講演会などでは、講演の終わりに講演者が聴衆に向かって、「ごセイチョウありがとうございました」とお礼を言うのが通例になっている。
一方、講演の初めには、司会者が講演者を紹介したあとで、「ごセイチョウ願います。」と言うのも、決まりのようになっている。
この「セイチョウ」を漢字で書くと、どうなるであろうか。
司会者が聴衆に対して「ごセイチョウ願います。」と言うのは、講演者の話を静かによく聞いてください、と頼んでいるわけだから、「ご静聴願います。」となるのは、特に問題ないであろう。
これに対して、講演者が講演の終わりに、「ごセイチョウありがとうございました」と言うのは、私の話を聞いてくださってありがとう、と聴衆にお礼を言っているのだから、相手が自分の話を聞くことを敬って、「ご清聴ありがとうございました」と言っているのである。別に、静かに聞いてくれてありがたい、と言っているわけではない。
だから、辞書には、
せいちょう【静聴】=静かにしてよく聞くこと。「御静聴願います」
せいちょう【清聴】=他人が自分の話などを聞くことを敬って言う語。「御清聴ありがとうございました」
(小学館『現代国語例解辞典』昭和63年第1版第13刷)
などとある。
どちらも同じ「せいちょう」という言葉なので、講演者が「ごセイチョウありがとうございました」と言うのを、つい「静かに私の話を聞いてくれてありがとう」と言っているように誤解しがちであるので、注意したいものである。