壺中日月

空っぽな頭で、感じたこと、気づいたことを、気ままに……

ほのかに白し

2010年11月22日 21時33分00秒 | Weblog
          海辺に日暮らして
        海暮れて鴨の声ほのかに白し     芭 蕉

 闇の中に鴨がほの白く見えるので、「鴨の声ほのかに白し」と表現した、ととるのは理詰めでおもしろくない。鴨の声そのものの感じを、直観的(※)に「白し」と感じとったのである
 ことに、「海辺に日暮らして」というのであるから、しだいに夕の光の消えてゆく過程を心に置かないと、この句は動きのないものになってしまう。
 海がしだいに暮れていって、最後に「鴨の声ほのかに白し」となるのである。また、これを表現するのに、五・五・七のリズムであらわしているのも注目すべきである。
        海暮れてほのかに白し鴨の声
 といったのでは、闇へ広がってゆく心の波動がなくなってしまい、「鴨の声」も「ほのかに白し」も生きてこない。

 季語は「鴨」で冬。鴨の季感がよく生かされている。『一葉集』などによれば、貞享元年十二月十九日、旅中の吟。

    「しだいに光が薄れていった海面は、やがてとっぷりと暮れて、
     暗い沖合から白い波頭が打ち寄せ、鴨の声がほのかに聞こ
     えてくる。闇から聞こえてくるその声に聴き入ると、その声に
     いつかほのかな白さが感じられてくる」

         ※「直観」は、判断や推理などの思惟作用の結果ではなく、精神が対象を直接
          に知的にとらえる作用。「直感」ではなく「直知」である。


      いい夫婦をしどりが目をつむりをり     季 己 

        (11月22日は語呂合わせで「いい夫婦」の日)