「酔郷譚(すいきょうたん)」倉橋由美子著(河出書房新社)を読みました。
著者が「サントリークォータリー」に連載していた連作小説。遺作です。
慧君がかたむけるグラスの向こうに広がる夢幻と幽玄の世界。
登場人物は「よもつひらさか往還」と同じだそうです。
バーテンダーの九鬼(くき)さんが出す色鮮やかな魔酒。
「途中は省略して」
桜の咲く山へ、月世界へ、石魚にのり湖へ。
「そういえばこの桜の下には山の上の冷気とは別の暖気がこもっている。無数に集まった満開の花が豆電球のようにかすかな熱を出しているのかもしれない。いや、熱だけではない。花は微弱な光を放っているようでもある。」
「街は月光にひたされている。そして夏とは違う風が冷たい水のように、しかし石のように乾いて、街をめぐっている。その風の流れのままに塀について塀を曲がり、壁について壁を曲がると、そこは秋風の溜まり場のような中庭になっていた。金木犀と銀木犀が対になってドーム形に葉を茂らせ、花の香りを放っている。」
美しく、幻想的でエロチックな体験の数々。
中国の故事や俳句、西行から一休僧正、思いはあちこちに漂います。
「薄い皮膜を隔ててあちらの世界に触れるところまで行って、そこをうろうろするのが酔郷に遊ぶということでしょう。ちょうど波長の長い波に乗って漂うように。」
異世界に迷い込む怖さはあるけれど・・・こんな風にお酒に、景色に酔ってみたい。
著者が「サントリークォータリー」に連載していた連作小説。遺作です。
慧君がかたむけるグラスの向こうに広がる夢幻と幽玄の世界。
登場人物は「よもつひらさか往還」と同じだそうです。
バーテンダーの九鬼(くき)さんが出す色鮮やかな魔酒。
「途中は省略して」
桜の咲く山へ、月世界へ、石魚にのり湖へ。
「そういえばこの桜の下には山の上の冷気とは別の暖気がこもっている。無数に集まった満開の花が豆電球のようにかすかな熱を出しているのかもしれない。いや、熱だけではない。花は微弱な光を放っているようでもある。」
「街は月光にひたされている。そして夏とは違う風が冷たい水のように、しかし石のように乾いて、街をめぐっている。その風の流れのままに塀について塀を曲がり、壁について壁を曲がると、そこは秋風の溜まり場のような中庭になっていた。金木犀と銀木犀が対になってドーム形に葉を茂らせ、花の香りを放っている。」
美しく、幻想的でエロチックな体験の数々。
中国の故事や俳句、西行から一休僧正、思いはあちこちに漂います。
「薄い皮膜を隔ててあちらの世界に触れるところまで行って、そこをうろうろするのが酔郷に遊ぶということでしょう。ちょうど波長の長い波に乗って漂うように。」
異世界に迷い込む怖さはあるけれど・・・こんな風にお酒に、景色に酔ってみたい。