広く浅く

秋田市を中心に青森県津軽・動植物・旅行記などをご紹介します。

写研書体ついにデジタル化

2021-01-18 23:59:21 | 文字・書体
素人の知ったかぶり記事ですので、ご承知おきを。
今日、当ブログのアクセス解析を見たら、アニメ「クレヨンしんちゃん」のサブタイトルの書体「ファニー」と、「石井丸ゴシック体」の記事へのアクセスが、急に増えていた。
写真植字機(写植)メーカー「写研」の書体の記事である。
それらで触れたように、パソコンを使ったDTPが普及し、他社がパソコンで使えるデジタルフォントを発売していく中、写研はそれを拒んできた。1990年代までは写植が印刷の主流であり、写研の写植機・書体が印刷物やテレビの字幕などで、とてもよく使われていた。そんなトップメーカーであった写研も、今はごく一部でしか使われない。

そんな中、2011年には、写研が自社書体をパソコン用書体、つまりデジタルフォントとしての発売に向けて、準備中であることを公表。だけど、いつまで経っても続報なし。
2018年には、創業者の娘で(かつワンマンで?)あった社長が、92歳で逝去。
2020年には、埼玉県にあった写研の工場が解体。
写研の写植機は、ISDN回線がつながっていて、使った文字数分の料金を取られる仕組みなのだそうだが、そのISDNサービスは2024年で終了予定(「INSネットディジタル通信モード」2018年にNTT東西が発表)。
今も企業としては存続しているものの、この分ではデジタル書体発売はおろか、会社自体が…と思っていた。

アクセス解析を見た後、ネットをさまよっていると、情報を見つけた。驚いた。
「モリサワ OpenTypeフォントの共同開発で株式会社写研と合意」
元は写植の2番手メーカーであり、今はデジタルフォントのトップメーカーである「モリサワ」のプレスリリース。
写研の書体を、モリサワと共同開発という形で、デジタルフォント化することに合意したという。2024年から順次リリース予定。
※2社での「共同開発」であって、会社合併とか提携とか、譲渡とかでない。

モリサワは、写研から独立してできた企業。
1990年代にはモリサワ「新ゴシック(現・新ゴ)」が写研「ゴナ」に似ている(ゴナのほうが先)と、写研が訴えたこともあって、ただのライバルではない関係と思っていた。
それが手を組むというのもすごい。
※2024年は、独立前に写植機の特許を申請して100周年とのこと。

実現しないかもと思っていたことが、あり得ないと思っていた組み合わせで実現しそうという、二重の驚き。
まだ3年以上あることになるが、大手モリサワが関わるのなら、よほどのことがない限り、実現しそう。
でも、写研でも電算写植というのがあって、書体のデジタル化自体はしているようだ。それをパソコン用にするのに、3年もかかるもんだろうか。ISDN終了まで引っ張って、写植業界の“既得権”を守るとかかも。そしてその後、写植はすっかり過去のものになるのだろうか。


このニュース、一般的にはそう話題にはならないだろう。
ツイッターでは、写植、写研、書体の愛好家を中心に多くの声があり、総じて歓迎する声。
ただし手放しで喜んで使いたいというものよりも、実現は「今さら/やっと/遅かった」とした上で「写研の『書体が消滅せずに残ること』」を歓迎するというのも多かった。

以前の繰り返しで、多くの方々もおっしゃっているが、デザイナーや印刷業界人でも、写植を知らない、写研書体を使ったことがない人は増えている。玉石混淆ではあるが、高品質なデジタルフォントも増えた。鉄道の駅名標や案内、テレビの字幕、高速道路の案内標識、写研書体でなくても成り立っている。一般人の多くは写研書体を求めているわけでもない。
写研書体は美しいけれど、ユニバーサルデザイン・視認性も求められる今では、どうだろう。
およそ20年のブランクの後、写研フォントが使えるようになっても、かつてのようにあちこちで写研書体を目にする世の中になるとは思えない。選択肢は増えることになるが、選ばれるとは限らない。
モリサワが、現行の各フォントとは違う売り方を工夫するとかなら、また違うかもしれないが。

昔の官製はがきの「郵便はがき」は、おそらく写研の教科書体(石井中教科書体?)。
写研の教科書体は、昭和末時点では実際に文部科学省検定済教科書にも使われ、秋田市で採択されていた教育芸術社の小学校音楽などがそうだった。光村図書の教科書体(イワタ教科書体と同一?)と比べて「き」の3角目がスッと長く、全体には柔らかい雰囲気。
写真の切手部分がトキの世代が最後。次のスズメ世代からは平成角ゴシック体になった。2007年10月の日本郵政発足時が切り替えらしく、郵政民営化を機に書体を変えた=写研をやめたことになる。
※厳密には官製はがきは郵政省時代の呼称。郵政公社時代は公社はがき、今は郵政はがきなどと呼ぶ。

モリサワ以外の各フォントメーカーとしては、どう見ているだろう。戦々恐々か余裕か。
モリサワとしては、どう転んでも損はしないのかな。仮にゴナがデジタル化されれば、モリサワの新ゴと併売されることになるのだろうか。ややこしくなりそう。
例えば、いすゞ自動車と日野自動車のバスの製造部門が経営統合した時(これも驚いた)は、両社で競合していた車種は実質統合(片方の車種を製造しなくなり、相手方の車種の名前だけ変えて販売)されたことがあった。フォントではそれはないかな。


現在、モリサワ公式サイトでフォントを購入すると、1書体買い切りだと約2万円(他の方法もあり)。
写研フォントもその値段だとすれば、高くはないかな。でも、自分だったら、うーん。
僕はモリサワフォントでフォントの美しさを知ったので、買うなら元々のモリサワ製品で充分。「ナール」なら、欲しくなくはない。

今なお写研書体を使い続けている、シンエイ動画(クレヨンしんちゃん)と一般道の管理者(ナール案内標識)には、使いやすく、そしておそらく安くなるだろうから、朗報でしょう。

再掲)あと3年ずれていれば「大学入学共通テスト」がデジタルナールにできていたかも

今年いちばんびっくりしたニュースでした。まだ1月18日だから18日間でだけど。

【19日追記】関係ないけれど、フォント業界の話。
以前、羽後交通のバス停の表示板の書体を調べた。そのうち一時期は「織田特太楷書」もしくは「楷書体マール」だと思われる書体が使われていた。どちら作者が同じで類似しており、前者は写研の写植書体、後者はデジタル書体でキヤノンから発売されていたものの撤退。どちらも今は、使うにはハードルが高い書体。
先日、コメントで、羽後交通バス停は楷書体マールをベースにしたものではないかとの指摘をいただいた。その際、同書体が2020年12月からダウンロード販売されているとの情報もいただいた。元々の発売元である出版社「マール社」のサイトで、1万2千円。
再発売っていうこともあるのかと少し驚いた後、それ以上の今回の話。
織田特太楷書もデジタル化される可能性があるわけで、一時はレアだった2書体が別の形ながらそろって、よみがえることになるかも。
そして、このように写研以外でも、フォント業界に新たな動きが出てきているということになるのだろうか。

【3月10日追記】3月8日には、写研の公式ホームページが公開!!
ドメインは以前から取得してあったとのことだが、中身がついにできた。いくつかの書体の見本も掲載され、パソコン画面でクリアな写研書体を見られる。そのほか、写植機の保守などに関する情報があるが、今後の充実に期待。

【2022年11月26日追記】2022年11月24日付で、モリサワホームページに「モリサワ 写研書体を字游工房と共同開発 2024年に「石井明朝」「石井ゴシック」の改刻フォントをリリース」が掲載。
2024年に発売される写研フォントは、石井明朝2書体と石井ゴシックとなることが発表された。モリサワ傘下で、写研出身者が創業した字游工房も関わる。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最初の共通テスト 秋大会場 | トップ | 大雪から10日 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (FMEN)
2021-01-19 20:17:49
遅すぎです、かなあ。
むかしからやっていたらユーチューバーに売れたはずでは。

ところでテロップネタだと秋田で一番貧弱なAKTがたまにニュースでフジテレビと同じ書体を使うようになりました。
この局は昔からテロップには無頓着であったため、進歩かと思われます。
返信する
20年遅い? (taic02)
2021-01-20 00:22:10
もっと早ければ、違った世の中になっていたことでしょう。

これまでAKTは、NHKのニュース速報と同じフォント(ラムダシステムズ製)や平成角ゴシックをよく使っていたでしょうか。テレ朝同様、キー局と揃える傾向が出てきたのでしょうね。
返信する

コメントを投稿