放送が終わると、喪失感と安ど感が入り混じったなんともいえぬ思いがその場を包んでいた。しばらく沈黙があった後、主人が足を崩し次郎に、
「堀越君。君はこれからどうする。もう、勤めに行かなくてもよくなるのでは・・・。」
と、尋ねた。次郎は正座のまま主人の方を向き、
「・・・とりあえずここを離れ、実家へ戻ろうと思います・・・。」
と、答えると、主人は少し残念そうに、
「そうか・・・。それがいい。」
と、言った。
すると夫人は、しんみりする二人を見て、
「さぁ。みなさん。私達の戦はこれからです! 腹が減っては戦が出来ぬですよ。お昼御飯用意しましたから、皆で食べましょう。」
と、元気づけるように声を張ると、次郎と主人は顔を見合わせ軽く笑った。
信州は都市ほど食料不足を感じなかった。それはこの地域の豊かな自然が主な資源だったからであるが、味噌や醤油、砂糖といった調味料はさすがに不足していた。それでも夫人の作ったサツマイモご飯とたくわんは大変美味しく次郎達を明るくした。
食事が済むと、主人は改めて、
「堀越君。先ほど帰省すると言っていたが、いつここを?」
と、帰郷について尋ねた。次郎はためらうことなく「明朝。一番の汽車で・・・。」と答えると夫人は箸を停めて、
「お急ぎですのね。淋しくなりますわ。今まで忙しかったのですから、ゆっくりしていらしゃればよろしいのに・・・。」
と、残念がるも、主人は次郎の気持ちを察して、
「・・・そうか。まぁ、私達には分からない事も色々あるだろうからな。」
と、言った。すると次郎は軽く頭を下げ、
「・・・勝手言ってすいません。食事を済ませたら荷物の整理を始めます。」
と、言うと、
「何か手伝えることがあったらおっしゃってくださいな。」
「ふむ。遠慮する事はない。何でも言ってくれたまえ。」
と、夫妻そろって優しい言葉を掛けてくれたので、次郎は恐縮してしまい、「ありがとうございます。」と、言って再び頭を下げた。
六畳の自室にはほとんど物を置かなかった。ここに来た時からまたいずれ異動があるだろうと思っていたからだ。押し入れから少し大きめの皮の手提げかばんを取り出すと、借りていた箪笥から衣類やわずかな筆記用具、計算機、日用必需品を出してカバンに詰めた。
「堀越君。君はこれからどうする。もう、勤めに行かなくてもよくなるのでは・・・。」
と、尋ねた。次郎は正座のまま主人の方を向き、
「・・・とりあえずここを離れ、実家へ戻ろうと思います・・・。」
と、答えると、主人は少し残念そうに、
「そうか・・・。それがいい。」
と、言った。
すると夫人は、しんみりする二人を見て、
「さぁ。みなさん。私達の戦はこれからです! 腹が減っては戦が出来ぬですよ。お昼御飯用意しましたから、皆で食べましょう。」
と、元気づけるように声を張ると、次郎と主人は顔を見合わせ軽く笑った。
信州は都市ほど食料不足を感じなかった。それはこの地域の豊かな自然が主な資源だったからであるが、味噌や醤油、砂糖といった調味料はさすがに不足していた。それでも夫人の作ったサツマイモご飯とたくわんは大変美味しく次郎達を明るくした。
食事が済むと、主人は改めて、
「堀越君。先ほど帰省すると言っていたが、いつここを?」
と、帰郷について尋ねた。次郎はためらうことなく「明朝。一番の汽車で・・・。」と答えると夫人は箸を停めて、
「お急ぎですのね。淋しくなりますわ。今まで忙しかったのですから、ゆっくりしていらしゃればよろしいのに・・・。」
と、残念がるも、主人は次郎の気持ちを察して、
「・・・そうか。まぁ、私達には分からない事も色々あるだろうからな。」
と、言った。すると次郎は軽く頭を下げ、
「・・・勝手言ってすいません。食事を済ませたら荷物の整理を始めます。」
と、言うと、
「何か手伝えることがあったらおっしゃってくださいな。」
「ふむ。遠慮する事はない。何でも言ってくれたまえ。」
と、夫妻そろって優しい言葉を掛けてくれたので、次郎は恐縮してしまい、「ありがとうございます。」と、言って再び頭を下げた。
六畳の自室にはほとんど物を置かなかった。ここに来た時からまたいずれ異動があるだろうと思っていたからだ。押し入れから少し大きめの皮の手提げかばんを取り出すと、借りていた箪笥から衣類やわずかな筆記用具、計算機、日用必需品を出してカバンに詰めた。