Men's wear      plat du jour

今日の気分と予定に、何を合わせますか。 時間があれば何か聴きましょう。

Babylon Revisited

2012-02-25 | Others
 最近一人でカウンターに座ることは稀になりましたが、待ち合わせまで少しある時や、しかるべき時間に近くを通りかかり、なお且つ時計を気にする必要のない場合など、ちょっと寄りたくなります。

座ってひとの消息など尋ねていると、何だかS・フィッツジェラルド「バビロン再訪」の主人公になったような気がしてきます。



「それからキャンベルさんは今どこ?」チャーリーは尋ねた。
「あの方はスイスへいらっしゃいました。お身体の具合がどうもよくないんですよ、ウェールズさん」
「それは気の毒だな。じゃ、ジョージ・ハートは?」
「アメリカにお帰りになりました。お勤めだそうです」
「じゃ、雪頬白のダンナはどうしてる?」
「先週お見えでしたけどね。とにかく、あの方のお友達のシェファーさんなら間違いなくパリにいらっしゃいます」

毎晩のように、世界のどこかの止まり木で交わされているに違いない遣り取りです。

この冒頭をよく思い出しますが、その先どういう展開だったか思い出せないまま、読む物に困って久しぶりにフィッツジェラルドの短編集を買いました。
読むのは村上春樹さんの訳が出た頃以来でしょうか。今回のは新潮文庫の野崎孝氏訳です。

昔は「氷の宮殿」が一番印象に残っていましたが、今読むと北部での事件より、気だるいようなのんびりした歌声で、ホーギー・カーマイケルが自作を歌うのが聴こえて来る、南部の空気を描いた部分が上手く伝わってきます。

まったく忘れていた「冬の夢」の方が面白かったのは、年齢のなせるわざでしょうか。
主人公が、恋焦がれた相手に翻弄される様を読んでいたら、B・Bキングが「You upset me baby」と力いっぱい歌う声や、ジュニア・パーカーの歌う「Drivin' wheel」が聴こえてきました。

ところで、この話にはこんなくだりがあります。

「自分も立派な服を着られる身分になったときには彼も、アメリカ最高の仕立屋はどこかをすでに知っていた。そしてこの日の夕方彼が着ていたスーツは、まさにその最高の仕立屋が仕立てたものであった。彼は、彼の母校の大学が、他の大学とはっきり違う独自の特色として持っている、あの万事に地味をよしとする嗜好、あの感覚をすでに身につけていた。彼はそうした態度が自分にとって有利なことに気付き、意識してそれを習得してきたのである。服装にしろ態度にしろ、無造作であるためには、慎重に意を用いる場合よりもはるかに大きな自信の裏打ちを必要とすることを、彼は承知していた」

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