田中雄二の「映画の王様」

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『バックドラフト』

2020-09-15 06:52:04 | ブラウン管の映画館

『バックドラフト』(91)(1991.8.24.日劇プラザ)

 

  消防士の兄弟(カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン)を中心に、火災現場での彼らの活躍と葛藤、彼らが謎の放火犯の正体を追う姿を描く。そんなこの映画の監督が、ロン・ハワードだと最初に聞いたときは、あれっ?と思った。これまでの彼の作品に共通して流れていたハートウォームなタッチと、消防士たちを描く骨太な映画のイメージがうまく結びつかなかったのである。

 そして、見終わった今、その予感が半ば当たってしまったような、妙な感慨に捉われている。例えば、映画が描いた消防士の中では、『タワーリング・インフェルノ』(75)でスティーブ・マックィーンが演じた、沈着冷静でタフでかっこいいオハラハン隊長のイメージが強く印象に残っているのだが、この映画に登場する消防士たちは皆人間くさくて、屈折の固まりのように描かれている。つまり、久しぶりに心地よい男の世界の英雄伝が見られると思っていた、こちらの期待を見事に裏切ってくれたのだ。

 確かに、実際には彼ら消防士とて決してスーパーマンではなく、普通の人間であり、ましてや命懸けの仕事をしているのだから、そうした人間くさい部分を、火事という一種のスペクタクルの中に描き込んだ意図は分かるのだが、もう少し、ストレートで勝負してほしかった、という思いが残って、映画の中に心底入り込めないところがあった。

 ただ、そうした不満を抱かせながらも、この映画が表現した“炎の魔力”はすさまじかったと言える。それは、放火魔や野次馬はもちろん、対する消防士たちも、形こそ違え、火が好きなのだということ。つまり、火を見ると無性に興奮する、という人間の本能を暴いているところがあるのだ。

 例えば、ラブシーンと消火活動を並行して映すことによって、彼らがどちらにも快感を得ていることが分かるし、最近のアメリカ映画にしては珍しく、たばこを吸うシーンがやたらと目に付く。特に、消防士たちが、消化現場で火災の最たる原因の一つである、たばこを一服、というシーンは奇異なものとして映るし、火に取りつかれてしまった者たちの哀れさすら感じてしまうのだ。そして、それと同時に、もはや単純なヒーロー伝が作れなくなってしまった今の社会の病根の深さも知らされる。

 主演のラッセルが体を張って随分と頑張っていたが、またもやスコット・グレンが見事な助演を見せ、ロバート・デ・ニーロが、久々に全てを食ってしまううな名演を見せた。

 また、どちらも、人間が持つ屈折を描いたという点で共通するとはいえ、ボールドウィンとドナルド・サザーランドの問答を見ながら、『羊たちの沈黙』(91)のジョディ・フォスターとアンソニー・ホプキンスの姿が重なって見えるところがあった。

【インタビュー】『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー』ロン・ハワード監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/034b9b32ed126b9e8c531d8a4ab698f0

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