Straight Travel

日々読む本についての感想です。
特に好きな村上春樹さん、柴田元幸さんの著書についてなど。

「ハリー・ポッターと謎のプリンス」J・K・ローリング著(松岡佑子訳)静山社

2008-10-17 | 児童書・ヤングアダルト
「ハリー・ポッターと謎のプリンス」J・K・ローリング著(松岡佑子訳)静山社を再読しました。ネタバレあります。
出だしからベラトリックスとスネイプ先生のバチバチの対決。
「我輩がもっていたダンブルドアの16年分の情報を闇の帝王はお喜びだ。ご帰還祝いの贈り物としては、アズカバンの不快な思い出の垂れ流しより、かなり役に立つものだが・・・」痛烈な皮肉。でも痛快。
死喰い人の間でもスネイプ先生のいやみ健在。

今巻ではヴォルデモート卿の子ども時代~青年時代までが描かれます。
ダンブルドアが哀しい顔で語る「きみの洋箪笥を燃やして怖がらせたり、君が犯した罪を償わせたりできた時代は、とうの昔になってしもうた。しかしトム、わしはできることならそうしてやりたい・・・できることなら・・・」の言葉。
何度もやり直せる機会はあったのに、何年もかけて自分自身で自分の人生をねじまげてしまった悲しみ。
最後塔の上でマルフォイにかけた言葉もそうですが、ダンブルドアは厳しいだけでなく、本当に情け深く魂の強い先生だと思いました。

それから何をやってもラッキーになるというフェリックス・フェリシスという薬が面白かったです。
スラグホーンからどうやって記憶をひきだすんだろう?ハグリッドからどうつながるんだろう?と思ったけど、やった!という感じでした。
ダンブルドアが「きみの心を映すみぞの鏡が示しておったのは、不滅の命でも富でもなく、ヴォルデモートを倒す方法のみじゃ。ハリー、あの鏡に、君が見たと同じものを見る魔法使いがいかに少ないか、わかっておるか?」と語りましたが、それはフェリックスの使い方を見てもよくわかります。
一回はスラグホーンの記憶をひきだすため。
残りは仲間の命を救うため。
私ならハリーのように上手には使えないだろうなあ・・・。

ハリーが助けてもらったプリンスの正体が実はスネイプ先生だったとは驚きでした。
ハリーが大嫌いな先生ですが、実は個人教授をしてもらっていたようなものですね。「プリンス」という母方の魔法使いの血筋を名乗っていたのは、スリザリンの寮に強く在る考え方なのでしょう。純血こそが魔法使いという考え方のなかで、純血の生徒よりずっと才能のあるスネイプ先生は悔しかったでしょうし、生きづらかったでしょう。
自分で呪文を考え出すほど学生時代からぬきんでていた才能。
騎士団からも、死喰い人からも頼りにされている有能さ。

でもマグゴナガル先生が「私たち全員が怪しんでいました」とスネイプ先生について言うのはなんだか可哀想でした。
16年間も職をともにして、同じ騎士団で働いていて「セブルス」とファーストネームで呼ぶマグゴナガル先生だけは、ダンブルドアが亡くなっても、何か事情があるものとスネイプ先生をかばってほしかったな・・・。
みんながスネイプ先生を認めていたのはその能力についてだけで、心については誰も信じていなかったという事実がつらい。確かにスネイプ先生自身が口も悪いし、えこひいきもするし、およそ人好きのする性格ではないからでしょうが。

誰よりも才能に恵まれている。
でも友達はいない、家族もいない。信じてくれる人は誰もいない。
それなのになぜヴォルデモートのようにならないのか?
私には周囲の愛情に支えられたハリー対、世界に背を向けたヴォルデモートというよりは、スネイプ先生対ヴォルデモートの対比がとても気になります。
そして物語はいよいよ最終章へ!