『ちいさこべ』(62)(1999.2.2.)U-NEXT
江戸の大火で両親を失い、裸一貫となった大工の若棟梁・大留の茂次(中村錦之助)が、焼け出された浮浪児たちを育てるおりつ(江利チエミ)と共に焼野の江戸に雄々しく立ち上がる姿を描いた山本周五郎の同名小説を田坂具隆監督が庶民の人情や哀歓を絡めて味わい深くつづった人間味あふれる名編。
ついに待望のビデオ化がかない、見たくてたまらなかった幻の映画を見られた喜び。そしてその期待を決して裏切らなかった作り手たちへの信頼増。やっぱり錦之助には江戸っ子の心意気を持った職人がよく似合う。
それにしても周五郎の原作短編をよくも3時間近くの長尺として映画化したものだとつくづく思う。まあその分、多少ストーリーが重苦しく長く感じられるところはあったが、逆に原作には登場しない利吉という人物を創造し、それを実弟の賀津雄に演じさせ、しかもそのキャラクターは主役の錦之助と対を成すものとくれば、あたかもコインの裏表を見るような効果が生じ、原作とはひと味違った話としての見方も出来た。
このあたり監督、 田坂具隆、脚本、鈴木尚之らの大いなる努力の跡がうかがえる。 また決して美人ではないが気立てのいいいかにも周五郎的世界のヒロイン・おりつに江利チエミを配した妙。錦之助を陰で 支える脇役の千秋実や織田政雄もいい。そして音楽は伊福部昭だ。
錦之助、田坂、鈴木、周五郎のコラボ作品は、結局この映画と『冷飯とおさんとちゃん』(65)しか作られなかったが、 「一心太助」 や 「宮本武蔵」シリーズに勝るとも劣らない錦之助の代表作と言っても過言ではない。 再評価を切に望む。
『冷飯とおさんとちゃん』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/8166866170dec5ca50b242c57d700c59
『赤ひげ』と山本周五郎原作映画
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/f6dd0ca1574fbed6a5436e5ba1323fde
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