老人(としより)の目(『ある年寄りの雑感』)

「子どもの目」という言葉がありますが、「年寄りの目」で見たり聞いたり感じたりしたことを、気儘に書いていきたいと思います。

命長ければ恥多し

2013-04-03 15:41:43 | インポート
荘子の言葉に、「命長ければ恥多し」(壽則多辱)というのがある。
意味はもちろん、長生きをすれば、それだけ恥をかく機会も多くなる、ということだろうが、実際にある程度長生きをしてみると、この言葉には又、荘子の考えたものとは違う別の意味があるようにも思えてくるのである。

それはどういうことかというと、年をとってくると、昔のことがあれこれと思い返されてくるもので、それは多くの場合、楽しい思い出というよりは後悔の思いのほうが多いものである。あのときはああすればよかった、このときはこうすればよかった、と悔やむ気持ちになることが多いのである。それほど年をとらずに一生を終わった人は、そうした思いを抱かずに、抱く機会がなくて済んだであろうが、長生きをするとなると、そうして自分の一生を振り返る機会が増えて、あれこれ悔やむことが多くなる、というわけである。

年をとってから自分の一生を振り返ったときに、楽しい思い出ばかりを思い出すという人がいるとすれば、それはまことに幸福な人である。おそらく多くの人は、後悔の念を抱いて、ああ、長生きをすれば、こうして悔やむ機会が多くなるものだなあ、としみじみと「命長ければ恥多し」という言葉を思い起こすのではあるまいか。