『おとうと』(10)(2011.5.10.日曜洋画劇場)
この映画で吉永小百合と笑福亭鶴瓶が演じた吟子と鉄郎という賢姉愚弟は、言わば、『男はつらいよ』の愚兄賢妹、寅(渥美清)とさくら(倍賞千恵子)の関係を逆にしただけ。
舞台も、だんご屋から薬局、帝釈天参道から住宅街、京成金町線(柴又)から東急池上線(石川台)、江戸川から多摩川、一部東京から大阪へと変化しているものの、店の外を映して季節や出来事、人の心の変化を見せる手法は『男はつらいよ』と同じだ。
そして、ある一家族を描きながら、そこに民営のホスピスの存在(脇役・横山あきおの存在が光る)など、社会問題を巧みに描き込むところも昔と変わらない。だが、若い頃は反発を覚えた、この山田洋次の“偉大なるワンパターン”が、自分が年を取るに連れて心地良いものとして映るようになってきた。
この映画には、姉弟のほかにも、姑・嫁・娘という3代の女性の姿が描かれる。特に3人が共にする、最初と最後の食事の場面でさりげなく月日や心情の変化を見せる演出が秀逸。ボケかかった加藤治子の姑が、毛嫌いしていた鉄郎のことを、「何だかかわいそうになっちゃってね」と語るところがおかしくも悲しい。
やっかいだけど切るに切れない家族という存在は、年を取るほど重くなる。そして、悲劇と喜劇は常に紙一重だということ。これも山田洋次がずっと変わらずに語ってきたことだ。
鉄郎が大好きな「王将」は、実在の大阪の棋士・坂田三吉と女房の小春をモデルに描いた北条秀司原作の戯曲による。村田英雄が歌って大ヒットした「王将」(西条八十作詞、船村徹作曲)は後に出来た曲。
親が言うには、「『王将』はおまえが初めて覚えた歌で(うちにシングルレコードがあったのだ)、子どものくせに“吹けば飛ぶような将棋の駒に~”とか“愚痴も言わずに女房の小春~”などとよく歌っていた」らしい(われながら嫌なガキだ)。
先ごろ読了した『わが思い出のヒーローたち 大衆文芸の昭和史』(武蔵野次郎)で舞台や映画における『王将』のエピソードを読み、つい最近、縁あって阪妻主演の映画『王将』について調べて書いたことも印象深い。
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