斧入れて香におどろくや冬木立 蕪 村
斧を入れた木がたまたま香木であった、とする説があるが、これには従えない。斧を入れる樵夫(きこり)には、はじめから木の種類は、わかっているはずである。
蕪村の連句中に、
根にうつぼ木の命ありたけ
という句があるように、冬木の外観に欺かれて、枯木を扱うに近い気持で斧を入れてみて、あまりにも激しい活力のある香に驚かされたのである。
「おどろく」には、
①意外なことにびっくりする。感嘆する。
②はっとして目が醒める。
③はっとして気がつく。
などの意があるが、ここでは①。
季語は「冬木立」で冬。「冬木立」は、すっかり葉が落ちて裸木となった木立のこと。冬の木々を一般的に「冬木」と総称するが、「冬木立」は、その「冬木」の立ち並んだものをいう。あまり低い木には用いず、ある程度以上の高さの冬木の群立に用いる。
この蕪村の句は、「冬木立」の概念の裏をついた句である。
「すっかり葉を落とし、骨ばかりのようになっている冬木の一つに、
一撃深く斧を食い込ませたところ、むせるほどに激しい生気に
あふれた香が立って、ほとんど呆然とするほどに驚かされた。
冬を凌ぐために葉こそ落としたが、木はその内部に盛んな生気を
蓄えていたのである。周囲に立ち並ぶ無数の木たちも、この一本
の木のように、ことごとくたくましく生きているのかと、今さら眺め
回さずにはいられない気持であった」
――驚いた、というより感激した。
「川口茜漣・坂本泰漣」展(銀座「画廊宮坂」)初日の今日、会場でおいしいコーヒーをいただきながら、坂本先生とボードレールの詩集『悪の華』の話をしていた。
そこへ偶然、秋山俊幸さんが見えた。秋山さんは、アートソムリエの山本冬彦さんが「大家然とした」と評した「無題2006」の作者、秋山俊也君の父親である。
一ヶ月の約束でお借りした「無題2006」は、文机の左側に立てかけ、眺め、ある時は穴があくほど凝視してきた。
作品が届いたのが10月12日、それから一ヶ月たった11月12日に夢を見たのだ。紺の風呂敷に包んだ作品を返しに、霜明りの一本道をとぼとぼと歩いてゆく夢を。
種を明かせば、11月13日の「持ちなほす紺の風呂敷 霜明り」は、夢に見たものを句にしたものなのだ。
「お約束の期限が過ぎてしまって申し訳ありません」
と詫びると、驚くことに
「飽きるまでお貸ししますよ。飽きたら返して下さい。それとも、もう飽きた?」
と秋山さん。
「いや、飽きるどころか……」
あとは言葉にならなかった、感激のあまりに。
この絵愛でこの冬さぞや温からむ 季 己
斧を入れた木がたまたま香木であった、とする説があるが、これには従えない。斧を入れる樵夫(きこり)には、はじめから木の種類は、わかっているはずである。
蕪村の連句中に、
根にうつぼ木の命ありたけ
という句があるように、冬木の外観に欺かれて、枯木を扱うに近い気持で斧を入れてみて、あまりにも激しい活力のある香に驚かされたのである。
「おどろく」には、
①意外なことにびっくりする。感嘆する。
②はっとして目が醒める。
③はっとして気がつく。
などの意があるが、ここでは①。
季語は「冬木立」で冬。「冬木立」は、すっかり葉が落ちて裸木となった木立のこと。冬の木々を一般的に「冬木」と総称するが、「冬木立」は、その「冬木」の立ち並んだものをいう。あまり低い木には用いず、ある程度以上の高さの冬木の群立に用いる。
この蕪村の句は、「冬木立」の概念の裏をついた句である。
「すっかり葉を落とし、骨ばかりのようになっている冬木の一つに、
一撃深く斧を食い込ませたところ、むせるほどに激しい生気に
あふれた香が立って、ほとんど呆然とするほどに驚かされた。
冬を凌ぐために葉こそ落としたが、木はその内部に盛んな生気を
蓄えていたのである。周囲に立ち並ぶ無数の木たちも、この一本
の木のように、ことごとくたくましく生きているのかと、今さら眺め
回さずにはいられない気持であった」
――驚いた、というより感激した。
「川口茜漣・坂本泰漣」展(銀座「画廊宮坂」)初日の今日、会場でおいしいコーヒーをいただきながら、坂本先生とボードレールの詩集『悪の華』の話をしていた。
そこへ偶然、秋山俊幸さんが見えた。秋山さんは、アートソムリエの山本冬彦さんが「大家然とした」と評した「無題2006」の作者、秋山俊也君の父親である。
一ヶ月の約束でお借りした「無題2006」は、文机の左側に立てかけ、眺め、ある時は穴があくほど凝視してきた。
作品が届いたのが10月12日、それから一ヶ月たった11月12日に夢を見たのだ。紺の風呂敷に包んだ作品を返しに、霜明りの一本道をとぼとぼと歩いてゆく夢を。
種を明かせば、11月13日の「持ちなほす紺の風呂敷 霜明り」は、夢に見たものを句にしたものなのだ。
「お約束の期限が過ぎてしまって申し訳ありません」
と詫びると、驚くことに
「飽きるまでお貸ししますよ。飽きたら返して下さい。それとも、もう飽きた?」
と秋山さん。
「いや、飽きるどころか……」
あとは言葉にならなかった、感激のあまりに。
この絵愛でこの冬さぞや温からむ 季 己