『スモーク」(95)(1996.3.20.)
ニューヨーク、ブルックリンの小さなタバコ屋を舞台に繰り広げられる人間模様を、それぞれの真実と嘘、現在と過去を交錯させながら描く群像ドラマ。監督はウエイン・ワン。店主のオーギーをハーベイ・カイテル、常連客のポールをウィリアム・ハートが演じている。
去年の公開時に見逃して悔いが残っていた。何しろ目にする批評はおおむね好評で、ウエルメイドな人間ドラマという触れ込みだったからである。ところが、いざ見てみると、思いのほか大きな感動は起きなかった。
この映画を、端的に表すなら「袖すり合うも他生の縁」「嘘も方便」といったところだろうが、例えば、同じ類の映画だったローレンス・カスダンの『わが街』(91)などと比べてみても、何だかさらっとしていて、ドライな映画という印象を受けた。
その理由として、皆が認める流行に反発したくなるへそ曲がりなわが性格や、原作・脚本のポール・オースターの小説を全く読んでいないというところが、マイナス面として作用したことは否めない。
また、周りの情報に惑わされて、知らぬ間に、よくできたちょっといい話的なものを想像していたことへの反省もある。随分前の『一杯のかけそば』に、多くの人がだまされたようなものか。
ただ、この映画で描かれた以上に、実際のブルックリンは物騒な所なのだろう。何しろ昔々、治安の悪さからドジャースがロスに逃げたぐらいだもの。そう考えると、この一見ドライに見える人情噺が、実は最大級の奇跡の夢物語だったのかもしれないという気もしてくるのだ。
それにしても、ハーベイ・カイテルは、最近ますますデ・ニーロに似てきたなあ。
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