隅の老人のミステリー読書雑感

ミステリーの読後感や、関連のドラマ・映画など。

1241.隠花の飾り

2012年04月16日 | 短編集
隠花の飾り
読 了 日 2012/04/10
著  者 松本清張
出 版 社 新潮社
形  態 文庫
ページ数 218
発 行 日 1982/08/25
ISBN 4-10-110949-4

 

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ある短編集の1冊。僕は松本清張氏の短編が好きだ。本書の巻末には珍しく著者のあとがきがあって、ここに収められた短編はどれもが、雑誌掲載のための原稿用紙30枚という指定の長さだそうだ。しかし、「30枚でも100枚にも当たるものを志向した」とある。
その通りになっているかは、読者の判断に俟つ、となっているが、どれもが僕は素晴らしい短編だと思っている。100枚だろうが300枚だろうがそうした長編にはない味わいがある。逆に30枚に収めるという技術と、ストーリーの組み立てはなまなかにできるものではないだろう。
前にも書いたが、松本清張氏の作品はドラマや映画になったものが数多くある。この中にもいくつかはドラマ化されているだろう。
清張氏が彼の地に旅立ってから、すでに20年になろうとしているが、作品の映像化はとどまるところを知らぬように、次々とテレビ局は清張ドラマを制作している。僕はその中でも短編を脚色して2時間ドラマにした中にも、傑作といっていいものがあると思っている。もっとも、映画やドラマが傑作かどうかは、原作とはかかわりのないところで評価されることもあるのだが。

 

 

ここに収められているのは下記の初出でわかるように、全部で11篇だ。
すべてが映像向きだとは言えないが、脚色の仕方では2時間ドラマにもなりうるものがいくつもあると思う。僕のこの読書記録は、「ミステリー読書雑感」と謳っているから、読む本のすべてをミステリーとして読んでいるが、中にはどうしてもミステリーとは呼べないものも含まれてくる。
本書の中にも、謎があってそれが最後に明らかになるという、ミステリーの形になっていないものも数編あるが、それはそれで小説として味わい深いものがあって、唸らされるのだ。

本を読んでいるときに、僕は登場人物や、その舞台となっている場所や土地に、内容とは関係のない思いが突如として湧いてくることがままある。この中では「誤訳」で、デンマークはコペンハーゲンを舞台としたエピソードが語られる部分があって、行ったこともない場所に僕は切ないような憧れを感じる。
なぜだかわからないが、多分過去に読んだ小説や、あるいは見た映画やドラマの記憶の部分に触れたのかもしれない。

 

 

明亜呂無氏の解説では、各作品のテーマは女の愛、と言っているが、そう言われればそう受け取れないこともないが、僕には70歳を過ぎた今でも、“女の愛”などといわれても、ピンとこないこともあって、まあ自分なりの受け止め方をしている。 好きか嫌いかという範疇では、この中で「愛犬」、「見送って」、「誤訳」、「百円硬貨」、「再春」などがミステリーとして面白く読めて好きだ。特に「百円硬貨」は省略のテクニックと言うか、簡略化されたストーリーが見事だと感じる。その省略された部分を脚色によって膨らませれば、2時間ドラマにもなりうると思う。よく言われる「どんでん返し」に似た結末が生きてくる。

 

初出(小説新潮)
# タイトル 発行月・号
1 足袋 1978年1月号
2 愛犬 1978年2月号
3 北の火箭 1978年3月号
4 見送って 1978年5月号
5 誤訳 1978年6月号
6 百円硬貨 1978年7月号
7 お手玉 1978年8月号
8 記念に 1978年10月号
9 箱根初詣で 1979年1月号
10 再春 1979年2月号
11 遺墨 1979年3月号

 

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