吉村昭の短篇集。
9本の短篇が載っていますが、9本とも当たりの出来で流石と言うほかありません。
どうして、こんなに静かな世界で、盛り上げることができるのだろうと、純文学の醍醐味を味合わせていただきました。
1本目の「休暇」は、刑務所に努める男が、新婚旅行をするため、支え役(絞首刑時、罪人を下から支える役)を買って出る話です。支え役は誰もやりたがらないので、一週間の特別休暇をもらえるです。
2本目の「眼」は、角膜移植手術を生業にする医師が、死者の眼球を採取しに行く話です。眼球の採取は、法的に複雑で、違法だが無視されている部類の行為に当たり、死者と遺族の意見の相違もありますし、気が変わったりすることもあります。なんと言っても、鮮度が落ちると役にたたなくなります。
冒頭の2本から、強烈な話ですが、8本目の「老人と柵」は、奇妙な話で楽しめました。戦中、老人が住む家の周りに鉄条網が張られます。軍のものだと考えてそのままにしておくのですが、戦争が終わっても、壊れた柵を正体不明の組織が修復しに来るのです。柵は一か所出入り可能なように空いているので生活には支障がありません。誰が設置しているのか不明で、取り除くこともかなわず、いつしか老人は亡くなっています。
知らず知らずのうちに柵に囲まれ、これではイカンと思っているうちに、死期が訪れる。人間の一生とは、そういった面もあると思いました。
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