Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「奇跡も語るものがいなければ」ジョン・マグレガー著(真野泰訳)新潮社

2008-10-26 | 外国の作家
「奇跡も語るものがいなければ」ジョン・マグレガー著(真野泰訳)新潮クレスト・ブックスを読みました。
イングランド北部のある通り、夏の最後の一日。
22番地の小さな眼鏡をかけた女子学生。彼女を密かに恋する18番地のドライアイの青年。19番地の双子の兄弟。20番地の口ひげの老人。そして、16番地の大やけどを負った男と、その小さな娘。
通りの住人たちの普段どおりの一日がことこまかに記され、そこに、22番地の女の子の、3年後の日常が撚りあわされてゆきます。
無名の人びとの生、そして死を語った物語です。

この物語はマイケルのお兄さんが語る「現代考古学」という言葉が一番近いかもしれません。世の中にはあまりにも人や情報が多すぎる、でも自分なりに世界をすくい取ってみたい・・・。
小さなとおりに住むさまざまな人たちの情景が描かれる中でもメインの物語は、3年後女の子が妊娠した物語。
自分の母へ懐妊を語ることへのためらい、出産への不安など、とてもリアルに思えました。

それから不治の病にかかった老人とその妻の話。
自分の祖父の死に際の話は彼自身の死をだぶらせているようで殊に印象的でした。

「じいさんはだんだんよくなっていくみたいだったんだ。それでじいさん、そのままいったんだ。すごくゆっくりとな、まるでびんに水がたまっていって沈んでいくみたいにな。」

無名の人生は決してつまらないものではなく、その中に生も死もつまっており、そして時に奇跡がひそんでいる・・・そう感じさせてくれる作品でした。