HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

何も学んでないところが問題では。

2014-11-05 05:50:53 | Weblog
 三陽商会が40年以上にわたってライセンス生産してきた「バーバリーロンドン」が2015年6月末で契約終了となる。同社にとって屋台骨を支えるブランドがなくなることは、15年度下期以降の収益減は否めない。

 同社は売上げ回復にコートブランド、マッキントッシュの高価格ライン、「マッキントッシュロンドン」を当てる考えのようだ。15年半ばから3年半で年商200億円を目標に、バーバリーに代わる基軸ブランドに育てるという。

 もともと、三陽商会はコート専業のメーカーだった。そのため、他社には無いノウハウを受け継いでいる。バーバリーのようなコートを主力アイテムに位置づけたい、コート造詣の気持ちが強いのは、わからないでもない。

 でも、それがバーバリー、そしてマッキントッシュとライセンスに頼るのは、ブランドの恩恵に与る一方、契約解除のリスクを伴う諸刃の剣でもある。

 また、ライセンスにあぐらをかいてきたがあまりに、自社ブランドを育てきれないという企業風土を生んでいるように感じる。

 それに対し三陽商会側は「基幹の一つに位置づけるオリジナルブランドの「エポカ」は、イタリア人デザイナーを招き、世界ブランド化へ舵を切る」という。

 でも、ファッションビルで展開する「エポカ・ザ・ショップ」を見ると、ありふれたNBの域を脱して切れておらず、同じビルインでSPA化を進める小売り出身のセレクトへの攻め手を欠く。

 また、百貨店を販路にするエポカは上質でコンサバなラインをキープしている。でも、ジャケットスタイルを見る限り、キャリア狙いなのか、セレブミセス向けなのか。誰に照準を当てているかがよくわからない。

 所詮、展開は百貨店のハコである。他メーカーのNBと同じフロア展開で、どこまでブランドが際立つのかという点でも疑問符がつくのである。

 言い換えれば、なぜ、マッキントッシュが日本で人気が出たのか。それは三陽商会が販路とする百貨店とは全く異なる、専門店が行った販売戦略、市場開拓だったからだ。 この辺にブランドビジネスの綾があると思う。



 1800年代に英国のチャールズ・マッキントッシュによってデザインされたゴム引きのコートは、その撥水性と上質な作りから欧州で人気を博していた。

 職人技による製法は21世紀の今も変わらず、日本ではブランド力もさることながら、手作り感や希少性は専門店にとって格好の「蘊蓄の的」になる。

 アールジーンなど数々の海外ブランドを日本でヒットさせたアパレル専門商社の八木通商他が日本に紹介すると、全国のセレクトショップが飛びついたのだ。

 バイヤーにとって仕入れる以上、マッキントッシュが持つもの作りの良さやクオリティの高さはもちろん、MD構築や売場づくりの上で、お客への提案、セールストークで蘊蓄できる商品は欠かせなかったからである。

 福岡でもマッキントッシュのコートは、インナーにボーダーのカットソー、ボトムにピカデリーやシマロンのパンツ、エグーやトリッカーズのブーツを組み合わせることで、「博多カジュアル」というスタイルを生み出した。

 つまり、マッキントッシュにファッションとしての可能性を見いだしたのが八木通商で、それをショップで際立たせたのが全国各地のセレクトショップだということができる。

 ただ、ヒットアイテムが生まれると、当然、模倣商品が出回る。マッキントッシュもご多分にもれず、某大手SPAに真似され、格安の商品が売れ出された。

 結果として同じマッキントッシュを扱っていた商社の中には、卸先が低価格のコピーに寝返るという憂き目に会い、駆逐されたところもある。

 しかし、八木通商は取引先のほとんどが地域一番店のセレクトショップということもあり、マッキントッシュはがっちり取引先と顧客をつかんでいった。

 以来20年にわたり、一度、このコートに袖を通すと着崩すまで着て、またこのコートに戻る、あるいは親子2代で愛用する。とまで、セレクトショップの店頭では語られている。まさに専門店が追求したアイテム、ブランドなのである。

 穿った言い方をすれば、八木通商と地域のセレクトショップがガチで組んで切り拓いた市場に、三陽商会は「フィロソフィー」というセカンドライセンス、百貨店チャンネルで ちゃっかり乗っかっただけということになる。

 そして、バーバリー無き後は高価格ラインで、こうした顧客をいただこうという魂胆と受け取れる。個人的には、ライセンス販売に安住してきたアパレルメーカーが「少々、欲の皮が突っ張り過ぎでは」と言いたくなる。

 しかし、八木通商は「全国の客層を広く知っており、ものづくりへの信用がある」と、いたって大人の態度で臨む。三陽商会がいくら販売しようが、商標権は自らの手にあるという余裕からだろうか。

 また、セレクトショップも、マッキントッシュはすでに浸透、定着したと踏み、新たなアイテムの開拓に勤しむ。その辺の謙虚さ、独立独歩の精神にも頭が下がる。

 まあ、日本のファッション業界で、海外ブランド争奪戦はあまたある。ビジネスだから、勝つ企業もあれば、負ける企業もある。別に目くじら立てることでもないだろう。

 しかし、地域専門店は百貨店より早くから欧米に出向き、ブランドを開拓してきたという自負があるはずだ。ある経営者は「自分たちがようやく顧客を開拓したと思うと、百貨店に根こそぎ持っていかれる」と、不満を口にする。

 別の経営者は「百貨店が販売しても買い取らないので、掛け率は下がらないからそれほど儲からないのでは」と、異に介しない。

 どちらにしても、三陽商会はマッキントッシュでも一定規模の市場を開拓することは間違いないだろう。ただ、自社の屋台骨を海外ブランドのライセンスに頼る限り、自社ブランドへの資源集中はおろそかになる。

 何よりアパレルに生命線である企画、デザイナーの育成が進んでいないのではないだろうか。ソレイユに始まり、トランスワーク、ショーゾーツジムラ、最近ではフラジールなど、なぜか「これッ」って自社ブランドが育たないように思う。

 コートづくりのノウハウを持っているだけに、自社ブランドのコートやその日本人デザイナーを育成しようという気持ちはないのだろうか。実にもったいない話である。

 マッキントッシュロンドンとの契約は、19年までの5年間。延長されるか否かは売れ行き次第ということだろうが、百貨店のハコである限り、セレクトショップのようなMD、販売政策はとれない。

 バーバリーを手がけ、バーバリーに袖にされた学習効果は、何も働いていないようである。
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