再び勢い増すトランプトレード、注目すべき取引・銘柄-QuickTake
Esha Dey
2024年7月18日 12:59 JST 更新日時 2024年7月18日 14:50 JST
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米国の投資家は今年の米大統領選挙が大きな波乱なしで進むと予想していた。有権者はバイデン大統領とトランプ前大統領をよく知っており、最後まで接戦が繰り広げられるとみていた。しかし6月の第1回討論会でバイデン氏が精彩を欠いたことで状況は一変。さらに7月13日にはトランプ氏の暗殺未遂事件が起きた。
トランプ氏は現在勢いに乗っている。世論調査で支持率は上昇し、同氏が機密文書を不適切に所持・管理していたとされる裁判は、連邦地裁が公訴を棄却した。そして銃撃事件で負傷したトランプ氏は政治的な立場を問わず全国民から同情を集めている。ベッティング市場では11月の選挙でトランプ氏の勝利に賭けるオッズはかつてないほど高まっている。
トランプ氏が大統領に返り咲いた場合の政策を考慮して株式や債券、通貨などに賭ける「トランプトレード」はこうした状況下で復活。トレーダーやストラテジストの間では、トランプ氏が返り咲けば規制緩和と保護貿易主義政策、それに伴うインフレ圧力から恩恵を受ける取引が活発化するとの見方が強い。具体的にはドル高、米国債利回り上昇、銀行・ヘルスケア・エネルギー関連株の上昇などだ。
トランプトレードの詳細は以下の通り。
The 2024 Republican National Convention
共和党全国大会に出席したトランプ前米大統領(ウィスコンシン州、7月15日)Photographer: Al Drago/Bloomberg
トランプトレードとは何か
トランプ氏が返り咲く可能性が高いことを最大限に活用しようとする投資や資産売却のことだ。トランプトレードが最初に見られたのは2016年の選挙でトランプ氏が予想外の勝利を収めた直後だった。同氏が公約に掲げていた法人減税や規制緩和を反映して米国株と米国債利回り、ドルが同時に急伸した。
今回は大統領候補者討論会後にバイデン氏の年齢や適格性への不安が高まった後と、トランプ氏の暗殺未遂事件の後にポートフォリオの本格的な調整が始まった。特に外国為替市場と債券市場で最も顕著な動きが見られた。
金融資産別の具体的な動き
通貨:
ドルは同討論会の数時間後に上昇。トランプ氏勝利の可能性に市場がどのように反応するかをいち早く示すシグナルの一つとなった。トランプ氏は減税のほか、中国からの輸入品に60%、その他の国からの輸入品に一律10%の追加関税を課すとしている。ゴールドマン・サックス・グループのチーフエコノミスト、ヤン・ハッチウス氏は最近、そのような関税が現実となればインフレ加速を招き、米金融当局による約5回の追加利上げにつながる可能性があるとの見方を示した。一方、共和党の副大統領候補に選ばれたバンス上院議員は米輸出品が割安になり、より多くの買い手がつくよう、ドル切り下げを排除しない立場を示している
米国債:
討論会の後、27兆ドル(約4220兆円)規模の米国債市場で資金を運用する担当者は期間短めの債券を購入し長めの債券を売却した。これはスティープナー取引として知られるインフレ進行に対するヘッジだ。モルガン・スタンレーやバークレイズを含むウォール街の多くのストラテジストがこの戦略を推奨し、顧客に対してトランプ政権2期目のインフレ高止まりと長期債利回り上昇に備えるよう呼び掛けている。2年債と10年債の利回り格差が広がる中、6月28日と7月1日の2営業日でイールドカーブは約13ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)のスティープ化と、昨年10月以来の大きさとなった。ただこのトランプトレードが実際に定着するには米金融当局の利下げが必要で、そうなればイールドカーブの期間短めの部分が持続的に低下する下地となる
株式:
トランプ氏の政策は銀行・ヘルスケア・エネルギーセクターや民間の刑務所運営会社のほか、合併を目指す企業の株式にプラスに働くとみられている。医療保険会社のユナイテッドヘルス・グループとヒューマナは規制緩和の恩恵を受ける見通しだ。 トランプ氏の政策は石油会社とガソリン車メーカーを明確に支持している。 GEOグループなどの民間刑務所運営会社はトランプ氏の厳しい移民政策により、拘留者が増加し得るとの見方から上昇している。スミス&ウェッソン・ブランズやスターム・ルガーなどの銃器メーカー株も恩恵を受ける可能性がある。また専門家によると、バイデン政権下で独占禁止法(反トラスト法)の運用は厳格化されたが、共和党政権は合併・買収の審査基準を緩和する可能性があり、株式市場のセンチメント改善に寄与し得る
仮想通貨:
デジタル資産への懐疑的な姿勢を崩さないバイデン政権当局者とは対照的に、トランプ氏は浮動票の獲得を目指し仮想通貨に対して好意的な立場を示している。ビットコインは大統領候補者討論会後に大幅上昇。トランプ氏暗殺未遂事件後も再び急騰した。注目すべき仮想通貨関連銘柄はコインベース・グローバル、マラソン・デジタル・ホールディングス、ライアット・プラットフォームズ、クリーンスパーク、マイクロストラテジー、サイファー・マイニング。そのほかビットワイズ・クリプト・インダストリー・イノベーターズ上場投資信託(ETF)も注目される
打撃受け得るトレード
メキシコ・ペソと人民元はドル高や追加関税に直面することになり、下げる可能性がある。株式ではトランプ氏がバイデン大統領のグリーン補助金政策の撤回を確約しているため、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー製品のメーカーが打撃を受ける恐れがある。
またトランプ氏が返り咲いて貿易摩擦が激化すれば、売上高に占める中国の割合が高い企業は混乱に直面する可能性があり、これにはエヌビディアやブロードコム、クアルコムなどの半導体メーカー、エアープロダクツ・アンド・ケミカルズやセラニーズなどの素材メーカー、オーチス・ワールドワイドなどの産業用機械メーカーが含まれる。
トランプ氏はメタ・プラットフォームズやアルファベット、スナップなどのテクノロジー大手と対立しており、これらの企業がオンライン上の言論統制を図っているとして厳しく取り締まる意向を示している。
もちろん11月5日の投票日までにさらなる予想外の出来事が起きる可能性は十分ある。識者はトランプ氏の政策の全貌がまだ明らかになっていないため、真の影響は不透明だと指摘する。
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原題:The ‘Trump Trade’ Is Back. Here’s What to Know: QuickTake(抜粋)
(トランプ氏返り咲きによって打撃を受け得るトレードを追加して更新します)
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