最新の芥川賞受賞作です。文芸春秋を購入して読みました。
今、話題のビットコインの話だと言うので、旬を逃さないように、わざわざ購入したのです。
一言で言って、現代社会の空虚さを受け入れながら生きている人たちのお話です。
バベルの塔のように天を目指して積み上げてような価値感と、それを投げ出し空に消えていくイカロスのような成功者。
それを見ている主人公は、感情とは関係のない無意識の涙を流す。
現代社会の概念で作られた価値のむなしさをよく写生しているという味で、すぐれた文芸だと思いました。
さて、純文学と言うからには、巧妙に隠された宝が埋まっているはずです。
それは何か。
現代人(40代以下)の最大の価値は承認欲求だと言われていますが、それを諦めた二人の登場人物(ニムロッドと田久保紀子)は空に消えます。
それに対して、ビットコインの創設者と同姓同名で、ビットコインの最小単位と同じ名を持つことにより図らずも承認欲求を満たされた主人公が、自分が新しい仮想通貨を作ったときに最小単位をニムロッドにしようと思いつきます。
この辺が、空虚さの堂々巡りで意味のない回転をつづける銀河に似ていて現代社会の見事な写実にまでなっていると感じました。