映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「信長協奏曲 20」石井あゆみ

2020年10月31日 | コミックス

先行きが待たれすぎて・・・

 

 

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武田を滅ぼし、天下統一に王手をかけると、ますます一体感を強める織田軍。
しかし秀吉・秀長ら率いる羽柴勢はいよいよ怪しさを増している。
とき丸はおゆきを制止し、たった一人で羽柴陣営に乗り込むが……

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えーと、もう20巻になるのですね。
率直に言って、もう、あれこれ細かいことはいいから、早く肝心のシーンに行ってよ・・・
と言う気がしてきました。
時間稼ぎで引き延ばしている感じがしてしまうもので・・・。

 

まもなく・・・のようではあるのですが、いつになったら本能寺の変にたどり着くのか・・・。
やはり、いちばんの危険人物は、秀吉の弟、秀長のようです。
このあたりがどこでどう転んで本能寺の変に結びつくのか。

信長に全幅の信頼を置いている家康くんについては、まあ、納得なのですが。
彼が未だにサブロー信長からもらったエロ本を大切にしていた、という下りはナイスでした。

次巻はもう少し進展があることを願いつつ・・・

 

「信長協奏曲 20」石井あゆみ ゲッサン少年サンデーコミックス

★★★☆☆

 


スパイの妻 劇場版

2020年10月30日 | 映画(さ行)

意外な展開が心地よい

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2020年6月NHK BS8Kで放送された同名ドラマを、
スクリーンサイズ、色調を新たに劇場版とした・・・とのこと。
そしてまた、第77回ベネチア国際映画祭コンペティション部門で、
銀獅子賞(最優秀監督賞)を受賞したものでもあります。

それでやはり注目を浴びていたわけなのでしょう、
私の予想外に、劇場はほぼ満席。
「鬼滅の刃」じゃないのに! 
しかもすでに映画館は座席を一つおきではなくて、全席使用だったので、
ちょっと焦りました・・・。

 

1940年、というので太平洋戦争前夜あたりということになります。
福原優作(高橋一生)は、満州で恐ろしい国家秘密を偶然知ってしまいました。
優作は、正義のためにそのことを世に知らしめようと決意します。
夫が反逆者と疑われる中、妻・聡子(蒼井優)は、
たとえスパイの妻と罵られようと、愛する夫を信じ、共に生きようとしますが・・・。

優作が知ってしまったのは、関東軍が現地人に対して行っている恐ろしいある「実験」。
それを表沙汰にすることは、スパイというよりも、反逆罪ということになりますね。
彼を追い詰めるのは、かねてからこの夫婦と交流のあった憲兵隊の男(東出昌大)。
東出さん、一見優男そうに見えて底知れない冷淡さを持つ感じ、とてもよかったです。

本作中、二度ほど意外な展開があるのです。

妻は、夫を軍に売ったのか?

妻は、計画をやり遂げることができるのか?

ストーリーは、鮮やかに見る者の予想を覆し、ナイスな着地を見せます。
このあたりが、実に満足度高いですね。
奔放で自分の意見を持つ女性聡子も魅力的です。
思い切り大胆で、ハッとするところも・・・。
が、さらに一枚上手を行く夫。
カッコイイわー。

<シネマフロンティアにて>

「スパイの妻 劇場版」

2020年/日本/115分

監督:黒沢清

出演:蒼井優、高橋一生、坂東龍汰、東出昌大、笹野高史

 

意外な展開度★★★★★

時代再現度★★★★☆

満足度★★★★.5


星屑の町

2020年10月29日 | 映画(は行)

おかしくて、ほろ苦い

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地方回りの売れないムード歌謡コーラスグループ「山田修とハローナイツ」の悲哀を描く
舞台「星屑の町」シリーズの映画化です。
私、この舞台を一度見たことがありまして、
とても面白かったので、映画もぜひ見ようと思った次第。

「ハローナイツ」は、大手レコード会社の元会社員・山田修(小宮孝泰)をリーダーに、
歌好きの飲み仲間や売れない歌手が集まって結成されました。
しかし、ろくなヒット曲もなく十数年・・・。
今はベテラン歌手・キティ岩城(戸田恵子)と、地方を回りながら、
細々と活動を続けているのです。

さて本作で、彼らは修の故郷・東北の田舎町での巡業にやって来ます。
修は地元で農家を継いだ弟(菅原大吉)と、何かわだかまりがありそう。

そして、この町で母が営むスナックを手伝いながら歌手になることを夢見ている愛(のん)が、
ハローナイツに入りたいと言い出すのです。

東北の町でなまり丸出しの女の子(のん)が歌手を目指す・・・。
むちゃくちゃ「あまちゃん」を意識した感じがしますが、
まあ、とくに深いつながりがあるワケではありません。
彼女をメンバーに加えるべきやいなや・・・、
ごちゃごちゃと相談するメンバーたちの言い分が面白い。

しかし、おじさんたちと若い女の子のグループというのは、
かなり昔の「ピンキーとキラーズ」くらいしか思い当たりません。
意外とこれ今、いいのではないかと本作を見ながら思いました。
ただし、ムード歌謡ではなくてもう少し今風の何か・・・。
おじさんたちはダンスについて行けなさそうですけど。

このシリーズ全体に流れる、おかしいけれどもちょっとほろ苦い、いい話。
嫌いな人はいないのでは?

 

<Amazonプライムビデオにて>

「星屑の町」

2020年/日本/102分

監督:杉山泰一

原作・脚本:水谷龍二

出演:大平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、のん、菅原大吉、戸田恵子

 

満足度★★★★☆


「ふたご」藤崎沙織

2020年10月27日 | 本(その他)

魂のふたご

 

 

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「お前の居場所は、俺が作るから。泣くな」
ピアノだけが友達の孤独な少女の夏子は、異彩の少年・月島と出会い、
振り回され、傷付きながらもその側にいようとする。
やがて月島は唐突に「バンドをやる」と言い出した。
彼は、夏子の人生の破壊者でも創造者でもあった。
大切な人を大切にすることが、こんなに苦しいなんて--。
異彩の少年に導かれた孤独な少女。
その苦悩の先に見つけた確かな光。

直木賞候補となったSEKAI NO OWARI Saori、鮮烈なデビュー小説。

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SEKAI NO OWARI のSaoriさんの著作、ということで。

フィクションには違いありません。
けれど、バンドをはじめる少年少女のストーリーは、
あまりにもSEKAI NO OWARIを彷彿とさせるので、どこまでか事実で、そうでないのか・・・
などと、しなくてもいい勘ぐりをしてしまうことが、
逆にこの本作にとってはマイナスになってしまっているのかもしれません。

 

夏子が出会い、いつも振り回されてしまう少年・月島は、
実にぐだぐだでいい加減。
学校へ行かなくなったと思えば、突然アメリカへ留学。
しかしすぐに挫折して戻ってきてしまう・・・。

「何で普通にきちんと頑張れないのか・・・」と、夏子はつい思ってしまうのだけれど、
「頑張れた方がいいに決まっているけど、それができない」のが月島。
夏子は、そんなだから自分がついていてあげなければならない、
などという母性本能を見せたりはしません。
ただそんな月島の中に自分にとって大切な何かを見て、
そばにいたいと思う・・・。
そんな気持ちとても、月島には届いているのやらいないのやら・・・。

「ふたご」というのはつまり、魂の形が「ふたご」のようなのでしょう。

本来の「愛」の物語なのかもしれません。

 

「ふたご」藤崎沙織 文春文庫

満足度★★★★☆

 


みをつくし料理帖

2020年10月26日 | 映画(ま行)

料理人と花魁と友情と

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原作は高田郁さんで、先にNHKで連続ドラマ化されていました。
それは見ていたので、およそストーリーはわかっていたのですが、
配役が全く別なので興味を持ちまして・・・。

仲のよい幼なじみだった8歳の澪と野江。
享和2年、大坂を大洪水が襲い、
澪は両親を亡くし、野江も行方知れずとなってしまいます。

それから10年後。
澪(松本穂香)は、江戸のそば処「つる屋」で働いていました。
そしてそこで、天性の料理の才能を見出され、店の看板料理を生み出すようになっていきます。

そんなある日、吉原・翁屋の又次(中村獅童)がつる屋を訪れ、
吉原で頂点を極めるあさひ太夫(奈緒)のために、
澪の看板料理を作ってほしいと言います・・・。

吉原の花魁は外出などできないので、又次が澪との間を取り持つわけですね。
そして、後にわかってくるのは、そのあさひ太夫というのは、実は・・・。
もうおわかりですね。

この二人のことが大きな縦軸ではありますが、
そのほか、料理の心構え的なことを教えてくれるお侍(窪塚洋介)や、
親身にしてくれるお医者様(小関裕太)、つる屋の店主、澪と共に暮らしている御寮さん、
つる屋の常連のお客など、さまざまな人々の織りなすドラマでもあります。

映画は2時間程度なので、いくつかのエピソードが省かれていますが、
まあ、それは仕方ないですね。

子どもの頃占い師に、野江は「旭日昇天」の相、 
澪は「雲外蒼天」の相と言われます。

野江は、ものすごい強運の持ち主で、最高の地位を手にする。
澪は、とても苦労が多いけれど、努力すればその後、幸せを手にする。
・・・と、そんなことだったわけ。

野江は花魁として確かに最高位の地位を得ますが、
それとて、外出もままならず会いたい人にも会えない、
・・・それが果たして幸せなのかどうか。

でも互いを思いやる二人が、自らの運命を切り開いていく様、
なかなか心地よい物語なのです。

2017年NHK版の配役は、黒木華さん、成海璃子さん
あ、私は知りませんでしたが、2012年にテレビ朝日でもやっていたのですね。
そちらは北川景子さんと貫地谷しほりさん。
うーん、私の中ではNHK版版がいちばんしっくりくる感じですが・・・。
まあ、この度の松本穂香さんも悪くはありません。

<シネマフロンティアにて>

「みをつくし料理帖」

2020年/日本/131分

監督:角川春樹

原作:高田郁

出演:松本穂香、奈緒、若村麻由美、窪塚洋介、小関裕太、藤井隆、中村獅童

 

友情度★★★★☆

精進度★★★★☆

満足度★★★.5

 


(劇場版)おいしい給食 Final Battle

2020年10月25日 | 映画(あ行)

ハンパない給食愛

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コメディドラマ「おいしい給食」の劇場版、ということですが、
テレビドラマの方は見ていないので、この度始めてです。

なぜか1984年が舞台とされているのですが、それが現在でない意味は特にわかりませんでした。
強いていえば、作中「クジラの竜田揚げ」というメニューが出てくるので、今はそれはない、ということかもしれません。

中学校教師甘利田幸男(市原隼人)は、給食をこよなく愛する「給食絶対主義者」。
そんな彼が唯一ライバルと見なすのは、生徒・神野ゴウ。
彼は、日々の給食をよりおいしく楽しむために密かな工夫を凝らし、甘利田を打ちのめすのです。
ある日、甘利田は教育委員会から学校の給食を廃止するとの知らせを受けて衝撃を受けます。
そんな時、神野が「給食革命」を目指し、生徒会長に立候補すると宣言しますが・・・。

とにかく、甘利田の半端ない給食愛に、ひたすら笑うしかありません。
給食なんて・・・と、つい言ってしまう程度ものではありますが、
あそこまでひたすら味わってもらえたら、調理員さん冥利に尽きるというべきでしょう。

ほとんど給食だけが楽しみで仕事に出てきている甘利田に給食廃止などとは実に酷であります。
本人はこの給食愛を隠しているつもりなのが、実は周囲にバレバレというのもおかしい。
そして給食廃止のことは、まだ生徒や保護者に言ってはダメということなのに、
給食革命を目指して生徒会長に立候補するという神野にどう言えばいいのか、
悩んでしまう甘利田。
ただの給食オタクのようでいて、一応ちゃんとした大人の教師でもあったので、ほっとしました。

それと、甘利田はお酒が飲めないのに、あるとき飲み会で飲んで泥酔してしまい、
あらぬ事を口にしてしまったらしいのですが・・・? 
副担任御園(武田玲奈)との、ほんのりラブストーリーめいたところも見所です。

市原隼人さんの表情七変化、実に楽しかった!!

酒向芳さんの校長先生もナイスです。

 

<WOWOW視聴にて>

「劇場版 おいしい給食 Final Battle」

2020年/日本/102分

監督:綾部真弥

出演:市原隼人、武田玲奈、佐藤大志、豊嶋花、酒向芳

 

給食愛度 ★★★★★

満足度★★★★☆

 


ラスト・オブ・モヒカン

2020年10月24日 | 映画(ら行)

アメリカの覇権を握るのは・・・?

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18世紀半ば、アメリカでの覇権を争う英仏の戦争時代のストーリーです。

 

英国人開拓者孤児のホークアイ(ダニエル・デイ=ルイス)は
モヒカン族、ギンガチェックに育てられました。
その彼が、フランス側につくヒューロン族に襲われた英国大佐令嬢姉妹を救います。
姉妹とヘイワード少佐を、姉妹の父がいる砦に送り届けたものの、
砦は今にもフランス軍の大軍が押し寄せ陥落寸前。
ホークアイは、砦にいる民兵(地元の開拓民)を逃がすのですが、
そのことを英国軍に咎められ、捕らえられてしまいます・・・。

 

英仏の戦争ではありますが、ネイティブアメリカンの部族がそれぞれ英国についたりフランスについたりしていて、
なかなか複雑な様相を呈しています。
そんな中で、すでに絶滅しかけていたモヒカン族のギンガチェックとその息子ウンカス、
そして養い子のホークアイはどちら側にもつかず、事態を静観。
軍隊でなく、交流のあった地元の開拓民たちをこそ守ろうとしていたのでした。

しかしたまたま襲われていた英国女性を助けたために、英国軍に味方する形になったのです。
戦闘状態となっても通常はそこにいる女性までをも殺傷したりはしないのですが、
このとき襲いかかったヒューロン族の男は、
明らかにこの女性2人を付け狙っているように見受けられた・・・。
実はその男・マグアは、英軍に村を焼かれ妻子を失い、
その時の英軍大佐と2人の娘に強い憎しみを抱いていて、必ず復讐しようと思っていたのです。

 

英仏とネイティブアメリカン、そして地元の開拓民・・・
様々な思惑が錯綜するなかなか興味深い物語なのでした。

そして、お定まり2人の娘の姉の方・コーラとホークアイのラブストーリーにもなります。
もとよりコーラに求婚していたヘイワード少佐は、残念な役回り。
嫉妬で何かあくどい事をやらかすのでは・・・?と思いきや、
何とコーラをかばって壮絶な最期を遂げます・・・。
ひゃ~・・・。
あなたの愛はホンモノだったのね、疑ってゴメン・・・。

んー、でも結局白人同士ですよね。
ここは人種を超えた愛であってほしかった・・・。

 

<WOWOW視聴にて>

「ラスト・オブ・モヒカン」

1992年/アメリカ/112分

監督:マイケル・マン

出演:ダニエル・デイ=ルイス、マデリーン・ストウ、ジョディ・メイ、ラッセル・ミーンズ

歴史発掘度★★★★☆

満足度★★★★☆

 


「樽とタタン」 中島京子

2020年10月23日 | 本(その他)

記憶の不思議

 

 

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今から三十年以上前、小学校帰りに通った喫茶店。
店の隅にはコーヒー豆の大樽があり、そこがわたしの特等席だった。
常連客は、樽に座るわたしに「タタン」とあだ名を付けた老小説家、歌舞伎役者の卵、
謎の生物学者に無口な学生とクセ者揃い。
学校が苦手で友達もいなかった少女時代、
大人に混ざって聞いた話には沢山の“本当”と“嘘”があって…
懐かしさと温かな驚きに包まれる喫茶店物語。

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三十年以上前、鍵っ子だった“タタン”が小学校帰りにいつも過ごしていた、喫茶店。
本作は、その“タタン” の、喫茶店を訪れた人々についての「記憶」の物語。

記憶、特に子どもの頃の記憶というのは不思議です。
後に思い返すうちに少しずつ塗り替えられて、
あたかもそれが真実だったように自分では思っているけれども、
実はそうでなかったのかもしれない・・・。

自分の中では鮮明な記憶でありながら、おぼろげでつかみ所がない・・・、
まるで魔法のような記憶。

少女は喫茶店のお客たちの話を聞きながら、年不相応に大人の世界を垣間見るわけですが、
それとても、今となっては、本当にあったことなのか、否か・・・。

そんな中で、お祖母さんが登場するところが好きでした。
当時まだめずらしかった鍵っ子のタタンのために、
一時期、父の母である祖母が同居していたことがあるのです。
その祖母が、自らの死期が近いことをさとってか、言う。
「おれは、死んだらそれっきりだと思っている。
死んだら、ぱっと電気が消えるみてえに、
生きてたときのことがみんな消えるんじゃねえかと、おれは思ってんだ。」

気持ちも、痛みもぱっと消えて、楽になって、
地獄なんかなくて、そのまますぐに親しい人の心の中にぴっと入ってくる、
と祖母は言うのです。

ぱっと消えてぴっと入る。

いいですよねえ。
どんな宗教の死生観よりも納得できる気がします。

 

それから、タタンではなくて、ある男の子の思考の話が面白い。

「去年の6月、すごい雨が降って雷が落ちて木が倒れて、
その中からいっぱいカニが出てきた。
そのカニが、家に入ってきて、髪を切ってくれた。」

「お父さんは、タクシーの運転手で、ついでに夏みかんを販売していた。
ある日、女の人にビルの52階のポンチョを取ってくださいと言われたので、
怪獣になって取ってあげた。
でも怪獣のままもとに戻らなかった」

どこでどう間違ってそんな記憶になったのか、それとも夢の話なのか、
雲をつかむような話なのに、男の子にとっては理屈があう理路整然とした話しなのです。
・・・というか、この話を作り上げた著者のイマジネーションがあっぱれだと思いました!!

実に記憶は、不思議です。

 

ちょっと懐かしく、自分の子どもの頃の記憶までもが呼び覚まされるような、すてきな一作。

 

「樽とタタン」 中島京子 新潮文庫

満足度★★★★☆

 


「黄色い実 紅雲町珈琲屋こよみ」吉永南央

2020年10月21日 | 本(その他)

なぜ被害者が非難される・・・?

 

 

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お草の営む「小蔵屋」の頼れる店員・久実。
なぜか男っ気のない久実にもついに春が…?
浮き立つ店に、元アイドルの女性が店の敷地内で暴行を受けたという衝撃のニュースが飛び込んでくる。
容疑者は地元名士の息子。
そして、暴行現場で拾った「あるもの」がお草と久実を悩ませることになる。
心に勇気の火を灯す人気シリーズ第7弾。

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おなじみ吉永南央さん、お草さんのストーリー。
第7弾・・・?
私、読んでいたつもりですが、全部は読んでいなかったかもしれません。
でもまあ、少なくともこの度は、差し支えはありませんでした。

 

本巻のテーマは、女性への性的暴行のこと。

顔なじみの、元アイドルの女性が小蔵屋の駐車場で暴行を受けるという事件が発生。
彼女は意を決して警察へ届け出たのですが、
逆にSNSや週刊誌で彼女の方が悪いかのようにかき立てられてしまうのです。
そして、本人は隠していたのですが、小蔵屋の頼りになる店員・久美までもが・・・。

 

女性の性被害は、訴え出るのにもすごい勇気を必要とする上に、
さらに本人に非があるように言われたりもする、
非常にやっかいなものですよね。

でも、重苦しい中にも、久美を理解してくれる男性が登場したりする、
ちょっと嬉しい部分もあるのです。
お草さんの小蔵屋は変わらないようでも、少しずつ変化していきますね。
うちのご近所にもこんなお店があったらいいなあ・・・。

 

あ、巻末に注釈がありまして、2017年に法改正があり、
強制性交罪(強姦罪)は非親告罪(被害者の告訴なしでも起訴可能)となっているとのこと。
本作はその少し前のこととして設定しているそうです。

 

「黄色い実」吉永南央 文春文庫

満足度★★★★☆

 


ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語

2020年10月20日 | 映画(さ行)

女の幸せは結婚だけではないと思ってはいるのだけれど・・・

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若草物語は大好きなので、ぜひ見たいと思っていたのですが、
これもコロナ禍で劇場では見そびれていました。

本作はマーチ家の次女ジョーが、作家の道で自立を果たすため
ニューヨークに出て生活しているところから始まります。
ローリーの求婚を断ってまで、彼女は作家への道を選んだのです。
小説は思いのほか簡単に売れたのですが、その内容はごく一般受けしそうな単純な物語ばかり。
ほんとうに描きたかったのはこんなものなのだろうか・・・? 
思っていたのとは少し違う気がするジョー。
そんな時、同じ下宿の親しい男性に、彼女の小説について厳しく批判を受けてしまい・・・。

と、新たな道を歩み始めたジョーの描写の中に、
思い出のシーンとして、私たちのよく知る「若草物語 第一作」が語られて行きます。

堅実でしっかり者の長女、メグ(エマ・ワトソン)。

活発で、信念を曲げない次女、ジョー(シアーシャ・ローナン)。

引っ込み思案で、繊細。体が弱い三女、ベス(エリザ・スカンレン)。

人なつっこく、ちゃっかり者の四女、エイミー(フローレンス・ビュー)。

南北戦争時代、父親が従軍のため戦地へ赴き、留守の間の出来事。
お金持ちの隣家ローレンス家のおじいさん、孫息子ローリー(ティモシー・シャラメ)との出会い。
隣家の家庭教師とメグの恋。
ベスの病気・・・。

これらを踏まえつつ、当時女性の幸せは結婚すること、それが常識というか他の道はほとんどなかった時代において、
自立しようとするジョーの凜々しい意思が描かれているところはしっかり貫かれています。

しかし、「若草物語」が書かれて150年ほどにもなるのに、
現代の女性が目指すのもまたジョーと同じ気持ちというのは、
逆に情けないような気もします。

 

作中、ジョーはつぶやくのです。

「女の幸せは結婚だけではないと思っている。だけれども、どうしようもなくさみしい・・・」

彼女は自分の才能にも自信をなくし、ローリーともう一度やり直せないかと考え始めます・・・。
こうした下りが、まさに現代を生きる女性の心にもビンビン響くのです。
150年たっても世の中も女心も、あまり変わりませんね。

しかしこのときローリーの心はすでに・・・。
映画で確かめてくださいね・・・。

 

Amazonプライムビデオにて

「ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語」

2019年/アメリカ/135分

監督:グレタ・ガーウィグ

出演:シアーシャ・ローナン、エマ・ワトソン、フローレンス・ビュー、エリザ・スカンレン、
   ティモシー・シャラメ、メリル・ストリープ

 

女性の生き方提示度★★★★★

満足度★★★★☆

 


オン・ザ・ロック

2020年10月19日 | 映画(あ行)

父と娘の微妙な問題

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ニューヨークで暮らすローラ(ラシダ・ジョーンズ)は、
夫と2人の子どもと、順風満帆な生活を送っています。
しかし最近、夫ディーン(マーロン・ウェイアンズ)が残業を繰り返し、
出張も多く、不在がちになっています。
どうも新しい女性の同僚と行動を共にすることが多いようなのです。
つい、夫の浮気を疑ってしまうローラ。

そこで、プレイボーイで男女の問題に精通している父・フェリックス(ビル・マーレイ)に相談を持ちかけます。
父は、この事態をきちんと調査した方がいいと言い、父娘2人でディーンを尾行することに・・・。

 

本作は夫婦の問題と言うよりも、父と娘の物語と言っていいと思います。
ローラは浮気でいつも母を苦しめていた父を、好きにはなれないでいたのです。
だからいつも距離を取っていて、これまであまり親しく話したことがなかった。
それをさみしく思っていた父は、相談を持ちかけられた事で気をよくして、
そしてまたつい自分の行動を規範にするものだから、
娘婿の行動は絶対に浮気に違いないと断言する。

そこで行動を共にする父娘は、やはり反発を繰り返すわけですが、
どうなのでしょう、ローラは父を許す、というよりも、
そういう人なのだとありのままを受け止める覚悟ができていったように思います。

とにかく、ちょっと気にかかる女性がいれば声をかけずにいられないという男性心理。
それはローラにも、もちろん私にも理解しがたいものではあるのですが、
それが故に、真に愛する人の信頼を失ったり孤独に陥ったりするリスクを持っているということも、
わかってくるのですね。

・・・が、それにしても男性の身勝手さを擁護している作品と言えなくもないか・・・。

でも、白人ローラの夫を黒人としているところで、挽回しているような・・・? 
2人の子どもたちのくるくるふわふわヘアがカワイイ♡

 

劇場はやはりコロナ以前の入りには戻っていないようで・・・
大丈夫か、サツゲキ・・・??

 

<サツゲキにて>

オン・ザ・ロック

2020年/アメリカ/97分

監督:ソフィア・コッポラ

出演:ビル・マーレイ、ラシダ・ジョーンズ、マーロン・ウェイアンズ

 

家族の問題度★★★☆☆

満足度★★★☆☆


人間失格 太宰治と3人の女たち

2020年10月18日 | 映画(な行)

ダメ男の執念

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本作は、太宰治の小説「人間失格」の映画化ではなくて、
その誕生秘話とでも言いますか、
「人間失格」執筆までの太宰の周辺を、彼を取り巻く3人の女性たちとともに描き出します。

1964年、太宰(小栗旬)は身重の妻・美知子(宮沢りえ)と二人の子どもがいながら、
彼の取り巻きの一人・靜子(沢尻エリカ)と関係を持ちます。
そして彼女の日記を元に「斜陽」を生み出すのです。
「斜陽」はベストセラーとなり、社会現象にまでなります。
またそんな一方、未帰還の夫を待つ美容師・富栄(二階堂ふみ)との関係に溺れていく太宰。

太宰はそれ以前に2人の女性と恋仲になり、心中を図っています。
相手の女性は亡くなり、自らは生き残っている・・・。
そんなことを繰り返しているわけです。

酒、睡眠薬、女に溺れ、おまけに結核の病。
心も体もボロボロ。
そんなになりつつも、そのことさえ糧にして小説にしてしまう。
まさに“人間失格”のダメ男でありながら、
小説=芸術にかける執念、それだけが彼を生かしているようです。

一見女をもてあそぶいい加減な男と、見えながら、
実は女の方はもっとしたたかで、結局太宰が女たちに翻弄されているのですね。
太宰にはそんな自分もちゃんと見えている。
そういう複雑さが、小栗旬さんの演じる太宰にはしっかり表れていたと思います。

3人の女たちがまた、それぞれの女優さんにピッタリで、
豪華競演になっていて、すごく演じ甲斐があったのではないかと思います。

<WOWOW視聴にて>

「人間失格 太宰治と3人の女たち」

監督:蜷川実花

脚本:早船歌江子

出演:小栗旬、宮沢りえ、二階堂ふみ、沢尻エリカ、成田凌、瀬戸康史、千葉雄大

 

3女優競演度★★★★★

満足度★★★.5

 


「天と地の守り人 3 新ヨゴ皇国編」上橋菜穂子

2020年10月17日 | 本(SF・ファンタジー)

怒濤のスペクタクル!!

 

 

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戦乱と、異界ナユグの変化にさらされる新ヨゴ皇国。
帰還したバルサ、そしてチャグムを待っていたものとは…。
壮大な物語の最終章『天と地の守り人』三部作、ここに完結。

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いよいよ最終巻。
タンダのいる新ヨゴ軍とタルシュ軍の戦闘の火蓋が切られます。
しかしこの筆力が半端ないですね。
今まで見た多くの歴史物やファンタジー映画の戦闘シーンを彷彿とさせます。
しかしこの場にはまだチャグムもバルサも間に合わない。
タンダの負う過酷な運命は・・・。

 

本巻では、チャグムはロタとカンバル共同軍を率いて新ヨゴ国へ。
そしてバルサは、大洪水のことを知らせに呪術師オロガイへの元へと向かい、別行動になります。

 

まもなく新ヨゴ国へ入ろうとするチャグムのシーン。

「そして、ロタとカンバルの騎馬兵をひきい、
磨き上げられたカンバル風の胴当てをまとっている戦闘の騎馬武者は、
なんと、ヨゴ人だった。
しかも、若い。
まだ二十歳にもなっていないように見える。
目のわきに刀傷があるその若者から見おろされたとき、
ガシェは、思わず背を伸ばした。
・・・そうせずにいられぬなにかが、その若者にはあった。」

これはあえて、チャグム側ではなく、
その騎馬隊と行き会った新ヨゴ国の避難民の立場からの目線となっているのです。
私たちの慣れ親しんだチャグムが、こんなにも立派になって威厳さえも身につけてここに登場する。
うわ~っ、カッコイイ!!

なんて効果的な描写なのでしょう。
参りました。
しかも実はこの難民たちの群れは、バルサの提案で町を抜け出してここに来ていたのです。
この絶妙な関係性のバトンリレーがまた、なんとも言えない。

 

本作中でいちばんの問題となっていたチャグムと父親の関係も、実にいい落としどころでした。
いくら何でもチャグムに親殺しはさせられない。
しかし、この父王が生きている限り、新ヨゴ国は破滅の道しかない、
というところだったのですが。

 

さて、巻末に著者のあとがきがありまして、
このシリーズはここまでのストーリーを見通して書かれたものではない、とのこと。
いやいや、実のところ本作を読むと、
これまでのストーリーこそまさにこの3部作のためにあった、
と、ほとんど確信してしまうくらいなのです。
すべてのエピソードや人物たちが本作につながっています。

けれど著者は、ストーリーはなぜか突然に降ってきた、という。
栗本薫さんがよく、グインサーガのストーリーについて、そのようにおっしゃっていましたね。
そういうことがあるもんだなあ・・・。

全く、怒濤の展開に一気読み必至であります。

 

<図書館蔵書にて>

「天と地の守り人 3 新ヨゴ皇国編」上橋菜穂子 軽装版偕成社ポッシュ

満足度★★★★★

 


「天と地の守り人 2 カンバル王国編」上橋菜穂子

2020年10月15日 | 本(SF・ファンタジー)

チャグムの奮闘・・・そして、少年から青年へ

 

 

* * * * * * * * * * * * 

再び共に旅することになったバルサとチャグム。
かつてバルサに守られて生き延びた幼い少年は、苦難の中で、まぶしい脱皮を遂げていく。
バルサの故郷カンバルの、美しくも厳しい自然。
すでに王国の奥深くを蝕んでいた陰謀。
そして、草兵として、最前線に駆り出されてしまったタンダが気づく異変の前兆
―迫り来る危難のなか、道を切り拓こうとする彼らの運命は。
狂瀾怒涛の第二部。

* * * * * * * * * * * *

本巻は嬉しいチャグムとバルサの二人旅。
バルサの故国、カンバルに踏み込みます。

実はチャグムは故国新ヨゴでは「死んだ」ことになっています。
だから、皇太子ではありながら、ヨゴ国の全権を委任されているわけでもなく、
ロタやカンバルと同盟を結びたくとも結ぶことはできない。
そこでチャグムはまずロタとカンバルの同盟を結ばせ、
この両軍にヨゴの援助をしてもらおうと考えたわけです。

こんな戦争へ慌ただしい動きがある中、
また別に大変なことがヨゴ国を襲おうとしています。

それはこの物語の根幹を貫く、ナユグとサグの二重世界のこと。
ナユグに春が訪れ、そのことがこの世界“サグ”にも影響を与えて温暖化している。
そして今、高地の氷河が溶け始め、ヨゴの平野部を大洪水が襲おうとしている・・・!

この二重苦を、チャグムは救うことができるのか・・・?

 

一方気になるのはタンダのこと。
彼はヨゴの草兵として、最前線となるであろう地へ送られていたのです。
・・・ど、どうなるの?

急ぎ第3部へ、GO!!!

「天と地の守り人 2 カンバル王国編」上橋菜穂子 軽装版偕成社ポッシュ

満足度★★★★☆


「天と地の守り人 1 ロタ王国編」上橋菜穂子

2020年10月14日 | 本(SF・ファンタジー)

シリーズ最終章のはじまり

 

 

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大海原に身を投じたチャグム皇子を探して欲しい
―密かな依頼を受けバルサはかすかな手がかりを追ってチャグムを探す困難な旅へ乗り出していく。
刻一刻と迫るタルシュ帝国による侵略の波、ロタ王国の内側に潜む陰謀の影。
そして、ゆるやかに巡り来る異界ナユグの春。
懸命に探索を続けるバルサは、チャグムを見つけることが出来るのか…。
大河物語最終章三部作、いよいよ開幕。

* * * * * * * * * * * *

いよいよシリーズ最終章。
しかも3部作のボリューム。
わくわくします。

 

ストーリーは、もちろんあの、夜の海に飛び込んだチャグムのその先のことが語られるわけですが、
本作は「守り人」なので、まずはバルサ中心のところから話は始まります。

チャグムから最後の手紙を受け取ったシュガが、
バルサにチャグムの捜索を依頼するのです。
ロタ国へ向かったと思われるチャグムの行方。
しかしいきなり海賊に捕らえられたらしい・・・
というような事になって、始めから波乱含み。

せっかく夜の海を泳ぎ切ったその先が、さっそく苦難の道。
あ~、チャグムはどうなってしまったのでしょ・・・? 
と私たちはバルサと共にドキドキと心配しなければなりません。
そしてなんとかチャグムの足跡を追い始めるバルサですが、
いつも後追いで、なかなか遭遇できない。
この「じらし」も、にくいですね~。

でも、これはもうお約束のようなもの、
巻末でいよいよ二人は感動の再会を果たします。

さてそれにしても、迫り来るタルシュ軍、ロタ国は内乱寸前。
カンバルはまだ遠い・・・。
チャグムは、故国ヨゴの危機を一体どのように救うことができるのだろう・・・?
まだまだ前途多難。
でも、チャグムとバルサがいればなんとかなりそうな気もしてきますね。

 

続きへGO!!

 

「天と地の守り人 1 ロタ王国編」上橋菜穂子 軽装版偕成社ポッシュ

満足度★★★★☆