田中雄二の「映画の王様」

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「食欲増進作用のある映画を観たい」『犬の生活』『黄金狂時代』『モダン・タイムス』

2014-10-30 08:21:57 | 名画と野球のコラボ

名画投球術 No.9「(食欲の秋)食欲増進作用のある映画を観たい」チャールズ・チャップリン



 俗に三欲(物欲、食欲、性欲)といわれる人間の欲求の中で、もっとも根源的なものは食欲だろう。ほかの二つはほどほどに我慢できたり代用も利くが、食事だけは毎日取らずにはいられないし、食いだめもできない。食べなければ人間、生きてはいけないのだから。

 映画の中でも食事のシーンは重要な役割を果たす。それによって登場人物の置かれている環境や、生活水準、心情などを観客に一目で知らせることができるからだ。そして映画史上最も食べることに敏感で、食事することを至芸の域にまで高めて見せたのがチャールズ・チャップリンである。幼少期の極貧生活に裏打ちされた凄味さえ感じさせるその芸は、豪華な料理を見せられる一時の快楽よりも、より直結した部分で私たちの食欲を刺激する。

盗塁? 盗み食い? 『犬の生活(1918・米)』



 職探しに失敗した浮浪者チャーリーは、野犬の群れから自分と境遇が似ている一匹の野良犬=スクラップスを助け出す。それが縁で彼らのおかしな共同生活が始まる。ドタバタ・コメディーからストーリー性のあるコメディーへ、チャップリンの移行期の一作。原題の「a Dog's Life」には“惨めな生活”という意味も含まれている。

 この映画に登場する食材はホットドッグ。職にあぶれ、空腹の主人公がスタンドで売っているホットドッグをつい盗み食いするシーンが圧巻。店主の目をくらまし、最初は罪の意識から少しずつ、だが結局は全部食べ尽くしてしまう本性をチャップリンが見事に表現。ファストフードの代表であるホットドッグが彼の芸にかかるとすごいごちそうに思えてくる。

なんとスパイクを… 『黄金狂時代(1925・米)』



 舞台はゴールドラッシュに沸くアラスカ。この地にやって来た浮浪者チャーリーの一攫千金の夢とはかない恋が、ギャグとスリル、そしてペーソスで描かれる。チャップリン初の長編で、彼の作品の中でも最高傑作と評されることが多い。

 登場する食材はなんとチャップリンのトレードマークである“ドタ靴”。山小屋に閉じ込められたチャーリーと相棒が、飢えをしのぐためになんと革靴を食べるのだ。上皮と底をナイフとフォークでステーキのように器用に切り分け、靴ひもをフォークを使ってスパゲッティのように皿に載せ、釘をフライドチキンか魚の骨のようにしゃぶる。一瞬豪華なディナーと見紛うばかりの究極の食事? 靴がおいしく見えるなんて! ほかにもパンとフォークを使ったダンスシーンも有名だ。

管理野球か、管理社会か 『モダン・タイムス(1936・米)』 



 大工場のオートメーション化に神経を狂わされた工員チャーリーの受難を通して、金と時間と機械に支配された近代社会を痛烈に風刺した、チャップリン最後のサイレント映画。製作から60年余を経た現代にも通じるところが少なくない、先見の明を感じさせる傑作。

 この映画には、食事中も流れ作業の手を止めさせないための自動給食機が登場する。その実験の被験者となるチャーリー。いすに固定された彼は、無理やりスープを飲まされ、自動ナプキンで口元をこすられ、回転するトウモロコシを押し込まれる。やがて機械が故障し、大爆笑となるのだが、このシーンを見ると、日頃当たり前だと思いがちな「自分の手で自由に好きなものが食べられる幸福」を感じずにはいられない。


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