4月某日。福岡天神の某カラオケボックスの一室にて
ゴールデンウィークもまだ始まっていない平日の昼間からカラオケにいけるのは学生くらいのものであろう。彼らもまたそんな暇な学生であった。
「スゲェ~~~~~~よなあ」
唯一、この部屋でマイクを握り締め熱唱している男に向かって、一人が感嘆の声を上げた。
この大音量の歌声の前には波打ち際の砂城のようなささやかなものだが、周りの人に聞こえるには充分な大きさであった。
「生まれる前よりも古い。リアル世代よりもその作品を愛してアニソンを唄う」
男と同じソファに腰かけるもう一人の男が飲み物を一口してからさらに口を開いた。
「あの唄い方を一挙一動作のどれを見ても、普通の人は引いてしまう事は免れないんだからなあ」
向かい側のソファに座るもう一人の言葉に、唄っている当事者以外は皆苦笑した。
「……それで、なんだって? 5月3日にアニソン13時間スペシャル? NHKーFMで」
男達はようやく本来の話題に戻った。マイクを握り自分の世界に入っている男はテレビに映る歌詞と映像に夢中なので会話に参加はしていないが、それは誰もが自分が歌う順番になれば同じ事なので気にはしていない。
「よーするに『公共放送』でしょ? マジメなやつ」
「ツマラナイよなあ~~~。民放に変わってほしいくらいだぜ」
ピタリと歌声がやんだ。
「え?」
男達が不思議そうにマイクを握る男の方を向いた。マイクの男は今までの熱唱で汗だくになったまま、静かな目で男達を見つめていた。
「オマエら……そんなにつまらないと思うか?」
真っ正直な質問に、男達は口黙ってしまった。さらに男は言葉を続ける。
「マジメなNHKだから……公共放送だからつまらない民放のアニソン番組よりも更にツマラない……その見識の浅さこそが、現代アニメファンの腐敗を助長する要因となっているのだ」
ぐうの音も出なかった。たしかに公共放送が作る番組だからツマラないという先入観を持ってしまえば、その番組を楽しむことはできなくなってしまうだろう。アニメに関する番組を楽しめなければ、それはアニメファンとして負けなのだ。
「おそらく俺は3日の番組を最後まで聞くことはないだろう……NHKのアニメに対する態度・経験・技術・放映年数……あらゆる要素を民放と比較分析してからの結論だ……が」
男は次に曲を入れた男にマイクを差し出した。
「ラジオのスイッチオフまでがいかに早くても、それは決してその番組が面白くしようとする努力を怠ったからではないということだ」
そして5月3日。
甘かった……
男はラジオの前で固まっていた。
切れない!! スイッチを切れば後悔する!!
ラジオから流れているのは「ガンモ・ドキッ!」であった。民放のアニソン番組でこの歌をフルコーラスで流せる度量はおそらくないだろう。
放送業界の雄! NHK……これほどだったのかッッ……
――――からって……
男の指がピクリと動いた。
だからって――――
その指が大きく…高く上がり……思い切りスイッチ目掛けて振り下ろされた。
どぉだってんだよぉおッッッ!!!
ぴ た
スピーカーから流れる曲が男の指を止めた。
……これは「戦士よ、起きあがれ」
サイバスター? アニメは不評だった奴? それを……歌手を呼んでライブで!?
……はっ!!
一曲丸々、聴いてしまった。焦りを帯びた顔で男は改めてスイッチを押そうとしたが。
ぴ た
嗚呼「Give a reason」 スレイヤーズだ。懐かしい……。
男はそれから何度もスイッチを切ろうとしたが、すべて切ろうとする前に、彼の衝動を呼び覚ますアニソンを流されてしまうのであった。
そして……ついに「ハッピー☆マテリアル」と「鳥の歌」で完全敗北を認めるのである。
いい勉強させてもらいました。ありがとうございます……。
男は目から零れ落ちそうな涙を拭こうともせずに、ラジオに一礼をした。
……いや、マジですごい番組でしたよ。掛け値なしで。
民放と違ってスポンサーがいないから、誰にはばかることなく自由に番組を作れるんだなぁ。
いや、恐れ入りました。NHKの底力はただものではなかったです。
ゴールデンウィークもまだ始まっていない平日の昼間からカラオケにいけるのは学生くらいのものであろう。彼らもまたそんな暇な学生であった。
「スゲェ~~~~~~よなあ」
唯一、この部屋でマイクを握り締め熱唱している男に向かって、一人が感嘆の声を上げた。
この大音量の歌声の前には波打ち際の砂城のようなささやかなものだが、周りの人に聞こえるには充分な大きさであった。
「生まれる前よりも古い。リアル世代よりもその作品を愛してアニソンを唄う」
男と同じソファに腰かけるもう一人の男が飲み物を一口してからさらに口を開いた。
「あの唄い方を一挙一動作のどれを見ても、普通の人は引いてしまう事は免れないんだからなあ」
向かい側のソファに座るもう一人の言葉に、唄っている当事者以外は皆苦笑した。
「……それで、なんだって? 5月3日にアニソン13時間スペシャル? NHKーFMで」
男達はようやく本来の話題に戻った。マイクを握り自分の世界に入っている男はテレビに映る歌詞と映像に夢中なので会話に参加はしていないが、それは誰もが自分が歌う順番になれば同じ事なので気にはしていない。
「よーするに『公共放送』でしょ? マジメなやつ」
「ツマラナイよなあ~~~。民放に変わってほしいくらいだぜ」
ピタリと歌声がやんだ。
「え?」
男達が不思議そうにマイクを握る男の方を向いた。マイクの男は今までの熱唱で汗だくになったまま、静かな目で男達を見つめていた。
「オマエら……そんなにつまらないと思うか?」
真っ正直な質問に、男達は口黙ってしまった。さらに男は言葉を続ける。
「マジメなNHKだから……公共放送だからつまらない民放のアニソン番組よりも更にツマラない……その見識の浅さこそが、現代アニメファンの腐敗を助長する要因となっているのだ」
ぐうの音も出なかった。たしかに公共放送が作る番組だからツマラないという先入観を持ってしまえば、その番組を楽しむことはできなくなってしまうだろう。アニメに関する番組を楽しめなければ、それはアニメファンとして負けなのだ。
「おそらく俺は3日の番組を最後まで聞くことはないだろう……NHKのアニメに対する態度・経験・技術・放映年数……あらゆる要素を民放と比較分析してからの結論だ……が」
男は次に曲を入れた男にマイクを差し出した。
「ラジオのスイッチオフまでがいかに早くても、それは決してその番組が面白くしようとする努力を怠ったからではないということだ」
そして5月3日。
甘かった……
男はラジオの前で固まっていた。
切れない!! スイッチを切れば後悔する!!
ラジオから流れているのは「ガンモ・ドキッ!」であった。民放のアニソン番組でこの歌をフルコーラスで流せる度量はおそらくないだろう。
放送業界の雄! NHK……これほどだったのかッッ……
――――からって……
男の指がピクリと動いた。
だからって――――
その指が大きく…高く上がり……思い切りスイッチ目掛けて振り下ろされた。
どぉだってんだよぉおッッッ!!!
ぴ た
スピーカーから流れる曲が男の指を止めた。
……これは「戦士よ、起きあがれ」
サイバスター? アニメは不評だった奴? それを……歌手を呼んでライブで!?
……はっ!!
一曲丸々、聴いてしまった。焦りを帯びた顔で男は改めてスイッチを押そうとしたが。
ぴ た
嗚呼「Give a reason」 スレイヤーズだ。懐かしい……。
男はそれから何度もスイッチを切ろうとしたが、すべて切ろうとする前に、彼の衝動を呼び覚ますアニソンを流されてしまうのであった。
そして……ついに「ハッピー☆マテリアル」と「鳥の歌」で完全敗北を認めるのである。
いい勉強させてもらいました。ありがとうございます……。
男は目から零れ落ちそうな涙を拭こうともせずに、ラジオに一礼をした。
……いや、マジですごい番組でしたよ。掛け値なしで。
民放と違ってスポンサーがいないから、誰にはばかることなく自由に番組を作れるんだなぁ。
いや、恐れ入りました。NHKの底力はただものではなかったです。