田中雄二の「映画の王様」

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『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)

2020-09-17 16:01:51 | 新作映画を見てみた

『ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(たんし)(Ballad)

 岩手県一関市で50年営業を続ける「ジャズ喫茶ベイシー」のマスター菅原正二氏にスポットを当てたドキュメンタリー映画。店の名前はジャズピアニストのカウント・ベイシーにあやかつて付けられた。

 アナログレコードで“音”を再生することにこだわり続ける菅原氏は「レコードを演奏する」「スピーカーは楽器」だと語る。それ故、開店以来、使い続け、日々調整を重ねてきたJBLのオーディオシステムから生み出される“音”は、聴く者に、演奏者がその場に現れたかのような錯覚を起こさせるという。

 この映画は、菅原氏へのインタビューを中心に、渡辺貞夫、坂田明らのベイシーでの生演奏や、阿部薫、エルビン・ジョーンズの生前の貴重なライブ映像、各界著名人のインタビューを収録している。中でも、指揮者の小澤征爾がジャズを語るところと、ナベサダが吹くチャップリンの「スマイル」が見どころだ。

 最初は、菅原氏と周囲の人々の、ジャズ好き独特のキザなスタイルや過度のこだわりが少々鼻に付くが、最後は、50年間一つのことをやり続けた男の矜持に胸を打たれるまでに変化した。

 ジャズ喫茶は日本独自の文化だという。コロナ過で、なくなったジャズ喫茶もあるのかと思うと寂しい気がする。今回は仕方なくオンラインで見たのだが、“音”にこだわったこの映画は、映画館で見るべきものだと感じた。

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『道』

2020-09-17 07:19:49 | 1950年代小型パンフレット

『道』(54)(1980.7.27.世界名作劇場)



 粗野な大道芸人ザンパノ(アンソニー・クイン)と、彼が買い取った少し頭の弱い女ジェルソミーナ(ジュリエッタ・マシーナ)は旅から旅の流れ者。そこにサーカスの綱渡りの青年“キ印”(リチャード・ベースハート)が現れ、奇妙な三角関係が生じる。サーカスの世界に憧れたフェデリコ・フェリーニが、大道芸人のわびしい生活と不器用な愛の悲しさを描いた名作。

 やっと見た! 期待通りの素晴らしい映画だった。フェリーニの初期の映画を見たことがなかった自分にとっては、これまで見た『甘い生活』(60)『サテリコン』(68)などから、ちょっと小難しいイメージがあったのだが、この映画は、情感がストレートに伝わってくる『アマルコルド』(73)の路線だった。それ故、素直に感動させられた。

 聖女を連想させるジェルソミーナ、粗暴で悪行ばかりだがどこが憎めないザンパノ。2人は与える者と奪う者という人間の両極を象徴する。そして2人の間に、真理の言葉を発する第三の男キ印を割り込ませることで、この映画には哲学的な側面が生じた。演じた3人もそれぞれ名演を見せる。また、フェリーニがこだわり続けたサーカスや、大道芸のもの悲しい描写が、映画全体に情感を与えている。

 ラスト、散々虐げた挙句に捨てたジェルソミーナの死を知ったザンパノ。彼はやっと失ったものの大きさに気づき、酒に酔い、一人浜辺で号泣する。そのバックに、ジェルソミーナがラッパで吹いていたあのメロディが…。何故かオレもザンパノと一緒に泣いたのだった。

 【今の一言】和田誠の『お楽しみはこれからだ』に載っていた、キ印がジェルソミーナを励ます名セリフ「どんなものでも何かの役に立つんだ。たとえばこの小石だって役に立っている。空の星だってそうだ。君もそうなんだ」は、拙書『人生を豊かにするための50の言葉-名作映画が教えてくれる最高の人生の送り方』でも紹介したが、もう一つキ印がジェルソミーナに語るこんないいセリフもあった。「奴(ザンパノ)はお前のことが好きなんだよ。ただ奴はそれに気づいていないだけなんだよ」 

アンソニー・クインのプロフィール↓


ジュリエッタ・マシーナのプロフィール↓


名画投球術 No.5「たまには映画もイタリアンといきたい」ニーノ・ロータ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/d99f98184f88ad18b0db44f37e379796
ジェルソミーナのテーマ
https://www.youtube.com/watch?v=QCYUda7-ZgM

パンフレット(57・東宝事業課(日比谷スカラ座 No57-9.))の主な内容は
「道」の人物について(高李彦)/フェデリコ・フェリーニ監督/「道」を彩る人々(アンソニイ・クイン、ジュリエッタ・マシーナ、リチャード・ベイスハート)/「道」それは新しいイタリア映画の出発点(飯島正)/かいせつ/ものがたり

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