映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

トト・ザ・ヒーロー

2015年01月21日 | 映画(た行)
幸も不幸も本人次第



* * * * * * * * * *

老人ホームで暮らすトマ老人は、
自分は産院の火事の時に裕福な隣家・カント家の
アルフレッドと取り替えられたと信じています。
本作はこの現在のトマ、そして彼の少年時代と青年時代の回想からなっています。


優しい父母と家族、
そう裕福ではないものの、幸せな子供時代でした。
しかし父が事故で亡くなってしまいます。
また、彼は異常なくらいに姉アリスを慕っていました。
美しく、どこかエキセントリックな姉。
しかしその姉も、少女のまま亡くなってしまうのです。
こんなはずではなかった。
こんな人生は間違っている。
現実を受け入れたくない彼は、
ますます自分の創りだした「出生の秘密」にのめり込んでいったのではないでしょうか。
大人となったトマは、どこか姉と面影がよく似たエヴリーヌという女性に惹かれます。
しかし彼女は人妻で、しかもその夫は・・・!


自分の幸せであるべき人生を、アルフレッドがすべて盗んでしまったのだ。
そう思い込んだトマは
アルフレッドに復讐するため老人ホームを抜け出し、
アルフレッドに会いに行きます。
しかし、そこで出会ったアルフレッドは
自分以上に老い、疲れているように見えます。
そしてトマは彼から意外な言葉を聞くのです。


トマ程ではないにしても、
誰しも今の自分は間違ったすがたで、
本当はもっと幸せなはずだった。
誰かのせいで、または何かのせいで、
こんな境遇に陥っているのだ・・・
そんな空想をすることがあるのではないでしょうか。
あるいは、あの時、あんなふうにしていれば。
あの時、あちらの道を選んでいれば・・・と、
ありえたかもしれない別の人生を想像してみたり。


けれども、そんな人生ではあるけれど、
これがまた他の誰かから見れば、
独身で自由で、しかも平穏という、羨むような人生だったりする。
人はどこまでも貪欲で、自分ばかりが不幸に思え、
他人がみな幸せのように見えてしまう。
本作ではでも、最後の最後にトマがそのことを思い知るところがいいですね。
かつて幸せだった、父がいて姉がいた頃の思い出を見た時、
彼は初めてカント家の生まれでなくてよかったと思ったのかもしれません。
1時間半ばかりの作品ではありましたが、
私達はそこに紛れもない一人の男の「人生」を観るでしょう。
幸も不幸も結局は本人次第・・・なのかな。

トト・ザ・ヒーロー [DVD]
ミシェル・ブーケ,ジョー・ドゥ・バケール,ミレイユ・ペリエ,トマ・ゴデ,サンドリーヌ・ブランク
角川書店


「トト・ザ・ヒーロー」
1991年/ベルギー・フランス・ドイツ/92分
監督・脚本:ジャコ・バン・ドルマル
出演:ミシェル・ブーケ、ジョード・バケール、トマ・ゴデ、ギーセラ・ウーレン、ミレーユ・ペリエ、サンドリーヌ・ブランク
人生度★★★★★
満足度★★★★☆