「悪人」吉田修一著(朝日新聞社)を読みました。
保険外交員の女・石橋佳乃が殺害されます。
彼女と携帯サイトで知り合った男が捜査線上に浮かびます。
そして彼と出会ったもう一人の女。
加害者と被害者、それぞれの家族たち。
なぜ、事件は起きたのか?悪人とはいったい誰なのか。
朝日新聞で連載されていた小説を単行本化した長編小説です。装丁からインパクト大。
内容について触れますので、未読の方はご注意ください。
無口な土木作業員の清水祐一。
彼は罪を犯しますが、作品を読んでいくと「善人が、運命の不幸なめぐりあわせで法に触れる行いをしてしまった」ように思えます。
母親に金をせびったり、最後に光代の首をしめたのも「本意ではない。けれどむしろ自分を「悪人」と憎んでくれ。自分に罪悪感を抱かないでくれ」という、彼の悲痛な願いであろうと。
そして結局法には問われなかったけど、一番の悪人は、佳乃を峠に置き去りにした増尾ではないか?・・・。
こういう読み方が、この作品で多くの人が抱く感想であろうと思います。
でも・・・ひんしゅく覚悟で言いますが、私は増尾という人物が完全に悪人とは思えないのです。
結局は小心者で、親の財力だけで皆の注目を浴びている、学生の仲間内の中だけのお山の大将ですから。
佳乃や彼女の父親を仲間内の笑いものにしたことは彼の、本当に唾棄すべき卑劣な面ですが、自分が罪から逃れようと狼狽し逃走したことや、警察で泣き喚いたことへの決まり悪さを自分で打ち消したくて、事件のことを笑いものにでもしないと自分のつまらないプライドが保てなかったのではないでしょうか。
それが彼が若かりし日の傲慢さであり、月日がたてば「あの時自分はなんて思いやりのない、ばかなことをしたのか。」と気づき、後悔するであろうことを願うばかりです。
そして一方、殺された佳乃について。
彼女もみえっぱりで嘘が多くて、あまり好感が持てる女性ではありません。まぁ、それぞれの嘘は誰もが日常的につきうる小さなものではありますが。
三瀬峠でのできごと。
増尾がした行為は暴力的で自分勝手で残酷なものであったけれど、佳乃を攻撃する「あんた、安っぽか。」というセリフに、私自身、読んでいて胸がすくものがあったことも事実。
増尾はこのほかにも観光客相手で高いだけのラーメン屋で「ごちそうさん、まずかった。」といって店の雰囲気を悪くするなどかなりの毒舌です。
でも彼の、人の事情を考慮しない言葉に鶴田が小気味よさを感じたことに私も共感してしまいます。
佳乃が増尾の自動車を下ろされた直後、祐一にぶつけた怒りはまさにやつあたり。
「レイプされたって言ってやる!」という言葉は本当は増尾にぶつけたかったものでしょう。自分がみじめで、恥ずかしくて悔しくて。
もし増尾にレイプの冤罪がかけられていたとしたら?
きっと学友たちは「さもありなん」という態度で彼から離れていっただけでしょう。そこで増尾は自分の傲慢さに気づくかもしれなかった。
または、あの三瀬峠で車を下ろされた佳乃が、そのまま自分で歩いて峠をくだってきていたら運命はどう変わったでしょう?
始めはくやしさでいっぱいだったとしても、増尾の言葉が自分の中に突き刺さり、自分の今までを恥ずかしく思い、彼女の何かが変わったかもしれません。
そんなふたりの小悪党たちのごたごたで終わるはずだった峠のできごと。
しかしそこにまきこまれてしまった祐一。
本当に可哀想です・・・。
それぞれの登場人物たちがみな嘘や隠し事を重ね、小さな悪を日々繰り返して生きている。そのひずみの中に祐一が落ち込んでしまった。
そんな運命の皮肉さを思った作品でした。
保険外交員の女・石橋佳乃が殺害されます。
彼女と携帯サイトで知り合った男が捜査線上に浮かびます。
そして彼と出会ったもう一人の女。
加害者と被害者、それぞれの家族たち。
なぜ、事件は起きたのか?悪人とはいったい誰なのか。
朝日新聞で連載されていた小説を単行本化した長編小説です。装丁からインパクト大。
内容について触れますので、未読の方はご注意ください。
無口な土木作業員の清水祐一。
彼は罪を犯しますが、作品を読んでいくと「善人が、運命の不幸なめぐりあわせで法に触れる行いをしてしまった」ように思えます。
母親に金をせびったり、最後に光代の首をしめたのも「本意ではない。けれどむしろ自分を「悪人」と憎んでくれ。自分に罪悪感を抱かないでくれ」という、彼の悲痛な願いであろうと。
そして結局法には問われなかったけど、一番の悪人は、佳乃を峠に置き去りにした増尾ではないか?・・・。
こういう読み方が、この作品で多くの人が抱く感想であろうと思います。
でも・・・ひんしゅく覚悟で言いますが、私は増尾という人物が完全に悪人とは思えないのです。
結局は小心者で、親の財力だけで皆の注目を浴びている、学生の仲間内の中だけのお山の大将ですから。
佳乃や彼女の父親を仲間内の笑いものにしたことは彼の、本当に唾棄すべき卑劣な面ですが、自分が罪から逃れようと狼狽し逃走したことや、警察で泣き喚いたことへの決まり悪さを自分で打ち消したくて、事件のことを笑いものにでもしないと自分のつまらないプライドが保てなかったのではないでしょうか。
それが彼が若かりし日の傲慢さであり、月日がたてば「あの時自分はなんて思いやりのない、ばかなことをしたのか。」と気づき、後悔するであろうことを願うばかりです。
そして一方、殺された佳乃について。
彼女もみえっぱりで嘘が多くて、あまり好感が持てる女性ではありません。まぁ、それぞれの嘘は誰もが日常的につきうる小さなものではありますが。
三瀬峠でのできごと。
増尾がした行為は暴力的で自分勝手で残酷なものであったけれど、佳乃を攻撃する「あんた、安っぽか。」というセリフに、私自身、読んでいて胸がすくものがあったことも事実。
増尾はこのほかにも観光客相手で高いだけのラーメン屋で「ごちそうさん、まずかった。」といって店の雰囲気を悪くするなどかなりの毒舌です。
でも彼の、人の事情を考慮しない言葉に鶴田が小気味よさを感じたことに私も共感してしまいます。
佳乃が増尾の自動車を下ろされた直後、祐一にぶつけた怒りはまさにやつあたり。
「レイプされたって言ってやる!」という言葉は本当は増尾にぶつけたかったものでしょう。自分がみじめで、恥ずかしくて悔しくて。
もし増尾にレイプの冤罪がかけられていたとしたら?
きっと学友たちは「さもありなん」という態度で彼から離れていっただけでしょう。そこで増尾は自分の傲慢さに気づくかもしれなかった。
または、あの三瀬峠で車を下ろされた佳乃が、そのまま自分で歩いて峠をくだってきていたら運命はどう変わったでしょう?
始めはくやしさでいっぱいだったとしても、増尾の言葉が自分の中に突き刺さり、自分の今までを恥ずかしく思い、彼女の何かが変わったかもしれません。
そんなふたりの小悪党たちのごたごたで終わるはずだった峠のできごと。
しかしそこにまきこまれてしまった祐一。
本当に可哀想です・・・。
それぞれの登場人物たちがみな嘘や隠し事を重ね、小さな悪を日々繰り返して生きている。そのひずみの中に祐一が落ち込んでしまった。
そんな運命の皮肉さを思った作品でした。