映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

マーガレットと素敵な何か

2012年01月30日 | 映画(ま行)
子供は子供なりに苦労している。だからこそ、未来に夢を持つ。



                    * * * * * * * *

キャリアウーマンとして仕事に没頭しているマーガレット。
彼女の40歳の誕生日に、公証人と名乗る老人が訪ねてきます。
彼は彼女が7歳の時に未来の自分にあてた手紙を預かっていて、それを届けに来たのです。


子供の頃なりたかった自分。
幼い初恋のこと・・・。
すっかり忘れていた子供の頃の思いが一気に蘇ります。
彼女は両親の離婚や貧しさを乗り越えようと、
それまでの自分を振り切って必死にこれまでがんばってきていたのです。
そんな今の自分が揺らいでしまいそうで、
もう手紙は送らないでと、老人に宣言してみたりもするのですが。
ところが、次々と届けられるこの手紙を読む内に、
次第に夢溢れていたあの頃の自分がいとおしく思えてくる・・・・。



アラフォーは、やはり人生の折り返し点なのでしょうか。
これまでの自分の生き方を振り返り、納得したり、軌道修正したり・・・、
そういう年代なのかもしれません。
40ならまだやり直しも効きそうですし・・・。


子供のマーガレットは、深ーい穴を掘って、地球の裏側に達したら、
そこからパンを投げ込んで、地球の裏側の飢えた子供たちに分けてあげようと思うのです。
だから幼なじみのボーイフレンドには、必ず“穴掘り職人”になるようにと約束をします。
数十年ぶりに出会った初恋の彼は・・・?


子供の頃、宝箱につめこんだ雑多で賑やかな小物や写真。
そんなポップなイメージが映像に散りばめられていて、とても楽しい。
そうして自分を取り戻したマーガレットは、
それでもしっかり地に足がついており、
変に浮ついた結末にならないところがまたよかったと思います。



7歳の自分からの手紙・・・。
そんなものがあれば、ぜひ読んでみたいですね。
いったい何にあこがれ、どんな自分になろうとしていたのか? 
う~ん、けれどマーガレットほどは夢に溢れていなかったかも。
私は意外と子供のくせに冷めた子供だったような気がします。
・・・というか、子供は夢に溢れているなんて言うのは大人の幻想で、
子供は子供なりにいろいろな屈託を抱えて苦労しているのですよね。
・・・おっと、そんなことを言ってはこの作品は成り立たないか? 
いや、そうではないですよね。
だって7歳のマーガレットが手紙を書き始めたのは、
家が差し押さえにあって、何もなくなってしまった日。
せめて夢を見よう・・・、
現実を知りながら、幼い彼女はあえて未来の自分に夢を馳せたのかもしれません。

2010年/フランス・ベルギー/89分
監督:ヤン・サミュエル
出演:ソフィー・マルソー、マートン・ソーカス、ミシェル・デュショーソワ、ジョナサン・ザッカイ
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「舟を編む」三浦しをん 

2012年01月29日 | 本(その他)
言葉という大海原を航海するための舟

舟を編む
三浦 しをん
光文社


                 * * * * * * * *

玄武書房営業部に勤める馬締(まじめ)は、
ある日突然辞書編集部に引き抜かれ、新しい辞書「大渡海」の編集に携わるとこになります。
これは、辞書編集に情熱を注ぐ人々の物語。
近頃三浦しをんさんは、いろいろな職業にスポットを当てて、私たちをその深淵へ誘ってくれます。
しかも登場人物が身近で親しみやすく、そして個性豊か。
今回も、辞書の編集という、今まで想像したこともない仕事の大変さ、意義深さを堪能しつつ、
たっぷり楽しませてもらいました。


表題は辞書を「言葉という大海原を航海するための舟」と、たとえたところから来ています。
馬締は、大学院で言語学を学び、その名前の通りまじめ。
しかし彼は、人との付き合いにおいて何とも不器用で、
言葉はたくさん知っているのに、うまく使うことができません。
編集長荒木はいいます。
「ひとは辞書という舟に乗り、暗い海面に浮かびあがる小さな光を集める。
もっともふさわしい言葉で、正確に、思いをだれかに届けるために。
もし辞書がなかったら、俺たちは茫漠とした大海原をまえにたたずむほかないだろう」



下宿のお祖母さんの孫娘に一目惚れした馬締は、
人に思いを伝える"言葉"の大切さをかみしめます。
辞書の意義を実感した彼は、
その後、ほとんど一人で編集を続けることになるのです。
出版社としては、辞書などという地味なものにはあまり人手は割けないということなのです。
それにしても想像を絶する大変さ。
今作中のこの「大渡海」は、手がけてから15年を経てようやく刊行になります。
初めは編集部に入りたて、右も左もわからぬ新人の馬締ですが、
途中一気に、10年あまりが過ぎて行きます。
とにかく根気と情熱が必要な仕事ですね。
同僚の西岡は、何しろ軽い"チャラ男"なのです。
何も悩みなどないようなそぶりを見せながら、
実は、辞書編集に情熱を傾けてやまない他のスタッフに溶け込めないことに落ち込んだりもする。
けれど彼なりのやり方で、彼らの情熱を支えようと心に決める。
なかなかかっこいいのです。
彼の残した?ファイルは最高でした。


読了し、満足感とともに本を閉じると、「おや」と思います。
改めて表紙を見てみると、濃い紺地に銀の文字。
下方に波の模様があって、舟と月の小さなイラスト。
これこそ、作品中で語られる「大渡海」の装丁ですね。
すごく納得してしまいました。

「舟を編む」三浦しをん 光文社
満足度★★★★★
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ブルーバレンタイン

2012年01月28日 | 映画(は行)
結婚に大切なのは価値観を共有できること



                 * * * * * * * *

たいていの物語は、男女が出会い、恋をして、いささかの障害を乗り越え、
めでたく結ばれる。
そこで終わります。
けれどもこの作品はその先を描いています。
愛の破綻の物語。
まあ、考えてみればこれだけ離婚がほとんど日常茶飯事の世の中ですから、
決して珍しい話ではありません。
・・・ただ私などは、やはり映画には日常を離れた夢とかロマンとか感動とか驚き、
そういうものを求めたいと思うので、
ここまでリアルなストーリーは、できれば避けたいと思う方です。
でも、ろくにリサーチもせずにみてしまったので・・・(^^;)



初めは単に倦怠した夫婦のストーリーかと思えたのです。
けれど二人の結婚には、やや複雑な事情もあったのです。
二人の思いが食い違いかみ合わなくなっていく合間に、
若い頃の二人のハッピーな物語が挿入されていきます。
このふたりだからこそ、末永い信頼と友愛に満ちた家庭となるのでは・・・と、
いかにもそう思えるのですが。



妻シンディはこつこつと勉学に励み、医師の資格を得て働いています。
一方夫ディーンはぱっとしない現業職で、
でもそれには満足し、ひたすら妻と娘を愛し、家庭が平和なら大満足。
彼にとってはそれが人生の目標でもある。
シンディにとっては、それがなにやら物足りない。
もう少し何かにチャレンジし向上心を持って欲しい。
これはお互いの価値観の違い。
これまでの二人の家庭環境とか学歴とか・・・
根本的に向いている方向が違うということなのでしょうね。
結婚まではそういうことがあまり見えないけれど、
日々の生活の中では、そういう違いがとても大きくのしかかってくるのでしょう。
どちらが悪いというわけではないけれど・・・
非常に苦い現実が描かれています。



私の価値観で言えば、家族をひたすら愛し尽くそうとしてくれるこのディーンは好きですけどねえ・・・。
一応きちんと仕事もしているのだし・・・。
ダメですかねえ・・。
朝からお酒を飲んでもできる仕事。
ナイスでは? 
しかもこの別れは一方的にディーンにだけ不利なんですよ。
だって結婚生活は彼の生きる糧で、それを失ったら何も残らない。
シンディはたぶん、ますますと活き活き生きていくのでしょうね。
やっぱり女性は強い。


「ブルーバレンタイン」
2010年/アメリカ/112分
監督:デレク・シアンフランス
出演:ライアン・ゴズリング、ミシェル・ウィリアムズ、フェイス・ウラウディカ
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クリスマスのその夜に

2012年01月26日 | 映画(か行)
届く思い、届かない思い。やってくる命、消えゆく命。



                   * * * * * * * *

「キッチンストーリー」、「ホルテンさんのはじめての冒険」などでおなじみ、
ノルウェーのベント・ハーメル監督作品です。
先日の「ニューイヤーズ・イブ」みたいに、
タイムリーに実際のクリスマスの日に記事をアップできればよかったのですが、
我が地域で上映されたのは最近なので・・・。
残念でした。
クリスマスの夜、様々な人々の出来事を綴る群像劇。
・・・というとやはり「ニューイヤーズ・イブ」などを思い出してしまいますが、
ハリウッド作品と比べるとかなり趣は異なります。
確かにハリウッド作品は華やかでロマンチック。
もちろんそちらも大好きでしたが、
こちらはこちらでまた捨てがたい味があって、これもまた大好きなのです。



たとえばこの写真の場面。
結婚生活に破綻した男が、せめて子供たちには自分からクリスマスのプレゼントを渡したいと、
サンタに化けて家へ忍び込む。
本当は新しいパパがその役をするはずだったのですが、
男に殴られて納屋で気絶している。
お面をかぶっているので奥さんは元の「ダメ夫」とは気づかず、甘えたりしちゃうのです・・・。
でも、男の目的は本当に子供たちだけにあったようで・・・
そんなところがなかなかいいのです。



ある少年は、クリスマスを祝わないというイスラム教徒の女の子につきあって、星を見て夜を過ごします。
本当は家にはクリスマスのご馳走が待っていたのですが、
自分の家もクリスマスのお祝いはしないと彼女には言うのです。
ほんのり初恋の味。


またある医師は、ある男女のお産の手助けをします。
内乱のコソボを脱出し、二度と故郷には帰れないと言う二人。
聖夜に、みすぼらしい小屋でのお産です。
信頼と愛情に満ちた若い二人と新しい命の誕生に、
いつになく感動してしまう医師。


ほかに、故郷に帰りたいけれどお金がないホームレスの男性。


妻子ある男と情事にふける女。
彼は今度こそ離婚すると言いつつ、いつも約束を果たさない。
業を煮やした彼女の行動には笑って拍手!!



届く思い、届かない思い。
やってくる命、消えていく命。
さまざまな人間ドラマは、どれも共感を呼び、ほんのり心を温めます。
最後に夜空に広がるすばらしい光景は、
すべての人々へのサンタからのプレゼントかもしれません。
これぞ、ノルウェーですぞ!!

「クリスマスのその夜に」
2010年/ノルウェー、ドイツ、スウェーデン/85分
監督:ベント・ハーメル
出演:トロン・ファウサ・アウルボーグ、クリスティーネ・ルイ・シュレッテバッケン、フリチョフ・ソーハイム、サラ・ビントゥ・サコール
コメント

「最後の恋 つまり自分史上最高の恋 プレミアム」 阿川佐和子ほか 

2012年01月25日 | 本(恋愛)
人への思いを際立たせるのは・・・

最後の恋 プレミアム―つまり、自分史上最高の恋。 (新潮文庫)
阿川 佐和子,大島 真寿美,島本 理生,森 絵都,乃南 アサ,井上 荒野,村山 由佳
新潮社


               * * * * * * * *

先に読んだ第一弾アンソロジー「最後の恋 つまり自分史上最高の恋」でなかなか楽しめたため、
こちらも読んでみました。
究極の恋愛小説ではありますが、手放しなロマンに浸るというよりは、苦いものの方が多いのです。
人への思いを際立たせるのは、ハッピーな思いではなく、
届かない思いということかもしれません。


私の心に残ったのは・・・

「TUNAMI」村山由佳
大地震があり、交通機関がストップしてしまったため、4時間かけて帰宅したというOL。
そうです、これはあの大震災後に書かれたストーリー。
彼女はTVに映し出される大きな津波の有様に息をのみます。
しかし、彼女の目下の心配は、
長年一緒にいた飼い猫のタビスケの容態が悪く、ぐったりしていること。
そんなときに彼女の元を訪れたのは、
このタビスケを飼い始めたときに一緒にいたモトカレ。
彼と別れてから、
「だれかとの深い関係など、もう要らない。
いつでも自分の心に歯止めをかけられるくらいがちょうどいいのだ。」
そう思い定めてきた彼女でしたが・・・。
あの震災以来、結婚する人が増えたといいますが、
こんな時こそ人とのより強い絆を求めるものなのでしょう。
けれど彼女は、男への思いよりもタビスケへ向ける思いの方が、
純度の高い執着=恋と呼び得るのではないか、そんなことを思います。
このストーリーはあの頃の私たちの心の混乱をうまくすくい上げていると思いました。
被災地では多くの人の命が奪われていて、
私たちはなすすべもなく恐れおののき、呆然とするしかない。
けれどやはり目の前の猫の命もまた等しい重みを持っているのです。
引き比べるのは不遜なことと思いながら・・・。
あのすさまじい映像と日常生活の乖離に、私たちの意識は混乱していたなあ・・・と、
このストーリーを読んで、改めて感じた次第。



「それは秘密の」乃南アサ
政治に携わり一定の地位もある琢己は、
友人の葬儀の帰り道、一人で山道を運転していました。
たまたま台風が襲った夜のことです。
ちょうどトンネルの出口付近にさしかかったところで、
前方の道路が崩れ去っていることに気づきます。
やむなく後戻りしようとするとトンネルの後方もまた土砂崩れが起こり、そこに路線バスが埋もれている。
かろうじて中に生き残った女性を一人救出しますが、
身動きならないそのトンネルの中で、二人は一夜を明かします。
・・・とするとちょっと色っぽい展開を想像してしまいますが、そうはなりません。
お互い節度を持ったまま励まし合って、真っ暗な中で一夜を明かしますが、
そんな中で二人の心は次第に接近していくのです。
初老の"センセイ"と言われる人物とごく普通の主婦。
そんな二人は互いに名前も明かさないまま、
まるで中学生の初恋のようなピュアな気持ちでお互いに恋心を覚える。
ステキなストーリーでした。


そのほか収録されているのは
「甘い記憶」大島真寿実
「ブーツ」井上荒野
「ヨハネスブルグのマフィア」森絵都
「森で待つ」阿川佐和子
「ときめき」島本理生


「ヨハネスブルグのマフィア」で、ちょっと興味をひく部分がありました。
眠れないときの対処法。
まず一つ言葉を頭に思い浮かべる。
何でもいい。
たとえば花。
次にその花と全くつながりのない言葉を思い浮かべる。
たとえば屋根。
その次には屋根とつながりのない言葉。
ちりめんじゃことか。
これを延々と続けていく。
気をつけないと植物とか食べ物とか関連が出てきてしまうから、そうならないように。
夜。   海。   電信柱。  
砂。   封筒。  卵。   たらこ・・・じゃなくて、鏡。
というような具合。
うん、これなんだか使えそうな気がします。
今度眠れないとき試してみよう。

「最後の恋 つまり自分史上最高の恋 Premium」阿川佐和子ほか 新潮文庫
満足度★★★☆☆
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タクシー・ドライバー

2012年01月24日 | 映画(た行)
“空気のような存在”の反抗

                  * * * * * * * *

1976年公開のこの作品は、
60~70年代にかけてアメリカン・ニューシネマと呼ばれた作品群を代表する作品の一つ。
などと物知り顔で言いながら、私は初めて見たのですが・・・。
この時代で忘れてはならないのはベトナム戦争ですね。
世の中は殺伐とし、若者の心は空虚。
アメリカのそんな世相が映画作品にも影を落としていたのでしょう。
日本はその頃、まさに高度成長期で、
アメリカの当時の雰囲気とはちょっと違う印象ですが。


ここに登場する青年トラヴィスは、元海兵隊員であり、
都会の中で一人空虚な心をもてあましています。
タクシー・ドライバーとして就職はしましたが、
夜勤で汚れきった街の様子ばかりをみるにつけ、
身の回りのことに憎悪を深めていきます。
一見正義感に燃えるまっすぐな青年にも思えるのですが、
そうではなく、ただ自己中心的な思いにとらわれているだけというのが見えてきます。


始めに彼は、大統領候補者の事務所で働く女性に心ひかれます。
タクシーの中からいつも彼女の様子をうかがったり、と、
今なら立派なストーカー行為ですが、この当時はまだそういう言葉が無かったですね。
一時は彼女の興味をひき、うまく行きかけるのですが、
でも結局それはダメになります。
これはつまり格差社会の中ではっきり負け組の方にいるトラヴィスは、
もうそこから這い上がる可能性を閉じられてしまった、ということを暗示しているのでしょう。
また彼は13歳の売春婦を救い出そうともするのですが、
その彼女からも拒否されてしまいます。


誰からも必要とされない自分。
考えてみると、タクシー・ドライバーというたった一人の仕事も、
彼の孤独を強調しているのです。
彼は、体を鍛え銃を手に入れ、“何者か”になろうとする。
それは正義を行う者でも単に殺人者でも、もはやどうでもよくなってしまっているのです。
人々にとって“空気のような存在”でさえなければ。
こういう心理は実際の犯罪にも多くあるような気がします。
心が満たされている人は、こういう犯罪は犯しません。
「チャプター27」にも少し、似ていると思いました。


さて、ロバート・デ・ニーロがなんとみずみずしく若いこと!!
「ニューイヤーズ・イブ」など、最近のロバート・デ・ニーロしか知らない若い方は、
是非見ていただきたい。
今もまた、その渋みが増したお姿はかっこいいのですが、
若い頃もまた一段とステキです。
モヒカンのロバート・デ・ニーロなんて考えたこともなかったですけど。

タクシードライバー コレクターズ・エディション [DVD]
ロバート・デ・ニーロ,シビル・シェパード,ピーター・ボイル,ジョディ・フォスター,アルバート・ブルックス
ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント


1976年/アメリカ/114分
監督:マーティン・スコセッシ
脚本:ポール・シュレイダー
出演:ロバート・デ・ニーロ、シビル・シェパード、

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魔法使いの弟子

2012年01月22日 | 映画(ま行)
科学技術とは魔法を現実に変えていくこと



             * * * * * * * *

800年に渡り繰り広げられてきた魔法戦争が
現代のニューヨークを舞台に、また火蓋を切るというアクションファンタジーです。


アーサー王の伝説に登場する、偉大な魔法使いマーリンの弟子であったというバルサザール(ニコラス・ケイジ)。
彼は物理オタクで気弱な青年デイブを、後継者として無理矢理弟子に指名。
死者をよみがえらせて、魔法でこの世を支配しようという魔女モルガナの一味と対決します。



物理学と言えば、最も魔法と相容れないモノのような気がしますが、
なんと、今作では非常に近いモノとなっています。
たとえば物体が熱を持つのは、その分子が振動するから。
だから火を使う魔法は、意識を集中して、分子を振動させるのだと・・・。
そこで納得してしまう私は、そもそも全くの物理音痴というべきでありましょう。
それはともかく、魔法にも現代的風味をプラス、
デイブの作ったテスラコイルという装置時代がもうほとんど魔法の域。
いやいや、考えてみるとこのIT機器やCGだの3D映像だのがほとんど魔法ですよね。
科学技術とは魔法を現実に変えていくことなのか・・・。



デイブがモップに魔法をかけて掃除をしようとするシーンなどは、
懐かしのディズニーアニメを意識していまして、めちゃくちゃ楽しい。
さらにまた、サイドストーリーとして、デイブの恋があるのも楽しめます。
バルサザールは、集中力が損なわれるので恋は御法度というのですが、
でも結局、人を愛し、人を守ろうとする心こそが最大の武器なのです。



ニコラス・ケイジは最近見た中では一番はまり役だったような・・・。
自分が活躍というよりも、若い人を育てるという役所、そしてちょっぴり怪しい雰囲気が・・・。
思っていたよりも楽しめた作品でした。

魔法使いの弟子 [DVD]
ニコラス・ケイジ,ジェイ・バルチェル,アルフレッド・モリナ,テリーサ・パーマー,モニカ・ベルッチ
ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社


「魔法使いの弟子」
2010年/アメリカ/110分
監督:ジョン・タートルトーブ
出演:ニコラス・ケイジ、ジェイ・バルチェル、アルフレッド・モリーナ、テリーサ・パーマー、トビー・ケベル、モニカ・ベルッチ
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「電化文学列伝」 長嶋有

2012年01月21日 | 本(解説)
こだわりの読書

電化文学列伝 (講談社文庫)
長嶋 有
講談社


                     * * * * * * * *

この本、一応(?)書評なのですが、何ともユニークです。
作品中の家電製品の描かれ方を軸に文学を語る。
なんだこれは?とつい興味をそそられます。
そもそも、家電製品の描写などでてこない作品がほとんどなので、
かなり作品を選ぶようなのですが・・・。


たとえば、多くの方が読んでいそうな、小川洋子「博士の愛した数式」から。

博士は安楽椅子の脇にアイロン台をしつらえ、早速仕事に取りかかった。
なんと彼はコードの引き出し方から、スイッチの入れ方、温度調節の仕方までをも心得ていた。
テーブルクロスを広げ、数学者にふさわしくそれを目分量で十六等分し、
一つ一つのブロックを順々に片付けていった。


・・・と、これだけではなく、さらに延々と博士のアイロンかけの描写がなされています。
以下は、私ではなく著者長嶋有氏の考察。

その前段で、博士は電子レンジの使い方がわからないという話がなされます。
そこで主人公は博士を見くびってしまうのですが、
このアイロンの下りで、博士は見事なアイロンさばきをみせる。
ただ生きるためではない。
世界を「よく」することの、アイロンはその象徴になっている。
数学という無味乾燥なイメージのあるジャンルにスポットをあて、
それを慈しみ、親しみやすい新たな魅力あるものとして差し出された作者の手つきに、
終盤にみせた博士のアイロンがけの見事さがだぶってみえる。

・・・というような具合。


なるほど、いかに作者がその物語世界を表現しようとしているのか、
その本気具合が電化製品の扱いにまで現れるということで、
これはその力量が試されているみたいで怖いくらいです。
まあ、そこまで読もうとするのはこの長嶋氏くらいのものかもしれませんが。


この本の解説は、ホンモノ(?)の書評家、豊崎由美氏。
彼女は長嶋有をいい意味で「何でも遊びにする人」といっています。
チャラチャラ、ヘラヘラしている遊び人、ということではなくて、
ルールを守ったり、新たに作ったり、もっと面白くするために見直したり、
楽しくなるためには最大限の努力や工夫を惜しまない、そういう人。

いや、確かに楽しんでしまいました。
こういう本の読み方もアリなんだなあ・・・。
私も何かにこだわって本を読んでみましょうか。
楽しそうだ。
・・・食べ物にこだわるのなら、結構ありそうですけどね。


「電化文学列伝」長嶋有 講談社文庫
満足度★★★★☆
コメント

マイウェイ 12,000キロの真実

2012年01月20日 | 映画(ま行)
スケールの大きさと迫力に圧倒される12,000キロのドラマ



                    * * * * * * * *

アジア(ソウル)~フランス(ノルマンディ)まで、
12,000キロを兵士として生き抜いた男の実話を元にしています。
何ともスケールが大きく、戦闘シーンなども迫力に満ちており、目を見張ります。


日本統治下の京城(ソウル)。
二人の少年が出会います。
日本人長谷川辰雄(長じてからはオダギリジョー)と朝鮮人キム・ジュンシク(長じてからはチャン・ドンゴン)。
双方走るのが得意で、以来大きな大会では1・2を争う強力なライバル。
ただし、時代が時代です。
辰雄は名家の跡取りであり、ジュンシクはその家の使用人の息子。
京城では日本人が威張り散らし朝鮮人を見下す・・・。
何とも今の私たちには居心地が悪い。
しかもこの辰雄は、いやな日本人の代表格でいやなヤツなのです。
鼻持ちならない国粋主義者。
二人はマラソンのオリンピック代表選考で競い合うまでになるのですが・・・。
その時のある事件が元で、ジュンシクは無理矢理徴集され日本兵の一員となります。
そこへ上官として辰雄がやってきた・・・。
さて、ドラマはここから。



この部隊は、まず満州のノモンハンへ赴き、ソ連と戦います。
熾烈な戦闘が繰り広げられるのですが、力尽きて二人はソ連の捕虜となり
ジュコーフスキーという地の収容所へ送られます。
「皇軍には退却はない。捕虜になるのは恥。」
日頃そう言い続けた辰雄の自我が崩れていく・・・。
その地は極寒の地。
ろくな食料も与えられず、重労働。
二次大戦後シベリア抑留となった日本兵の悲惨な体験はよく耳にしますが、
その先取りのような経験だったのでしょうね。
ヒートテックもダウンもない、
うう・・・。寒さが身にしみます。


ところが今度はそこへドイツ軍が攻めてくるのです。
今度は無理矢理ソ連兵に仕立てられ、ドイツ軍との交戦。
日本とドイツは本来同盟国ですが、ソ連に反抗すれば直ちに射殺。
生きるためにはソ連の軍服を身につけるしかない。
この戦闘を命からがら抜け出して、二人は山を越えドイツに向かいます。
そして今度はドイツ軍に拾われてドイツ兵となる。
さてそして、ドイツ兵として向かった先がノルマンディ!! 
さあ、どうする!!



なんというか、この二人のすさまじい運命と変転。
驚くばかりです。
が、ただ運命に翻弄されているわけではない。
「なんとしても生き抜いて再び故郷の地を踏む。」
そういう屈強な意志が、運命を切り開いていくのです。
二人は3カ国の軍服を着ることになるのですが、
こんなこと言ってはなんですが
中ではやはりドイツの軍服がかっこいいですよね・・・。
しかし、どこにしても、ほとんど捕虜に近い一兵卒は、
ほんの玉よけであるかのように、命の使い捨てにさせられる・・・。
なんて軽い命。
「プライベートライアン」でもそうでしたが、
私たちはノルマンディの戦闘を、連合国側の視点で見ることが多いですよね。
ところがこれはドイツ側からの視点。
渡り鳥の群れのように大軍でやってくる爆撃機。
沖合から群れくる軍艦。
・・・・すごく怖いです。
初めから戦意喪失で逃げ出したくなります。
とにかく半端でなく迫力ある戦闘シーンでした。



さて、このようにドラマチックかつ迫力に満ちた戦闘シーンもすごいのですが、
もちろんそれだけではありません。
あんなにいやなヤツだった辰雄が、この生死をかけた様々な経験の中で、少しずつ変わっていくのです。
二人は殺し合いをするまでに憎しみ合っていたのですが、
生死を共にする内に、次第に友情が育まれていく。
これこそがドラマです。

何しろほとんど全編、火薬と血のにおいが立ちこめている作品ですが、堪能しました。
いやほんと、すごい。



「マイウェイ 12,000キロの真実」
2011年/韓国/145分
監督:カン・ジェギュ
出演:オダギリジョー、チャン・ドンゴン、ファン・ビンビン、キム・イングォン、夏八木勲、
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赤ずきん

2012年01月18日 | 映画(あ行)
赤ずきんはオオカミに襲われたい?



            * * * * * * * *

ホラー・ファンタジーとでもいいましょうか・・・。
昔むかし・・・。
ヨーロッパとおぼしきあるところ。
月ごとに豚をオオカミの生け贄として差し出している村がありました。
捧げ物さえ途絶えさせなければ、オオカミは人を襲いません。
ところがある日、なぜかこの村の娘が一人犠牲に。
それは赤ずきんことヴァレリーの姉。
ヴァレリーは幼なじみのピーターと、親が決めたいいなずけのヘンリーの間で、心が揺れています。

実は、姉はヘンリーを密かに思っており、
妹のいいなずけとなったと聞いて世をはかなみ、
自らオオカミの前に身をさらした・・・と、思われたのですが。

村にやってきた魔物ハンターの神父は言います。
この村を襲っているのは、満月の夜にオオカミに変身する人狼だ。
月の赤い夜、このオオカミに噛まれると、その人も人狼になってしまう、と。
日中は人の姿をしているという人狼。
それはこの村に何食わぬ顔で潜んでいる。
誰もが怪しく、疑心暗鬼に駆られるのですが・・・。



憎むべき人狼ではありますが、
「トワイライト」の世界にも似て、人狼には次第にシンパシーを感じてきます。
もしかすると女の子には、オオカミに襲われてみたいという気持ちが潜んでいるのかも知れません。
意外な人狼の正体。
そしてなぜ姉は襲われたのか。
そういう筋立てもよくできていました。
ほの暗い童話世界の色調と、
アマンダ・セイフライドの妖しい大きな目。
乙女か。
魔女か。
ただひたすら清純でか弱い「赤ずきんちゃん」ではなく、
なまめかしい大人の「赤ずきん」。

キワモノですが、結構楽しめましたよ。

赤ずきん ブルーレイ&DVDセット [Blu-ray]
アマンダ・セイフライド,ゲイリー・オールドマン,ビリー・バーク,シャイロー・フェルナンデス,マックス・アイアンズ
ワーナー・ホーム・ビデオ


2011年/アメリカ/100分
監督:キャサリン・ハードウィック
出演:アマンダ・セイフライド、ゲイリー・オールドマン、ビリー・バーク、シャイロー・フェルナンデス
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「変死体 上・下」 パトリシア・コーンウェル 

2012年01月17日 | 本(ミステリ)
もはやSFではない、科学技術

変死体(上) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


変死体(下) (講談社文庫)
池田 真紀子
講談社


                    * * * * * * * *

「検屍官」シリーズの最新刊です。
スカーペッタはケンブリッジ法病理学ンターの局長となったのですが、
軍で研修を受けるため早々に任地を離れており、3ヶ月ぶりに帰還。
その間副局長としてジャック・フィールディングに留守を任せたはずが、
密かにとんでもないことが進行していた・・・。


この巻には、SFまがいの新兵器、新兵器となり得るものが登場します。
これについて著者は次のように述べています。

この作品はフィクションではありますが、SFではありません。
登場する最新の医学/法医学のプロセスやそのほかの科学技術、武器などは、
いずれも明日にも実現しようとしているものばかりです。
中には深い不安をかき立てるものもあるでしょう。
それでも、決して遠い現実ではないのです。



戦場で死体を回収するロボットや
ハエの姿に似せて飛び回る盗聴・盗撮ロボット
・・・まさにSFのようですが、実現可能とは!
核を初めとして、様々な科学技術は
兵器としての利用と平和利用が紙一重なんですね。
いえ、むしろ兵器として開発するからこそ、莫大な費用と労力を注ぎ込むのかもしれない。
少し前までには出てこなかったiPhoneやiPadが、
すでに登場人物たちには当たり前で欠くことのできないものになっています。
これが商品名で世界中に通用してしまうというのも、考えてみたらすごいですよね。
否応なく、私たちは様々な科学技術の進化の中を生きているわけです。


今作では、スカーペッタの身近な人に悲劇がふりそそぎます。
果たして彼女の部下がとんでもない殺人鬼だったのか!? 
真相は思いがけないところから現れます。
どこまでも平和に暮らせない彼女に同情を感じてしまいますが・・・。
マリーノとのぎくしゃくした感情はかなり元に戻ったようです。

スカーペッタとベントン、そして老犬ソックにしばしの安息を・・・!


「変死体 上・下」パトリシア・コーンウェル 講談社文庫
満足度★★★★☆
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やがて来たる者へ

2012年01月16日 | 映画(や行)
子守歌であると同時にレクイエム



               * * * * * * * *

1944年に北イタリアで実際にあった、マルザボットの虐殺を元にしています。


貧しい農家の一人娘マルティナは、
生まれたばかりの弟を亡くして以来、話をすることができません。
そしてまた母が妊娠。
新しく生まれてくる“弟”を彼女は心待ちにしていたのでした。



時は二次大戦下。
イタリアはドイツの支配下にあり、ドイツ軍が村にもやってきます。
しかし村の男たちはそんなドイツ軍に反抗し、
パルチザン組織に加わり反撃を試みる。
パルチザンの攻撃に業を煮やしたドイツ軍は、パルチザン一掃のため思い切った手段に出ます。
非武装の村人、主に女性や子供たちを虐殺・・・。



こういう悲惨な出来事を、物言わぬマルティナがじっと見つめ続けます。
その姿は、言ってみれば、
声高に自己の権利や思想を主張しない村人、民衆の姿。
彼らの生活を蹂躙するのは、戦争という名の巨大な何か。
マルティナが見るのはドイツ軍の残虐だけではありません。
パルチザンによるドイツ兵への殺戮も見ています。
敵とか味方ではない。
何か目に見えない狂気を彼女は感じ取ったに違いありません。


殺戮が繰り広げられたその村で、けれども小さな命の火は守りぬかれたのです。
物言わぬ民衆にできることは、
繋がれた小さな命に子守歌を歌うこと・・・。
その子守歌は亡き魂に捧げるレクイエムでもある。
心震える歌声に涙が溢れます。



このマルティナ、なんてきれいな子なのでしょう。
つい見入ってしまいました。
天使のようなその風貌で、
この悲惨な物語が一種のファンタジーめいた印象を残します。
いつまでも心の底に静かに残っていそうな、そんな作品でした。

「やがて来たる者へ」
2009年/イタリア/117分
監督:ジョルジョ・ディリッティ
出演:アルバ・ロルバケル、マヤ・サンサ
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007/ユア・アイズ・オンリー

2012年01月14日 | 007
テンション低下

                 * * * * * * * *

007シリーズ12作目ですが・・・
なんだかテンション低いですね。
もう飽きたというか、このシリーズを見るのが苦痛になってきた気がする・・・。
特に今作は・・・。
説明すべきあらすじなんてほとんど無いですしね。
東西の軍事バランスに多大な影響を及ぼすミサイル誘導装置ATACが、搭載した船ごと海底に沈みます。
それをどちらの陣営が引き上げ、手に入れるか、というのが眼目。
西側の代表がボンド、東側はギリシャの大富豪クリスタトスという構図。
まあ、どうでもいいのですが、追いつ追われつが延々とくりかえされる・・・と。
はっとするような新型マシンもなかったし、全体にもテンポがゆるくて。
最後まで見るのが苦痛でした。
何でこんなに無理してまで見なきゃならないのか、疑問になってきた。
これまではアナログの時代の中でも精一杯想像力豊かにいろいろな新型マシーンが登場して、
今見てもちょっとは面白かったよね。
今作はどうもイマジネーション欠如。
今時どこにもないような旧式パソコンが出てきたりするのはかえってしらけるというか・・・。
公開当時はそれが最先端だったんだろうけどね。
ITが現実、身近なものになりつつあるところが、
今から見ると逆に古さを感じさせてしまうと言うことか。
今作で一番面白かったのは、北イタリアコルチナのスキーリゾートシーンだね。
ボンドがいろいろなウインタースポーツをやってみせる。
ジャンプまでしたからね。
ちょっぴりコミカルで、楽しいシーンでした。
この作品、音楽がまたよくないのだな。なんだか明るすぎです。
もうちょっと、緊張感とか色っぽさとかダークな感じとか、マイナーなイメージもないと・・・。
これまでかろうじて音楽で大人の作品にとどまっていた部分もあるのに、これではね・・・。


・・・と、さんざんに言ったところで、次作「オクトパシー」なのですが、
なんとTSUTAYA DISCAS では見つからなかった・・・。
そこまで人気が落ちてきていたのか。
この品揃えもどうかとおもうけど・・・。
今作のできがよくないので、見限った人が多かったのでは・・・?
いやあ、やっぱりね。
ほんと、もうよしましょうか。
けど、せっかく乗りかかった船なんだからさ。
それでもまだまだ続いたところを見れば、また、面白くなるのかもしれないし。
とりあえず、次回は気分を変えて、その「オクトパシー」と同年に公開された「ネバーセイ・ネバーアゲイン」にしよう!
なんとこれがショーン・コネリーの返り咲き。
ちょっとは期待できるかな?

007 ユア・アイズ・オンリー アルティメット・エディション [DVD]
ロジャー・ムーア,トポル,キャロル・ブーケ
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン


007/ユア・アイズ・オンリー
1981年/イギリス/128分
監督:ジョン・グレン
出演:ロジャー・ムーア、ジュリアン・グローバー、キャロル・ブーケ、トポル
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「蜘蛛女のキス」 マヌエル・プイグ 

2012年01月13日 | 本(その他)
そこに真の理解と愛はあったのか?

蜘蛛女のキス (集英社文庫)
野谷 文昭
集英社



                   * * * * * * * *

著者はアルゼンチンの作家で、通常なら私は滅多に手に取らない類いの本です。
少し前に、書評家豊崎由美さんのこの本の書評を新聞で拝見して興味を持ちました。
まさに、豊崎氏の応援が効を奏したということで。


それにしても風変わりな作品です。
登場人物はほとんど二人だけ。
ブエノスアイレスの刑務所。
監房で同室になった二人。
同性愛者のモリーナと革命家バレンティンです。
モリーナは未成年者の猥褻幇助罪で、
バレンティンは労働運動の煽動者として投獄されており、
全く異質な二人なのです。
退屈紛れに、モリーナが以前見た映画のストーリーを事細かに語っていきます。
この本はこの映画のストーリーについての会話がほとんどを占めていまして、
まあ、それだけでも面白いのですが・・・。
バレンティンが感想を挟むなどするうちに、次第に二人の心は接近していきます。


モリーナは並の女性よりもよほど甲斐甲斐しく体の弱ったバレンティンの世話をします。
実に、心打たれるほどに・・・。
しかし、なんと油断のならないことに、モリーナはある使命を持っていた・・・。
二人の関係は次第に濃密になっていき、
そして思いがけなくも切ない結末が・・・・。
しかし、二人の間に真の理解と愛があったのかどうか、
それは読み手にゆだねられています。


解説で三浦しをんさんが言っています。
この「わからなさ」、二人の真意が明確にされないことこそが、
人間の真実、言葉の無力と希望を、これ以上なく表現している、と。
「一瞬の光の連なりに過ぎない映画を見て、
映画館にいる観客が不思議な高揚と一体感を覚えることがあるように」
ほんの一瞬だけ、同じ影を見て心が重なった二人。
性別は関係なしにそれは美しく貴重な一瞬ですね。


さて、モリーナは実に細かく映画を覚えていますね。
私は自分の見た映画をこんなに事細かに人に伝える自信はありません。
ところで、彼女(彼?)の語った映画はすべて実在の映画なのでしょうか。
題名が語られないので、確かめようがありませんが・・・。
一番初めの「黒豹女」は、キャット・ピープルですね。
それは是非今度見てみよう・・・。


「蜘蛛女のキス」マヌエル・プイグ 集英社文庫
満足度★★★★☆
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エンディングノート

2012年01月12日 | 映画(あ行)
身にしみて考えることがいっぱい



               * * * * * * * *

ガンで余命宣告を受けた父親が、
家族へあてたエンディングノートを残すまでを記録したドキュメンタリーです。
是枝裕和監督率いる映画制作スタッフの一員である砂田麻美さんが
自らの父親の様子を克明に記録したものです。


父、砂田知昭氏は日本の高度経済成長期を支えた熱血営業マン。
67歳で会社を退職し、さてこれから第2の人生を謳歌しようという矢先、
突然にガン宣告を受けたのでした。
砂田氏はこれまで「段取りが命」として仕事をしてきた方。
だから自身が死に至るまでの段取りをきっちりつけておかなくては気が済まない。

死ぬまでにやっておきたいことは・・・。
死んだときに連絡する先は・・・。
お葬式は・・・。



一つ一つ実行できることはやって、準備も考え得ることはすべて整えておく。
ガン細胞は増大し、なんでこんなに元気でいられるのか?と医師も首をひねるほどだったのですが、
それでも不意に終焉の日は訪れます・・・。
非常に重いテーマでありながら、この砂田氏の笑顔。
これに救われます。
どんどん痩せてやつれていく現実を克明に映し出しながらも、
なぜかトーンは明るいのです。


余命宣告というのはいかにも残酷、と今まで思っていましたが、
こういう死に方は意外と悪くないのでは・・・。
ちょっと不遜かもしれませんが、そんな風に思えてきました。
作品中にもありましたが、砂田氏の奥様とお母様が
「ある日眠りについたまま、そのまま死ぬのがいい、そういう風に死にたい」
と話していました。
私もそう思っていましたが、これだと死ぬための準備はできませんよね・・・。
少なくとも私くらいの年では、それが明日だとは思っていません。
けれど現実はすぐ明日なのかもしれない。
よほど高齢でない限りは、全く予測不能です。
けれど余命宣告を受けた場合、ある程度先が読めるわけです。
これだと本人も家族も、徐々に心と現実的対応の準備期間ができる。
こうして家族に囲まれてベッドの上で死んでいけるというのは、
案外に幸せなことなのではないかと思ってしまいます。



この作品のすごいのは、リメイクではなくて、すべて現実、本人の記録であるところ。
生き様、ではなく死に様なのですが、鮮やかです。
いつかくるその日をこんなふうに迎えられたらいいな
・・・などと今、思うのですが、
実際に、こんなに冷静に自分の死を見つめられるのかどうか。
そこの所は自信ありません。

病気の女の子の話は苦手ですが、
病気の“大人”の話は、身にしみて考えることがいっぱいです。

2011年/日本/89分
監督:砂田麻美
出演:砂田知昭
制作・プロデューサー:是枝裕和
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