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映画の王様

映画のことなら何でも書く

『新・イチロー伝説』(ロバート・ホワイティング、芝山幹郎)

2021-09-28 09:12:07 | ブックレビュー

イチローと白鵬(2011.1. 1.)

 年末に、偶然書店で見つけた『新・イチロー伝説』を楽しく読んだ。これはロバート・ホワイティングと芝山幹郎がイチローと過去の大選手を比較した対談集で、「クールな仮面をかぶっている点ではイチローはスティーブ・マックィーンと似ている」などの小ネタもなかなか面白かった。

 ところで、元日のNHKはまさにイチローざんまいだった。深夜から早朝に掛けての『イチロー2244安打 全部見せます!』はさすがに途中でくじけたが、夜の『イチロー ぼくの歩んだ道~特別対談「大リーグの10年」with糸井重里~』はしっかりと見た。

 その中で語られた、イチローが、シーズン最多安打の前記録保持者だったジョージ・シスラーの墓を訪ねたというエピソードは感動的だった。

 彼が語るシスラーとの不思議な縁を聞いていたら、去年、連勝中の白鵬がやはり双葉山との縁について語っていたことを思い出した。思えば、イチローと白鵬は、メジャーリーグと角界という伝統のある世界では異邦人であり、単に偉大な記録に迫ったり更新しただけではなかったのだ。だからこそ、彼らは目に見えない先達との縁を心の支えにしたのだろう。

 シスラーの孫が「イチローが祖父の記録を破れば祖父は忘れられてしまうかもしれないと恐れた」と語っていたが、それはまったく逆だ。ベーブ・ルースやタイ・カッブに比べれば地味なシスラーは、イチローによって再びその存在が注目されたのだから。白鵬の連勝中も、双葉山のほかに太刀山、梅ケ谷、谷風といった過去の名横綱の名がよみがえった。2人は記録を追うことで先達を球場や土俵に呼び戻したのだ。

【今の一言】今は大谷翔平がベーブ・ルースを呼び戻している。

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『ミステリ映画の大海の中で』(小山正)

2021-09-14 10:32:01 | ブックレビュー

 定価3800円の大冊故、時々図書館で借りて読むなどしていたが、ブックオフで見付けたので遂に購入。貴重な資料として、大いに活用させてもらおう。

 惹句に「映画ファンと読書家に捧ぐ 史上空前のミステリ映画ガイド。埋もれた名作から衝撃の最新作まで 映像史を覆す 傑作・怪作・珍作のすべて! 」とある通り、大変な労作である。

 目玉は、レイモンド・チャンドラー、ロス・マクドナルド、ジム・トンプソン、ウィリアム・キャッスル、ドナルド・E・ウエストレイク、ジョン・ル・カレ、マイケル・クライトン、トマス・ハリス、ロッド・サーリングと、作家別に映像化されたものを分類しているところ。「ミステリファンに捧げる異色のウエスタン映画」といったマニアックなコラムも楽しい。

 後半は、「ミステリマガジン」に連載された映画鑑賞記。全体の構成や著者の趣味などは、石上三登志と重なるところもある。

 「著者が調べたところ、19世紀末に映画が誕生してから2016年までに公開予定の 劇場映画とテレビシリーズでのミステリ作品の総数は、6~7万本だという。 とても、一人の人間が生涯をかけても全てを見ることはできない」と記されているが、これを映画全体で言ったら一体何万本になるのか、一体、自分は生涯でどれぐらいの映画を見ることができるのか、などと考えさせられてしまった。

 

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『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトン)

2021-09-04 09:29:58 | ブックレビュー

『ジュラシック・パーク』(マイケル・クライトン)(1992.8.)

 去年の夏、テレビの恐竜特集で、イベント化された博物館や化石発掘の様子を見ながら、何か怖れのようなものを感じたのだが、そんなわが思いに答えてくれたような見事な小説にぶつかった。その名も『ジュラシック・パーク』。何とここではバイオテクノロジーを利用して、現代に恐竜たちをよみがえらせてしまうのである。

 現代のバイオ産業の動きや、何でもテーマパークにしてしまう流れを考えると、これが全くの絵空事とはならないところが怖い。確かにこれは夢の実現である半面、自然や生命への冒涜とも言えるのだから。

 マイケル・クライトンという人は、ロボットが反乱を起こす『ウエスト・ワールド』もそうだったが、人間のおごりが生み出すゆがみや、テクノロジーへの依存過多の恐ろしさを、警鐘の意味を含めて、エンターテインメントとして面白く知らせてくれる。

 そしてこの小説の筆致の巧みさから、やはり、彼は映画監督ではなく作家なのだということを改めて知らされた思いがした。

 ところで、この実に面白い小説を、あのスピルバーグが映画化するとのこと。最近、ちょっとスランプ気味の彼にとっては、これが起死回生の一発となるのか。注目したい。

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『空の走者たち』(増山実)再読

2021-08-01 00:11:41 | ブックレビュー

 コロナ禍の中、複雑な思いを抱きながら東京オリンピックを見ている。そんな中、この本のことを思い出して再読してみた。いろいろと考えさせられることが多かった。

https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c6e9295de6670c99fc64969f9354a2ec

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『女のいない男たち』(村上春樹)

2021-07-05 10:10:21 | ブックレビュー

 自分は村上春樹の小説の熱心な読者ではないが、時折、仕事の関連で読むことがある。以前、『トニー滝谷』(04)を撮った市川準監督にインタビューをする際に、同作が収録された短編集『レキシントンの幽霊』を読んだが、今回は『ドライブ・マイ・カー』に主人公の妻の音役で出演した霧島れいかにインタビューをすることになり、同作が収録された、何らかの経緯で女性に去られたり、別れを経験した男性を主人公にした短編集『女のいない男たち』を読んでみた。

 まえがきに「この本は音楽で言えば「コンセプト・アルバム」に対応するものになるかもしれない。実際にこれらの作品を書いているあいだ、僕はビートルズの『サージェント・ペパーズ』やビーチ・ボーイズの『ペット・サウンズ』のことを緩く念頭に置いていた」とある。

 それ故か、ビートルズの「ドライブ・マイ・カー」と「イエスタデイ」がタイトルに使われており、後者の、関西弁で「イエスタデイ」を歌う木樽という男以外には、ビートルズとの直接的な関係は出てこないのだが、各編に記された映画や音楽の引用は興味深いものがあった。

 例えば、今回の映画の核となった「ドライブ・マイ・カー」は、「ヴァーニャ伯父=ワーニャ伯父さん」(アントン・チェーホフ)。

 「イエスタデイ」は、「イエスタデイ」(ビートルズ)のほか、ウディ・アレン監督・主演の『アニー・ホール』(77)「ライク・サムワン・イン・ラブ」(ビル・エバンス)、バリー・ホワイト。

 美容整形外科医が主人公の「独立器官」は、フランソワ・トリュフォー監督の『夜霧の恋人たち』(68)

 今回の映画で、妻の音が語る話として使われた「シェエラザード」は、『千夜一夜物語』の挿話から。

 今回の映画でも、少し引用され、主人公がジャズバーを開く「木野」は、アート・テイタム、「ジュリコの戦い」(コールマン・ホーキンズ)、「ジョージア・オン・マイ・マインド」(ビリー・ホリデイ)、「ムーングロウ」(エロール・ガーナー)、「言い出しかねて」(バディー・デフランコ)など。

 そして、最後の「女のいない男たち」は、自殺した昔の恋人が好んだ「エレベーター音楽」として、「白い恋人たち」(フランシス・レイ)、「夏の日の恋」(パーシー・フェイス)、「ムーン・リバー」(ヘンリー・マンシーニ)など。

 各編、語り口や話にはなじめないところもあるのだが、こうしたディテールを絡めて読むと別の魅力が浮かび上がってきた。そして、瀧口竜介監督と脚色の大江崇允は、この短編集を見事に映画として成立させたものだと感じた。

『ドライブ・マイ・カー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/41626c461e7a54dfd9fdae42a3a35204

【インタビュー】『トニー滝谷』市川準監督
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/84b13d3bfb9242b59a7c1427ac35da53

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『東京人』2021.6.特集「江戸東京探偵散歩」』

2021-05-30 07:38:16 | ブックレビュー

 江戸・東京を舞台に数々の難事件を解決してきた名探偵たちの足跡を、地図と写真でたどる特集。

 登場作品の中で、自分が読んでいたのは、『半七捕物帳』(岡本綺堂)『人形佐七捕物帳』(横溝正史)『鬼平犯科帳』(池波正太郎)明智小五郎もの(江戸川乱歩)『猫は知っていた』(仁木悦子)『張込み』『砂の器』(松本清張)『火刑都市』(島田荘司)『マイナス・ゼロ』(広瀬正)『虚無への供物』(中井英夫)岡坂神策もの(逢坂剛)『ホック氏の異郷の冒険』(加納一朗)。

 記事としては、「ミステリで読む都市東京」(川本三郎)と、川本さんと逢坂さんの対談が面白かった。

 この中で、清張原作のほかに映画になったのは『猫は知っていた』。その他、『虚無への供物』はNHKでドラマ化(よくぞ!)された。また、『マイナス・ゼロ』はラジオドラマになっているという。ぜひ聴いてみたい。

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『映画のメリーゴーラウンド』(川本三郎)

2021-05-22 07:19:05 | ブックレビュー

『映画のメリーゴーラウンド』

 「一本の映画の話をすると、その監督の別の映画を思い出す。舞台となった場所は、前にあの映画でも印象的だった、とか。映画の話は止まらない…。ちょっとした小物、小道具が、そこに込められた思いを想像させ、いろいろなことを暗示する」

 という、うたい文句の、川本三郎お得意のディテールにこだわった“映画のしりとり遊び”本。だからタイトルはぐるぐる回るメリーゴーラウンド。ウディ・アレンの『女と男の観覧車』(17)で始まって、ぐるっと回って、最後は『アニー・ホール』(77)『マンハッタン』(79)で終わる。

 「ぴあ」アプリ版の連載をまとめたものだから、さらりと読める。川本さんがとうとうWEBにも進出したか、という感じもした。

 前にどこかで読んだ話題も少なくないが、最近、物忘れが激しくなった自分から見れば、老いてますます盛ん、といった感じもして、その記憶力の良さはうらやましい限り。

 自分が映画の細部に目が行くようになったり、関連付けをするようになったのは、この人の影響が大きい。だから、その健在ぶりがうれしくもあるのだが、クラシック音楽や文学に関する素養では、悔しいかな全くかなわないと改めて思わされた。

 

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『キネマの神様 ディレクターズ・カット』(原田マハ)

2021-05-11 09:17:30 | ブックレビュー

 原田マハの『キネマの神様』を基に、山田洋次監督らが映画化のために書いた脚本を、原田自らが小説化。ちょいとややこしい。

 原作の設定は、大手企業を辞めた39歳独身の歩が、映画雑誌「映友」の編集部に採用され、ひょんなことから、映画狂の父ゴウのブログをスタートさせると、それが評判となって…というもの。

 ところが、映画の方は、ゴウを松竹撮影所の元助監督とし、過去と現在を交錯させながら描くという、全く別の話になっている。

 これについて、原作者はどう思っているのだろう。ここまで話を変えられても納得しているのだろうか、小説と映画は別物だと心得ているということなのか、などと考えていた。

 ところが、原田自身は「映画化されるなら、山田洋次監督に」と念願し、「自分が書いたのは、映画を受けとめる映画愛好家としての目線から映画を追い掛けたものだが、映画の方は、映画をクリエイトする人たちの姿が描かれている」として、すっかり納得している様子。原作者がそう思っているのなら、こちらが要らぬ心配をする必要はない。

 で、このアナザーストーリーを読んでみると、映画愛と家族愛という、原作の重要な二つのエッセンスを違った形で表現しながら、そこに山田監督が、自らの撮影所へのノスタルジーを巧みに絡ませていると感じた。

 ただ、正直なところ、どちらが胸に迫るかと言えば、圧倒的に原作の『キネマの神様』の方だった。やはり完成した映画は“別物”として見ることになりそうだ。

 また、一つ不満を述べれば、映画内映画のアイデアの件で、『キートンの探偵学入門』(24)についての言及はあるが、もっと似ているウディ・アレンの『カイロの紫のバラ』(85)について全く触れていないのは、いかがなものかと思った。

『キネマの神様』(原田マハ)を再読
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/8028269b0cf5e5baa9d099d34fda3589

『キネマの神様』映画化
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/be04af1e41136f3c6139284693fb5e85

志村けん、新型コロナウイルスによる肺炎で死去
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/82386d337eb858f3091093ce5878f3ed

山田洋次監督最新作『キネマの神様』 志村けんの代役に沢田研二
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/35da813b280bbadb38a56767f893d79e

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『オレたちのプロ野球ニュース』(長谷川晶一)

2021-04-12 23:09:13 | ブックレビュー

 1976年、プロ野球報道が、まだ巨人中心だった時代に「12球団公平」をモットーに掲げ、各試合を詳細に伝えた「プロ野球ニュース」が放送を開始した。

 折しも、セ・リーグは、74年に巨人の連続優勝が9年で途切れて中日が優勝。翌年は広島が、78年にはヤクルトが初優勝した。80年には王貞治が引退し、長嶋茂雄監督が辞任した。一方、パ・リーグは70年代の阪急に続いて、82年からは西武が黄金時代を迎える。ところが、89年には老舗球団の南海と阪急が身売りをし…。

 といった具合に、70年代後半からプロ野球界は急激な変化を遂げたが、その時代に、最も詳しく丁寧にプロ野球を伝えたのが「プロ野球ニュース」だった。その意味では、この番組がプロ野球の発展に果たした役割は大きなものがある。

 当時、巨人以外のチームの動静や、メジャーリーグにも興味を持ち始めた自分にとっては、まさに渡りに船の番組で、ほぼ毎晩欠かさず見たものだった。

 本書は、佐々木信也、野崎晶一、須田珠理、福井謙二…といった歴代キャスターをはじめ、解説者の土井淳、平松政次、大矢明彦、フジテレビ系列各局のアナウンサー、カメラマン、編集マン、番組ディレクターなど、20人以上の関係者へのインタビューを基に、「プロ野球ニュース」の誕生から地上波撤退までを詳細に追ったノンフィクション。彼らの言葉の端々から、野球がスポーツの王様だった時代を過ごした者たちの矜持がにじみ出る。

 筆者は自分よりも10歳年下だが、よく調べたもの、そしてよく聞いたものだと感心させられた。ただ、自分にとっての「プロ野球ニュース」は、76年から88年までの「佐々木信也時代」だったことに改めて気付かされもした。

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「流行感冒」(志賀直哉)

2021-04-11 09:28:54 | ブックレビュー

NHKドラマ「流行感冒」

 小説家の私(本木雅弘)は、妻の春子(安藤サクラ)と4歳の娘の左枝子、2人の女中と共に暮らしていたが、最初の娘を病気で亡くしたため、左枝子の健康については臆病なほど神経質だった。

 大正7年(1918)秋。流行感冒(スペイン風邪)がはやり、感染者が増え始める中、女中の石(古川琴音)が、村人が大勢集まる旅役者の芝居興行を見に行ったのではないかという疑惑が浮上する。

 感冒が流行する中、理性を失い、無闇に人間不信に陥った主人公が、人への信頼を取り戻していく姿を描く。

 このドラマの原作である志賀直哉の短編「流行感冒」(新潮文庫『小僧の神様・城の崎にて』所収)は、昔読んだのだが、その存在をすっかり忘れていた。そして、ドラマを見ながら、確かに、今のコロナ禍と符合するする話だと思い、読み直してみると、短編小説の名手と呼ばれる志賀直哉の本領を改めて知ることができた。

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