壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

鶉(うずら)

2010年11月02日 23時09分18秒 | Weblog
        鷹の目も今や暮れぬと鳴く鶉     芭 蕉

 暮色の立ちこめる中に、鶉が自分を取り戻したような声で鳴いていることから、「鷹の目も今や暮れぬ」という感じを引き出したのであろう。「鷹の目も今や暮れぬ」という把握が、なかなかおもしろい。
 鶉の声から、あたりの暮色などをえがくという常套的な手法によらず、鶉の音色を通して鶉の心に想い入っているような、自在な詠みぶりである。

 「鷹」は冬季であるが、ここでは「鶉」が季語で秋。
 鷹狩の一つに、「駈鶉(かけうずら)」といって馬上で鶉を駆りたて、鷹を合わせるのがある。ここはそれと限らなくともよいが、そうした連想があったものか。
 「鶉」はもともと野生のもので、古来、多くの歌に詠まれており、後年、声を賞したり、卵を取るため飼育されるようになった。もっともあわれふかいのは夕暮れの鳴き声で、この句もそこに発想している。

    「あたりはたそがれそめて、さだかに物を見分けかねるまでになり、今はもう
     鷹の目も利かなくなったというので、鶉があのように鳴き始めたのであろう」



      山鳩の声ひかり降る秋の川    季 己