壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

また寄り添はん

2010年11月30日 22時43分44秒 | Weblog
        冬籠りまた寄り添はん此の柱     芭 蕉

 旅に年を送り迎えた芭蕉が、住みなれた深川の芭蕉庵に帰っての、心からのつぶやきであろう。いつも背をもたせた柱を眼前に身ながらの吟と思われる。「また」・「此の」は心情のこもった表現である。
 旅に憧れ、一所不住の境涯を求めながらも、馴れたその住処にしみじみ心ひかれている姿がみられる。旅にひかれつつも、住むところに愛着を感ずるこの姿に、かえって芭蕉の真の姿があるように思える。

 「また寄り添はん此の柱」の出典が、古来考えられている。白楽天「閑居賦」の「閑居シテ復タ此ノ柱ニ寄ル」などを初め、「柱に寄る」という想はかなり多い。特定の出典を考えるまでのことはなかろう。

 季語は「冬籠り」で冬。これからの冬籠りを心に置いての、柱の把握である。

    「今年はこの庵に冬籠りをすることになったが、寄り馴れたこの柱に
     また寄り添って、閑(しず)かに冬をすごそうと思う」


      報恩講いまだ寄り添ふ人もなく     季 己