第153回芥川賞受賞作。
又吉直樹 の『火花』と同時受賞だったため、まったく目立たない作品でありましたが、それでも20万部を売った小説として実力がある作品です。
主人公は会社を辞めて資格試験の勉強をしながら就活している無職の若者です。
彼は、何かを壊し何かを作り上げるスクラップ アンド ビルドの精神の持ち主であります。
会社を辞め、新しい仕事を探すのもそうですし、趣味の筋トレも筋肉組織を破壊して痛みの果てに超再生で筋肉を増強するようにイメージを重ねていきます。
使わないものは衰える。使って壊して、また再生することにより進化・成長していくのが彼の描く世界観なのです。
彼は、惚けて体もまともに動かせない祖父と暮らしていています。祖父は、じいちゃんはバカになってしまった、早く死にたいと口癖のように言います。
祖父は尊厳死(苦痛の無き死)を願っていると思い込み、それを成し遂げさせてやろうと算段します。その方法は、祖父を甘やかし、自分の手でやれることをしてやることで、衰えを加速し、死に近づけていくことなのです。
自分でやろうとしているのを根気よく待つより、やってやった方がずっと自分も楽ですし。
その人を長生きさせようと思ったら、根気よく待ってやる、一見、厳しいように見えるやさしさが必要なのです。
壊れてしまって、再生が望めない者をそれでも根気よく見守っていけるのか、それとも快適な生活を補助してやり死期を早めていく見せかけの優しさでつつんであげるのか、どちらがお互いに幸せか解らなくなりました。
超高齢化社会に突入していく日本に住む人にタイムリーな小説だと思います。
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