・。

 

400年続く「湯道」最後の家元である梶山(窪田正孝)。
しかし今は弟子もおらず、もう続けていく望みもない。
もうこのまま死んでしまおうと思った矢先、
たまたま忍び込んだペテン師・安藤(生田斗真)に救われます。
なんとか「湯道」を世間に知ってもらうためにどうすればいいのか? 
二人は考えるのですが、その結果が映画。
織田信長も関係するという「湯道」の歴史を映画にすればよいのでは?
ということで、まずはスタッフ集め。

映画のためには、音声、照明、撮影、美術、脚本、監督、プロデューサー、
最低この7人がいればいいと言うのです。
そこで集まったのはすでに現役を引退した映画人たち4人。
パワハラが原因で自分の殻にこもってしまった脚本家女子1名。
足りない監督を梶山、プロデューサーを安藤が務めることにして、
よって、「7人の侍」が結集。
しかし、なんと資金のことを考えていなかった!

「湯道」の話のはずが、いつの間にか「映画道」みたいになってくるのですが、
そこがメチャメチャ面白い。
様々な名画(和洋問わず)の懐かしのシーンのオマージュが登場したりします。

ぜひぜひ「湯道」と合わせてご覧ください。
やはり、本編映画の方を先に見ることをオススメします。

<Amazon prime videoにて>

「湯道への道  『湯道』アナザーストーリー」

2023年/日本/126分

出演:生田斗真、窪田正孝、中村アン、六平直政、正名僕蔵

 

ユーモア度★★★★☆

映画愛度★★★★☆

満足度★★★★☆


湯道

2023年03月17日 | 映画(や行)

いい湯だなあ~

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この日の劇場視聴2本チョイスが、
「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」と本作。
全く異質の2本。
「エブリ~」はちっとも楽しめなかったのですが、
本作ですっかりまったりとくつろぎつつ感動し、満足感に浸って帰途につくことができました。
最近、めっきり邦画の方が体に合う気がします。
そういえば、「日本アカデミー賞」がらみの作品ならほとんど見ているなあ・・・。

さて、本作。

亡き父が残した実家の銭湯「まるきん温泉」に戻って来た、
建築家の三浦史朗(生田斗真)。
店は、弟の悟朗(濱田岳)が切り盛りしており、
住み込みの従業員・いづみ(橋本環奈)と共に、忙しく働いています。

そんな弟に史朗は、銭湯をたたんでマンションに建て替えるべきだと言うのですが、
弟は聞く耳を持ちません。

そんなある日、ボイラー室でボヤが起こり、悟朗が数日間入院することに。
いづみの勧めがあって、史朗が弟に変わって数日間
銭湯を切り盛りすることになりますが・・・。

 

ここの銭湯は、井戸水をくみ上げて、薪で焚いているのです。
代々受け継がれたここのやり方。
しかし今時、銭湯の客は減る一方。
燃料費は高く、やりくりが大変と言うのはよく聞くところです。

史朗は実のところ建築家としての仕事も行き詰まっていて、
やむなくここに帰ってきたのは、
この銭湯をたたんでマンションを建てることで、自身の生活を立て直そうと目論んでいたから。

しかし悟朗は、出ていったきり父の葬儀にも顔を出さなかった兄に怒りを感じ、
意地でここを続けようと思っている。

こんな2人の感情を軸に、銭湯の常連さん達のお風呂愛、
そしてまた、「湯道」として入浴の作法を極め、
世に残し伝えようという一門のことが描かれます。

コミカルで、そして思わず泣ぐんでしまう人情話も盛りだくさん。
実に、いい感じの作品でした。

すっかり身も心も温まって、
最後にはフルーツ牛乳なんかが飲みたくなってしまいました!!

<シネマフロンティアにて>

「湯道」

2023年/日本/126分

監督:鈴木雅之

脚本:小山薫堂

出演:生田斗真、濱田岳、橋本環奈、小日向文世、天童よしみ、クリス・ハート、窪田正孝、柄本明

 

お風呂愛度★★★★★
人々の絆度★★★★☆
満足度★★★★.5