降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★横山秀夫さんの「整理部」を読む(20)

2015年03月16日 | 新聞

(きのう3月15日付の続きです。
写真は、本文と関係ありません。金沢の浅野川大橋です=昨2014年撮影 )

上毛新聞出身の横山秀夫さん(58)の短編ミステリー「静かな家」(新潮文庫『看守眼』収録)に登場する「県民新報」整理部。
3カ月前、整理部に異動してきたばかりの39歳「高梨」紙面担当者の記述に注目してみた。
太字部分は同文庫から引用しました。
(午前10時過ぎ、県民新報3階の編集局は騒然としていた。
市長選候補者の年齢を誤ったため、読者から抗議の電話が殺到していたのだ。
間違えた記者は、編集局中央で「晒し首」にされていた。
一方、同日付地域面で、日付誤認した記事を載せてしまった高梨面担は気が気でなかった。ミスを知っているのは、同僚の手塚理恵(24)だけだったのだが……)

高梨は、割付指定用紙を机に広げた。
今日一日は息を殺してひっそりと過ごす。そう決めていた。
向かいの席に手塚理恵の姿はなかった。
今日は二時出勤だったのか。思った時、耳に熱い息が吹き込まれた。
「まだバレてないみたいですね」
その不意打ちに高梨は凍りついた。
理恵はくるりと背を向け、長い髪を揺らしながらデスク席に向かった。今日組みの原稿を受け取りに行くのだ。

(中略)
バラされる………?
高梨は落ち着かなかった。紙面に没頭しようと心掛けたが、理恵は真向かいの席にいるわけだから嫌でも視界に入る。
午後五時になっても、七時を過ぎても、理恵は口をきかなかった。

(中略)
能面のごとき無表情で編集機に向かう彼女の存在は危険極まりない爆弾以外の何物でもなかった。
締切が頭にちらつき始めた八時少し前だった。

(後略)=文庫本文268~271ページから引用しました。


【よけいな解説】
デスク席に向かった。……原稿を受け取りに行く
この作品が発表されたのは2004年以前。同時期は、どこの新聞社もCTS(コンピューター組み版・編集)に移行している。
手塚理恵面担は、整理部デスクのもとに翌日付紙面の原稿を「受け取りに行」ったとあるが、
支局からのファクスなのだろうか。
ファクスだと手書き入稿かもしれないので、編集局内に電算入力部があるはず(→名作『クライマーズ・ハイ』の舞台となった北関東新聞社では、共同通信モニターを処理する機報部が出てくるので、同部なのかも)。
おそらくアタマは記事A、カタは写真付き記事B、ヘソは写真付き記事Cと指定された「出稿メニュー」も受け取ったのだろう。

午後五時になっても、七時を過ぎても、
高梨面担の降版締め切り時間は、午後8時30分ごろだから、もうそろそろ割り付けレイアウトを終えなくては。
地域面整理は(大きな事故・事件などのウケがなければ)記事は手もとにあるので、わりと時間が読める。
▽午後7時30分=降版60分前。
▽同 7時45分=大組み開始。
▽同 8時10分=組み上げて、大刷りゲラをプリントアウト。
▽同 8時25分=最終チェック。
▽同 8時29分=降版OK出し。
▽同 8時35分=「ハァー、疲れたぁ。ちょっと喫煙室行ってくっか」
………という感じ(笑)。

編集機
キヤノン製エディアンのような編集端末か。
2004年ごろだと、LDT(レイアウト・ディスプレー・ターミナル=組み版端末)はかなり小型化されている。

締切が頭に……八時少し前
「締切」は、降版時間のことか。
同時間帯、編集端末では、すでに70%以上が組み上げられているはず。
あとはH(見出し)やP(写真)を置いたり、
リョウダレ、ナキワカレ、アフレなどの確認をしたりするだけ。
もうチョイだぜ、高梨面担!

…………長くなったので続く。