降版時間だ!原稿を早goo!

新聞編集者の、見た、行った、聞いた。
「降版時間」は新聞社整理部の一番イヤな言葉。

★横山秀夫さんの「整理部」を読む(15)

2015年03月09日 | 新聞

(きのう3月8日付の続きです。写真は、本文と関係ありません)

上毛新聞出身の横山秀夫さん(58)の短編ミステリー「静かな家」(新潮文庫『看守眼』収録)に登場する「県民新報」整理部。
3カ月前、整理部に異動してきたばかりの39歳「高梨」紙面担当者の記述に注目してみた。
太字個所は同文庫本文から引用しました。


(ドタバタ降版で、記事の日付誤認のまま印刷に回ってしまった高梨面担の紙面。
ミスに気づいた整理部同僚の手塚理恵は午前1時過ぎ、高梨に電話してきたが……)

もしやと思ったが望みは断たれた。既に輪転機は回ってしまっている。
(中略)
理恵の声にいつものからかうような調子がないことに気づいた。
〈ひょっとすると誰も気づかないかもしれませんよ。地域版だし。小さな記事だし〉
誰も気づかない……。その言葉は天使が発したとも悪魔が発したとも聞こえた。

(中略)
高梨は大の字に転がり、しばらくの間、思案を巡らせた。
蒲地デスクに電話を入れるか……?
午前1時半。もう社を出たろう。電話をして謝ってしまえばいい。
日付を読み違えたわけだから、無論、責任の大半は高梨にあるが、蒲地の責任だって小さくはない。
仮刷りでミスを発見できず、職制として降版のゴーサインを出したのだ。

(後略)=文庫本文252~253ページから引用しました。


【よけいな解説】
〈 ひょっとすると……小さな記事だし 〉
な、な、なんてこと言うの、理恵さん。
誰も気づかないはずはないですよ!
関係者・読者は、必ず紙面に目を通しますよ。
「地域版だし」は恐らく、配達域外の人の目には入らない、ということか。
「小さな記事だし」はベタ記事、あるいは狭い行間3Uものだから、ということか。
*3U(さんユー)=Uはユニットの略で、新聞編集で使う単位。この場合の3Uは行間のこと。
活版時代1行15字組み鉛活字の天地サイズが88ミルスで「1倍」とした。
CTSでは11ミルスを1Uとして
1倍=88ミルス=8U。

午前1時半。もう社を出たろう。
最終版を降ろし、タクシーで帰宅しただろう、の意味。
朝刊紙・県民新報は1版なのかな(それにしては、地域版の降版時間が早すぎる気がする)。

蒲地の責任だって小さくはない。
「仮刷りでミスを発見でき」なかった整理部デスクに、責を問うのは、ちと無理があるのでは………。
重ねて思うのは、校閲チェック態勢があれば防げた(かもしれない)ミスだと思う。

………長くなったので、続く。