壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

苦き話

2010年11月26日 23時02分45秒 | Weblog
          菜根を喫して、終日
          丈夫に談話す
        武士の大根苦き話かな     芭 蕉

 「丈夫」は「じょうふ」、「武士」は「もののふ」と読む。
 この句は、『芭蕉翁全伝』によると、元禄六年の冬、玄虎すなわち伊賀上野の藩士、藤堂長兵衛守寿の江戸の藩邸で詠まれたものという。
 玄虎の藩邸を訪れての発句であるから、当然、挨拶の心をこめていわれているのである。

 「大根苦き」は、「丈夫ハ菜根ヲ喫ス」などの由緒を負って、ほめ言葉として使われている。と同時に、平俗なものに興ずることによって、一座のやや堅苦しい空気をくつろげ、俳諧への導入をはかったものであろう。今風にいえば、空気を読んだのである。
 前書の付け方などにも、玄虎と心が交流する場を作り出そうとする、芭蕉の心づかいが読み取れる。
 「丈夫ハ菜根ヲ喫ス」は『菜根譚』にある語で、「才能が人よりすぐれた立派な男は、野菜の根を喰う、つまり粗食である」ということを踏まえているのであろう。
 「大根(だいこん)」については、『徒然草』の、筑紫の押領使(おうりょうし)が敵襲を受けた際、「土大根(つちおおね)」が兵士と化して敵を退けたという話を、話題ともしたのであろうといわれている。
 「苦き」は、質実なありようを感覚的にいったもので、決していやがる気持ではない。

 季語は「大根」で冬。「大根苦き」の「苦き」が生かされて、力のある発想である。

    「今日は一日、もののふと語り合う機会に恵まれました。さすがに
     折り目正しいお話ばかりで、ちょうどこうして頂戴している大根の
     ぴりりと苦いのと同様、まことに身の引きしまる思いでございます」


 ――予感が当たった。抗ガン剤治療が初めて4週目で出来たのだ。通常は3週目ごとにするのだが、好中球が1500を超えないと治療は延期される。
 変人の場合、これまでは、3週目は好中球が750前後、4週目が1250前後で、5週目でやっと1750前後となって治療が出来る、というパターンであった。それが4週目の今日、好中球が1940有り、他の数値もすべて治療可であった。体の回復が早くなったのだ。その理由はわかっている……
 先日(11月18日)、『画廊宮坂』の宮坂さんに『松山庭園美術館』へ連れて行って頂いた。その際、コノキ・ミクオ先生から「健康にいいから」とおっしゃって、長芋を頂戴した、お土産に。また奥様からは‘しおがま’を。そのうえ宮坂さんから、昼食・夕食とご馳走になった。これで体力が戻らないわけがない。だから、次の治療は4週目であるが、絶対に出来ると確信し、それが現実となったのだ。
 こうして、多くの方々の思いやりの心に包まれている自分を、なんと幸せ者かと、感謝の気持ちで一杯である。この恩返しは、変人は変人らしく「端楽(はたらく)」、つまり周囲の人々のお役に立つことだと考え、ボランティア活動にももっと力を入れよう。自分自身の「生き甲斐」のためにも。


     とろろ汁 五臓六腑がふつふつと     季 己