普段、何気なく口ずさむメロディーは、人それぞれであろうと思う。
私の場合、それは何かというと、どこかもの悲しく、寂しいメロディーである。明るく、楽し気なメロディーを口にしようと思っても、なかなか出て来ない。
無理に思い出そうとすると、出て来るのはモーツァルト作曲の「五月の歌」、イタリア歌謡の「フニクリフニクラ」、滝廉太郎作曲の「花」ぐらいのものである。
もっと何か、と言われれば、「早春譜」などが出て来てしまう。「五月の歌」や「花」「早春譜」などは、季節が合っていればいいが、夏に「春のうららの隅田川……」、「春は名のみの風の寒さや……」と歌ったり、秋に「楽しや五月……」（五月の歌）と歌ったりするのは、どうも具合が悪い。
「荒城の月」を思い出すこともあるが、これももの静かな曲だ。「荒城の月」の場合は、歌詞を大体覚えている。そして「花の宴（えん）」の「え」を、滝廉太郎が作曲したように半音高く、シャープ（＃）付きで歌うようにしている。
それでは、普段すぐに口をついて出てくるメロディーは何かというと、それは次のようなものである。
「嗚呼神風特別攻撃隊」（野村俊夫作詞、古関裕而作曲）
無念の歯がみ こらえつつ ……
あるいは、昭和16年にレコードが発売されたというのに、どこかもの寂しい感じのする、
「海の進軍」（海老沼正男作詞、古関裕而作曲）
あの日揚がった ゼット旗を ……
「そうだその意気」（西条八十作詞、古賀政男作曲）
なんにも言えず 靖国の ……
などである。
ただし、メロディーは出てくるが、歌詞は殆んど覚えていない。だから、口ずさむ歌詞は出だしの１行ぐらいで、あとはメロディーだけである。
「嗚呼神風特別攻撃隊」は、戦争末期の、戦況が不利になってから生まれた、沈んだ寂しくもの悲しい曲である。
「海の進軍」と「そうだその意気」の二つは、昭和16年５月の作というから、まだ太平洋戦争が始まっていない時期の歌なのに、なぜかどことなく寂しい感じのする曲である。
軍歌にも、明るい元気のいい曲があるではないか、と言われれば、確かに「若鷲の歌」（西条八十作詞、古関裕而作曲）や「空の神兵」（梅木三郎作詞、高木東六作曲）などがあることはあるが、これらは日常、私がふと口ずさむときに出てくるメロディーではない。
少年期に、こうした歌が多分ラジオを通じて繰り返し流され続けていたのを聞いて、それが耳にこびりついてしまったのであろう。自分や家族が戦争の手ひどい被害を直接受けたというわけではないのだが、戦争がああいう悲しい結果に終わったことが私に与えた影響は、こうしたもの悲しく寂しい感じの軍歌のメロディーが記憶にこびりついているという形で、いまだに残っているのであろう。
あの戦争を知らない人たちにとっては、いまだにこうした思いを引きずって生きている人間がいるということは全く思いもよらないことであろうと思う。
（注） 歌の音符を示したかったのですが、うまく表示できないので諦めました。
上に挙げた一部の歌の歌詞や、作詞者・作曲者等を補っておきます。
「嗚呼神風特別攻撃隊」（野村俊夫作詞、古関裕而作曲）
無念の歯がみ こらえつつ
待ちに待ちたる 決戦ぞ
今こそ敵を屠（ほふ）らんと
奮い起ちたる若桜
「海の進軍」（海老沼正男作詞、古関裕而作曲）
あの日揚がった Z旗を
父が仰いだ 波の上
今日は その子が その孫が
強く雄雄しい 血を継いで
八重の潮路を 越えるのだ
「そうだその意気」（西条八十作詞、古賀政男作曲）
なんにも言えず 靖国の
宮のきざはし ひれ伏せば
熱い涙が こみあげる
そうだ 感謝の その気持
揃う揃う気持が 国護る
「五月の歌」 （オーヴァーベック作詞、モーツァルト作曲。青柳善吾 訳詞）
楽しや五月 草木は萌え……
「フニクリ・フニクラ」 （ナポリ歌謡。ジュゼッペ・トゥルコ作詞、ルイージ・デンツァ作曲。青木爽・清野協 訳詞）
赤い火を吹く あの山へ 登ろう 登ろう ……
「花」 （武島羽衣作詞、瀧廉太郎作曲）
春のうららの 隅田川……
「早春譜」 （吉丸一昌作詞、中田章作曲）
春は名のみの 風の寒さや……
「若鷲の歌」 （西条八十作詞、古関裕而作曲）
若い血潮の 予科練の……
「空の神兵」 （梅木三郎作詞、高木東六作曲）
藍より青き 大空に 大空に ……）
私の場合、それは何かというと、どこかもの悲しく、寂しいメロディーである。明るく、楽し気なメロディーを口にしようと思っても、なかなか出て来ない。
無理に思い出そうとすると、出て来るのはモーツァルト作曲の「五月の歌」、イタリア歌謡の「フニクリフニクラ」、滝廉太郎作曲の「花」ぐらいのものである。
もっと何か、と言われれば、「早春譜」などが出て来てしまう。「五月の歌」や「花」「早春譜」などは、季節が合っていればいいが、夏に「春のうららの隅田川……」、「春は名のみの風の寒さや……」と歌ったり、秋に「楽しや五月……」（五月の歌）と歌ったりするのは、どうも具合が悪い。
「荒城の月」を思い出すこともあるが、これももの静かな曲だ。「荒城の月」の場合は、歌詞を大体覚えている。そして「花の宴（えん）」の「え」を、滝廉太郎が作曲したように半音高く、シャープ（＃）付きで歌うようにしている。
それでは、普段すぐに口をついて出てくるメロディーは何かというと、それは次のようなものである。
「嗚呼神風特別攻撃隊」（野村俊夫作詞、古関裕而作曲）
無念の歯がみ こらえつつ ……
あるいは、昭和16年にレコードが発売されたというのに、どこかもの寂しい感じのする、
「海の進軍」（海老沼正男作詞、古関裕而作曲）
あの日揚がった ゼット旗を ……
「そうだその意気」（西条八十作詞、古賀政男作曲）
なんにも言えず 靖国の ……
などである。
ただし、メロディーは出てくるが、歌詞は殆んど覚えていない。だから、口ずさむ歌詞は出だしの１行ぐらいで、あとはメロディーだけである。
「嗚呼神風特別攻撃隊」は、戦争末期の、戦況が不利になってから生まれた、沈んだ寂しくもの悲しい曲である。
「海の進軍」と「そうだその意気」の二つは、昭和16年５月の作というから、まだ太平洋戦争が始まっていない時期の歌なのに、なぜかどことなく寂しい感じのする曲である。
軍歌にも、明るい元気のいい曲があるではないか、と言われれば、確かに「若鷲の歌」（西条八十作詞、古関裕而作曲）や「空の神兵」（梅木三郎作詞、高木東六作曲）などがあることはあるが、これらは日常、私がふと口ずさむときに出てくるメロディーではない。
少年期に、こうした歌が多分ラジオを通じて繰り返し流され続けていたのを聞いて、それが耳にこびりついてしまったのであろう。自分や家族が戦争の手ひどい被害を直接受けたというわけではないのだが、戦争がああいう悲しい結果に終わったことが私に与えた影響は、こうしたもの悲しく寂しい感じの軍歌のメロディーが記憶にこびりついているという形で、いまだに残っているのであろう。
あの戦争を知らない人たちにとっては、いまだにこうした思いを引きずって生きている人間がいるということは全く思いもよらないことであろうと思う。
（注） 歌の音符を示したかったのですが、うまく表示できないので諦めました。
上に挙げた一部の歌の歌詞や、作詞者・作曲者等を補っておきます。
「嗚呼神風特別攻撃隊」（野村俊夫作詞、古関裕而作曲）
無念の歯がみ こらえつつ
待ちに待ちたる 決戦ぞ
今こそ敵を屠（ほふ）らんと
奮い起ちたる若桜
「海の進軍」（海老沼正男作詞、古関裕而作曲）
あの日揚がった Z旗を
父が仰いだ 波の上
今日は その子が その孫が
強く雄雄しい 血を継いで
八重の潮路を 越えるのだ
「そうだその意気」（西条八十作詞、古賀政男作曲）
なんにも言えず 靖国の
宮のきざはし ひれ伏せば
熱い涙が こみあげる
そうだ 感謝の その気持
揃う揃う気持が 国護る
「五月の歌」 （オーヴァーベック作詞、モーツァルト作曲。青柳善吾 訳詞）
楽しや五月 草木は萌え……
「フニクリ・フニクラ」 （ナポリ歌謡。ジュゼッペ・トゥルコ作詞、ルイージ・デンツァ作曲。青木爽・清野協 訳詞）
赤い火を吹く あの山へ 登ろう 登ろう ……
「花」 （武島羽衣作詞、瀧廉太郎作曲）
春のうららの 隅田川……
「早春譜」 （吉丸一昌作詞、中田章作曲）
春は名のみの 風の寒さや……
「若鷲の歌」 （西条八十作詞、古関裕而作曲）
若い血潮の 予科練の……
「空の神兵」 （梅木三郎作詞、高木東六作曲）
藍より青き 大空に 大空に ……）