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★「北海タイムス物語」を読む ㉓

2015年12月28日 | 新聞
( 12月24日付の続きです )

小説新潮=写真=に、増田俊也さん(50)の「北海タイムス物語」が連載されている。
僕は以前、北海タイムスと提携していた「日刊スポーツ北海道」に知人デスクがいたので、札幌の北海タイムスに何回か行ったことがあった。
というわけで、増田さんの青春物語@新聞記者編ともいえる同小説に注目した——の第23回。

*増田俊也(ますだ・としなり)さん
1965年=愛知県生まれ。
1989年=(北大中退後)北海タイムス入社。
1992年=中日新聞に転社、中日スポーツ記者。
2006年=『シャトゥーン・ヒグマの森』で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。
2012年=『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったか』(新潮文庫)で大宅壮一賞、新潮ドキュメント賞をダブル受賞。
ほかに、自伝的青春小説『七帝柔道記』(角川書店)など。
*北海タイムス(ほっかいタイムス)
1901年=北海タイムス創刊。
1942年=戦時統合で北海道新聞に統合。
1946年=道新僚紙として「夕刊北海タイムス」再刊。
1949年=「北海タイムス」に改題。
1962年=東京の日刊スポーツ新聞社と提携、日刊スポーツ北海道版を発行。
1998年=9月1日自己破産、2日廃刊。


( 小説新潮2015年11月号 288ページから )
「東大?」
萬田局次長が吹き出した❶。そして「おまえ、ひでえな!」と隣の松田さんの背中を思い切り叩いた。
そして「みんな聞いてくれ!」と言って松田さんの首をヘッドロックのようにして抱え「こいつと猪之村が東大出身だって騙ってる❷らしいぞ!」と松田さんの頭を二度三度と小突いた。
「違うんですか……」
僕が聞くと、みんなが爆笑した。
「違うに決まってるだろ。よく見てみろ。東大っていう顔か、こんな馬鹿たちが。二人とも泥くさい北大だ。はっはははは」
「嘘なんですか……」


( 中略。僕注=松田、猪之村は小説主人公の野々村と同期入社だが、2人はそれぞれ北海タイムスの校閲部と写真部に先行入社していた )

「おまえねえ、そんなふうに騙されてたら❷記者なんか勤まらないぞ。こいつらは北大中退して働いてんだよ」
頭が混乱してきた。
「中退なのに、入社できるんですか……」
萬田局次長が嬉しそうに笑った。
「こいつらは特別だよ。入社試験がぜんぶ終わってから『記者になりたい』『カメラマンになりたい』って無理矢理ねじこんできたんだ。追い返しても帰らねえから特別に試験受けさせてしかたなく追加合格にしてやったんだよ。はっはっはははは」
「無理矢理で入れるんですか……」
二十一社も受けた僕が馬鹿みたいじゃないか。



❶吹き出した
新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
噴く[噴出]
悪感情が噴き出る、汗が噴き出る、火山弾が噴き上がる、エンジンが火を噴く、おかしくて噴き出す……

とあるけど、著作物なのでかまいません(←エラそうだな)。
判断つきにくい場合は、ひらがなにヒラいちゃいましょう、が校閲部の合言葉(かな)。

❷騙ってる・騙されてたら
またまた新聞用字用語集「記者ハンドブック」では
かたる(△騙る)
→かたる[だます]有名人の名をかたる

だます(△騙す)
→だます。子供だまし、だまし討ち、だましだまし

共にひらがな表記にしましょうねとあるけど、著作物なのでかまいませんよ(←ホントにエラそうだな)。

❸「中退なのに、入社できるんですか……」
結論を先に言えば、大学中退だろうが、除籍だろうが、「入社でき」る。
いわゆるコネ入社、縁故入社——昔はバンバンあったけど、近年は中途入社が多くなってきたので、人知れず行われているみたい(笑)。
確かに、主人公・野々村くんのつぶやく通り
「二十一社も受けた僕が馬鹿みたい」
なんだけど、そこはまぁムニャムニャ。
僕の見聞——。
昔、校閲部に突然20代前半の小太り青年が入ってきたので、ヒソヒソ
僕(今度来たやつ、なんだ? なんで今ごろ入ってくるんだ?)
校(うーん……大きな声では言えないけどさぁ、ほら、亡くなった社会部長の息子らしいよ。上の代表からねじ込まれたらしいね)
僕(新卒でも、即戦力でもないってこと?)
校(…………おっと、仕事しなきゃ。あぁ、忙しい忙しい)
けっこうあります&ありました。
*ちなみに、作者・増田さんも「北大中退」……。

———というわけで、続く。