冬ごもり燈下に書すとかゝれたり 蕪 村
「冬ごもり燈下に書す」とかかれたり――の意味である。したがって、混乱をきたさないためには、上五を「冬ごもりて」または「冬ごもりゐて」とでもすればよいのである。
しかしそれでは、単に、ある文章の序跋の事実を説明しただけに終わる。この事実を基として、冬ごもりの情趣を広々と限りないさまにさせて、作者自身もその中に没入せしめる――つまり、書中の人物の冬ごもりと、作者現在の冬ごもりとの二つの世界を一つにする――そのためには、「冬ごもり」という季題の言葉を、あらゆるものと一応切り離したように冒頭にすえて、一句の中心たらしめる必要があったのである。
「書すとかゝれたり」と、この部分だけを見ると重複した拙い表現のようであるが、「書す」までが古人の世界であって、その外側を「とかゝれたり」という、作者現在の冬ごもりの世界が囲んでいることを暗示しているのであって、はなはだ巧みな表現といわざるを得ない。
季題を添え物として扱ったのではなく、からめ手から季題を扱って、しかもかえって季題の情趣が力強く一句を統率しているのである。
蕪村の作品の中でも、類型を絶った表現方法である。
季語は「冬ごもり」で冬。「冬ごもり」は、冬の間、寒気を避けて家の中に閉じこもっていることをいう。冬ごもり(冬籠)とは、古来、動植物が冬の間、活動を停止すること。
書き損じめつきり減りぬ冬ごもり 季 己
「冬ごもり燈下に書す」とかかれたり――の意味である。したがって、混乱をきたさないためには、上五を「冬ごもりて」または「冬ごもりゐて」とでもすればよいのである。
しかしそれでは、単に、ある文章の序跋の事実を説明しただけに終わる。この事実を基として、冬ごもりの情趣を広々と限りないさまにさせて、作者自身もその中に没入せしめる――つまり、書中の人物の冬ごもりと、作者現在の冬ごもりとの二つの世界を一つにする――そのためには、「冬ごもり」という季題の言葉を、あらゆるものと一応切り離したように冒頭にすえて、一句の中心たらしめる必要があったのである。
「書すとかゝれたり」と、この部分だけを見ると重複した拙い表現のようであるが、「書す」までが古人の世界であって、その外側を「とかゝれたり」という、作者現在の冬ごもりの世界が囲んでいることを暗示しているのであって、はなはだ巧みな表現といわざるを得ない。
季題を添え物として扱ったのではなく、からめ手から季題を扱って、しかもかえって季題の情趣が力強く一句を統率しているのである。
蕪村の作品の中でも、類型を絶った表現方法である。
季語は「冬ごもり」で冬。「冬ごもり」は、冬の間、寒気を避けて家の中に閉じこもっていることをいう。冬ごもり(冬籠)とは、古来、動植物が冬の間、活動を停止すること。
書き損じめつきり減りぬ冬ごもり 季 己