先頃亡くなった大林宣彦監督が、70歳を機にその半生と映画論を縦横に語った「自伝のような一冊」で、装丁と絵を、同じく今年亡くなった和田誠さんが担当している。
この本は、著者の語りを、編集者やライターが文章としてまとめる、いわゆる聞き書き本の一種。自分も淀川長治先生との間で聞き書きをしたが、これがなかなか難しい。もともと語りと文章は別のものだから、担当者が聞いた話を、文章として適当に変えなければならないのだが、あまり変え過ぎると語り手の味を消してしまうことになるからだ。
その点、この本は大林監督の語りを見事に再現しているばかりでなく、とても読みやすい。赤川次郎氏が、解説「『ふたり』の思い出」の中で、「あの声で、かんでふくめるように語られると、誰でも「ああ、その通りだな」と納得してしまう。映像の人でありながら、あれほどの語りの達人だったのは不思議なくらいだ」と書いているように、大林監督は淀川先生に勝るとも劣らない語りの名手であった。
生前、ロングインタビューをした時、「大林映画は苦手」だと言っていた同行者が、取材後「話を聞いている時に感動して泣きそうになった」と告白したのを覚えている。ある意味、究極の人たらし。あの語り口に一体どれだけの人が魅了されたのだろうか。そんなことを思わせる一冊だった。