処理水タンク1000基、廃炉を阻む 福島原発のいま
事故から10年 現地ルポ
科学&新技術2021年2月9日 20:18
3月で事故から10年を迎える東京電力福島第1原子力発電所に9日、日本経済新聞の記者が入った。たまり続ける処理水を保管するタンクが林立し、廃炉作業を妨げる。原子炉建屋内にはなお多くの溶融燃料(デブリ)が残る。敷地の96%は防護服なしで行動できるようになったが、これから難作業が待ち受ける。
「ずっとタンクがあると、今後の廃炉作業にとってリスクになる」。9日、東電福島第1廃炉推進カンパニーの広報担当者が大型タンクを見上げながら語った。2020年12月に完成したばかりだが、既に処理水の保管が始まっていた。
福島第1原発の敷地内に並ぶ処理水などが入ったタンク。奥は(右から)4号機、鉄塔の左に3号機、2号機、1号機(9日、福島県大熊町)
9階建ての大型休憩所の屋上から福島第1を望むと、右手は処理水をためるタンクが所狭しと並ぶ。
福島第1が突きつけるのは、先送りが許されない現実だ。汚染水から大半の放射性物質を取り除いた処理水が今もたまり続ける。現在の技術で十分取れない放射性物質トリチウムを含む。東電は137万トン分の新設を含む保管タンク約1000基を用意したが、既に9割が埋まる。大きな空き地もあるが、廃棄物置き場にする予定だ。タンク新設の余地は乏しい。
汚染水の発生は1日平均140トン(20年)と、この5年で3分の1以下に減ったが、22年秋にもタンクは満杯になる。政府は「いつまでも先送りはできない」(菅義偉首相)とし、海洋放出の決定に向けて関係者と調整中だ。デブリや核燃料の保管場所を確保するには、タンクの撤去が必要だ。
廃炉作業が続く福島第1原発の4号機(9日、福島県大熊町)
4号機近くの建物では、はるか上に津波の跡が残っていた。当時、約13メートルの津波が海抜10メートルの1~4号機側の敷地を乗り越えた。1~3号機は炉心溶融(メルトダウン)を起こした。1、3、4号機は水素爆発で原子炉建屋の上部が吹き飛んだ。
廃炉作業は原子炉を冷やし、汚染したがれきを撤去することから始まった。事故直後は敷地の端でも毎時200マイクロシーベルトという一般の人の年間被曝(ひばく)限度に約5時間で達する線量だった。今は1マイクロシーベルト未満。原子炉建屋などを除けば、ふつうの服でも立ち入れる。
廃炉作業が続く福島第1原発の(左から)2号機、3号機、4号機。放射線計測器をかざすと毎時106マイクロシーベルトを示した(9日、福島県大熊町)
だが現実は厳しい。1~4号機を見渡せる高台に立つと、測定器は毎時100マイクロシーベルトを超えた。
政府・東電がめざす廃炉完了まで残り20~30年。22年に2号機でデブリの取り出しを始める予定だが、1、3号機は不透明だ。デブリは推定で900トンあるが、状態が分からず手つかずだ。
1~4号機の海側では海抜11メートルの高さの防潮堤が20年9月に完成したばかりだが、最大15メートルまで高くする予定だ。内閣府が20年4月に公表した日本海溝での巨大地震の想定に沿って、東電は最大約14メートルの津波が来る可能性があると分析しており、それに対応する高さにする。
福島第1原発の敷地内に完成した海抜11メートルの防潮堤(9日、福島県大熊町)
現地では、新型コロナウイルスの感染拡大防止と廃炉作業の両立にも迫られていた。今回の取材では、東電からの要請で事前に新型コロナウイルスのPCR検査を受けて福島第1の敷地内に入った。福島第1内で働く東電社員ら4000人も検温やマスク着用、県境をまたぐ帰省の自粛などの対策を求められている。万一、福島第1内で感染が拡大すれば、影響は避けられない。(福岡幸太郎)
事故から10年を経た東京電力福島第1原子力発電所は、今も骨組みが露出したままで、がれきが折り重なっていた。その風景は廃炉の難しさを改めて印象づけた。
政府は2050年の脱炭素実現の前提条件に原子力発電の活用を挙げる。既存の軽水炉だけでなく、核融合などの次世代技術についても推進する意向だ。
確かに英国やフランスは原子力を脱炭素の有効な電源と位置づけている。ただ事故を起こした点で日本はこうした国と状況は異なる。原子力を活用するのであれば、廃炉を着実に進め、信頼を回復することが大前提となる。
2020年12月、国は脱炭素に向けたグリーン成長戦略において原子力の活用を掲げた。それでも廃炉、処理水、中間貯蔵など、福島第1の問題は山積する。事故における廃炉賠償費用は20兆円を超え、さらに膨らむ見通しだ。その額の大きさは原発がコストの安い電源ではないことも浮き彫りにした。使用済み核燃料の取り出しや処理水問題も、国は先送りできないとしながら解決策を示していない。
原発の周囲に広がる中間貯蔵施設に運び込まれた汚染されたがれきも最終処分場が見つかっていない。カーボンゼロ(脱炭素)の旗振り役である小泉進次郎環境相は福島県知事との会談でも口をつぐんだままだ。福島を巡る状況は政府の想定通りには進んでいない。廃炉を着実に進めなければ、政府が描く脱炭素電源としての活用は遠のく。
(気候変動エディター 塙和也)