田中雄二の「映画の王様」

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「BSシネマ」『7月4日に生まれて』

2023-05-16 06:37:12 | ブラウン管の映画館

『7月4日に生まれて』(89)(1992.1.28.)


 
 高校生のロン(トム・クルーズ)は、愛国心から海兵隊に入隊し、ベトナムの最前線で重傷を負う。身も心も深く傷つき、障害者となって帰還したロンは、戦場での苦しい経験や戦争そのものに疑問を感じ、反戦運動に加わっていく。オリバー・ストーン監督が『プラトーン』(86)に続き2度目のアカデミー監督賞に輝いた。

 どぎつくて、しつこくて、これでもかというほどに、まるでプラカードを掲げて自らの主張を強硬に述べているような映画である。天下の二枚目トム・クルーズをおもちゃにして…といった批判も多かったと聞く。

 ただ、オリバー・ストーンの怖いところは、そうした反発も、逆にエネルギーに変えてしまうような異様なパワーをもっているところだろう。実際、何だかんだと言われながらも、2時間半近くを使って、この救い難い話を見せ切ってしまう力量は並大抵ではない。

 ただ、1960年代の日本とアメリカにおけるベトナム戦争へのスタンスは天と地ほども違う。片や敗戦から立ち直り、驚くべき経済成長を遂げ、遠くからベトナムを眺めながらもうけていた日本、こなた他国の戦争に介入し、身も心もボロボロになってしまったアメリカ…。

 だから、所詮われわれ日本人に、この映画のような声高な叫びの本質が分かるはずもないのだ。まるで鋭い刃物を喉元に突き付けられて、「お前らは、朝鮮でも、ベトナムでも、湾岸でも、何も傷ついてはいない」と言われているような、後味の悪さを感じさせられるからだ。

 ところで、この映画以降、ストーンの評判が急落したが、同じように『あげまん』(90)以降急落した伊丹十三と似ていなくもない。その理由の一つは、彼らのくどさが度を越したので、見る側が辟易してきたからだと思う。それでも懲りずに、ストーンは『JFK』(91)、伊丹は『ミンボーの女』(92)ときた。その執念はすごいというべきか。


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