Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ボン書店の幻」内堀弘著(筑摩書房)

2009-07-02 | エッセイ・実用書・その他
「ボン書店の幻」内堀弘著(筑摩書房)を読みました。
著者は詩歌書を専門に扱う「石神井書林」の古書店主。
その著者が追うボン書店の記録です。
ボン書店とは、1930年代、自分で活字を組み、印刷をし、好きな本を刊行していた小さな出版社。著者の顔ぶれはモダニズム詩の中心的人物北園克衛、春山行夫、安西冬衛ら。いま、その出版社ボン書店の記録はなく、送り出された瀟洒な書物がポツンと残されているだけ。身を削るようにして書物を送り出した「刊行者」鳥羽茂とは何者なのか?書物の舞台裏の物語をひもといた本です。

出版社というより「出版人」。自宅の一室で印刷機をまわし、凝った装丁の詩の本を出していた鳥羽茂(とば いかし)。
文庫の表紙にのっている本を見ても、いかにモダンなセンスの持ち主だったのかがよくわかります。
採算のとれない出版業、次第に病に蝕まれていく体。人生を賭けながら、今ではほとんどの人に忘れられた己の仕事。
薄幸な人生だったのだなぁ・・・と思いながら読んでいたのですが、最後の「文庫版のための少し長いあとがき」でその思いが変わりました。
病弱な体で、いやだからこそ、「自分の好きな本を、好きなやうに作つて」ぎりぎりまでやりとげ、今その体は静かな山の風にふかれているのだろうと。

世の中の人の記憶に残るのは著者名と本だけ。
でもその後ろにある本を出版する人の思いに深くせまったこの本。
著者が鳥羽さんへ抱く共感と敬意の念、そして著者自身の書籍への愛情がひしひしと伝わってくる本でした。


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