出勤中の遊び

正月太りの解消のために、徒歩で会社を行き来することにした。

私の携帯電話には歩数計がついており、それによると家から会社まで3.2ｋｍ。ゆっくりと歩いて大体30分から40分なので丁度良い距離だ。

道を歩く私の横を、サラリーマンが地下鉄駅に向かって慌ただしく駆け抜けていく。

道を歩く私の横を、楽しげに肩を叩き合う学生が通りすぎる。

白い息を吐きながら目に入る人を観察するのも面白いのですが、やはり飽きてきます。

ということで、もし今、観察している人が襲いかかってきたらどう対処するかをシミュレーションしながら歩くことにしました。

前からやってくる自転車。運転しているのは三十代から四十代くらいの男性。自転車のハンドルには傘が引っ掛けられている。

もしあの傘の先に毒物が塗ってあり、騎馬武者の如く私にそれを突き刺そうとすればどうするか。

右を見る。身をかわすスペースはある。

左を見る。店がある。店内に飛び込めるか？　いや、まだ開店前だ。扉も閉まっているだろう。左には逃げられない。

よし、避けるなら右だな。相手は左側に傘を引っ掛けている。左利きか？　なら左に避け、店の壁を利用して三角飛び蹴りをお見舞いするのも悪くない。

この思考。およそ三秒。

何事もなかったのように、自転車は私の横を通り抜けていった。私も何もしなかった。というか、三角飛び蹴りができる運動神経など持ちあわせていない。

命拾いをしたのだな、お互い。時代劇の侍のように心の中で呟いてみる。

出勤中の遊び。