HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

日本製礼賛に潜む盲点。

2015-10-21 13:51:02 | Weblog
 今年2月、テレビ東京の日経スペシャル「ガイアの夜明け」で、「“ニッポン製”の逆襲が始まる!」との特集が放送された。

 番組内で取り上げられた熊本市のベンチャー企業「シタテル」は、「小さなセレクトショップ」から「作ってみたい商品」を聞き出し、縫製工場に直接、生産を依頼する仕組みを作り上げようとしているとのことだった。

 小売り側にとってはオリジナルを作ろうにも、小ロットでは工場が受け付けてくれない。かたや、工場側は大手アパレルなどのOEM生産を受注してきたため、新たなお客を開拓するルートを持たないという問題を抱えている。

 両者が抱える課題にインターネットなどITを駆使して解決を図り、ビジネスにしていこうというものだ。番組はこのセレクトショップと工場をマッチングさせる画期的な試みを、流通革命と銘打って紹介した。

 ローカル紙も「高い技術を持ちながら、海外とのコスト競争で苦境に立つ縫製工場も少なくない」「活躍の場を求める縫製工場と、付加価値を生み出したい中小・零細のショップをつなぎたかった」と、情緒的に切り込んでいる。

 ビジネスシステムについては、「注文は自社のWebサイトで会員登録した顧客が対象。要求に応じてデザインやパターンを手掛ける社内外の4人とともに、生地メーカーと協力してサンプルを作製する」

 「製造は有名ブランドやショップのOEM(相手先ブランドでの生産)を担う国内50の縫製工場と提携。各工場の受注状況や技術的な特徴をデータベース化して、顧客に合った最適な工場に製造を発注する」「これらの手続きはすべてネット上で行っている」

 「中小の工場との提携で、小口の受注にも対応しており、一般的には半年かかる納期を1~2ヵ月に短縮、原価も従来より安い4割程度に抑えられる」と、テレビメディアより詳細にまとめている。

 偶然なのか、熊本には「ファクトリエ」という似た事業を展開する企業もある。こちらはNHKローカルが夕方の情報番組で放送した。放送された内容は、以下のようなものだ。

 「従来は商品発注者と工場との間にOEM業者などが介在していたため、工場側は非常に低い工賃で縫製を引き受けなければならず、非常に疲弊してきている」

 「これに対し、工場がしっかりとした売上・利益を確保していくには、中間業者を完全排除して工場と消費者をダイレクトに結び付ける工場直販を提供していく。」

 「発注側と工場が直接つながると、中間業者をカットできてコストが削減でき、工場側も利益がつながる」仕組みということである。

 番組では、NHKの熊本支局が取材して編集したVTRに加え、スタジオのキャスターが同社のフォーマットをフリップで説明するほどの力の入れようだった。

 シタテル、ファクトリエともにビジネスの方向性はそれほど変わらない。違いはシタテルがアパレルメーカーの役割で、セレクトショップという小売業を取引先にするのに対し、ファクトリエは自らショップというポジションで、お客に接しているという点だ。

 両社とも詳しくチェックしたわけではないので、実際にどんな商品が作り出されているかの詳細には言及できない。もの作りは仕立てるがややデザイン先行、ファクトリエが上質の定番志向という感じだろうか。

 どちらにしてもテレビ、新聞による報道は一般向けだから、アパレルの構造やビジネスの仕組みをあまりよく知らない人にとっては、画期的な試みのように受け取れる。

 しかし、日本の高い技術、大量から適量、ITと条件を整えれば、アパレル業界が激的に変わる。作り手、売り手、消費者に喜ばれるバラ色のビジネスが成立するというのは、懐疑的と言わざるを得ない。これだけで様々な課題は解決できるとは思えないからだ。

 勘違いしてほしくないのは、シタテルやファクトリエの仕組みを否定するわけではない。しかし、ビジネスである以上、消費者に売れてなんぼの世界である。そのためには価格や販売力も重要であり、これがコストまで吸収できて消費者に受け入れられる。

 また商品づくりにはマーケティングやマーチャンダイジング、デザイン、トレンドや嗜好なども関わってくる。ショップ側が作りたい商品が必ずしも売れて、利益が上がるとは限らない。また定番の上質な商品なら、わざわざ作らなくても他にいくらでもある。

 国内工場を保護し、メイドインジャパンに再び目を向ける考えはわからないでもない。しかし、それがデフレ慣れした消費者の価値観まで変えて、昔のようにマスマーケットを形成できるかと言えば、そう簡単ではないだろう。

 マーケットのボリュームがどの程度かも各自の認識は違うと思うが、量の確保は工場にとって死活問題である。従来は商品1点の工賃が安いがロットがまとまるから、何とか収益が上がる面はあった。それがデフレによる値下げ圧力で工場は疲弊していった。

 ただ、量が増えずにロットがまとまらず、工場の稼働率が下がってしまうが、それに見合うだけの工賃が本当に取れるのかと不安もあるだろう。ITによるコスト削減くらいで適正な工賃がもらえるとは工場も思ってないからだ。

 では、順に問題点を挙げてみたい。まず、シタテルがビジネスのきっかけにした「小さなセレクトショップから作ってみたい商品」への対応である。

 「作ってみたい商品」とは何か。まずどうしても仕入れたいブランドがロットやバッティングの問題で手に入らない。そうした時に独自で作るというケースが考えられる。

 さらにショップのオーナーやバイヤーがとにかく他店と差別化するため、デザインや素材にこだわった「オリジナル商品」を作るというケースもあるだろう。

 どちらにしても、ゼロから商品を作る場合、まずデザイン、パターンが必要になる。シタテルではネットワークで結ばれた「社内外の4人」が携わるとしている。

 でも、ショップが作ってみたい商品が本当にたった4人のスタッフで具現化できるのか。それは疑わしい。トラッドのテイストならともかく、モード寄りになるとデザイナーやパタンナーがもつ感性では不可能な場合もある。

 ショップ側はデザインの専門家ではないから、イメージ図もしくは雑誌の切り抜きぐらいでしか伝えられない。

 仮にデザインが可能であっても、実際の服になるにはパターンが重要なカギを握る。イメージ通りという程度では、実にあやふやなもの作りになってしまう。お互いが納得できるには相当の時間がかかるし、できなければできるスタッフが必要になる。

 加えてデザインやパターンにはコストがかかる。作りたい商品が1枚でも、10枚でもかかるデザイン料やパターン代は同じだ。

 だから、一般的にアパレルメーカーはサンプルを作り、展示会でいろんなショップからオーダーをとってロットをまとめて量産し、デザイン料やパターン代を按分してコスト吸収している。

 つまり、枚数が増えなければ、コストはそのまま商品価格に跳ね返る。仮に1型のパターン代が3万円になった時、商品を1点しか生産しないのなら、 価格に3万円の上乗せされることになる。

 10点でも1点あたり3000円である。ショップ側はこうしたコスト増の商品を売っていかなければならないことになる。

 また「生地メーカーと協力してサンプルを作製する」と言っても、作ってみたい商品に見合う生地が手に入るのか。また、1反の生地から服を作る「反つぶし」になると、枚数が増えない場合、今度は生地コストが商品価格を上げてしまう。

 ショップ側にとって、作ってみたい商品は「リスクがあるから枚数は増やせない」でも、「販売価格もそれほど上げたくない」。

 となると、メーカー側はデザイン料やパターン代のコストを吸収するため、生地のコストを下げることを考えなければならなくなる。

 大した生地でもないのに、価格は高いということになりかねない。逆に生地のコストを上げれば、商品価格はなおさら上がっていく。

 ITを駆使して原価が抑えられると言っても、それぞれの工程に携わる業者が適正な利益を取れるかは、また別の次元のような気がする。

 要するに「ショップが作ってみたい商品」と言っても、それが最終的にいくらでお客に売れるのか。それをしっかり考えて、デザインやパターン、生地、縫製などのコストまでに練っていかないければ、何も始まらないのである。

 これは、お客さんが望む上質な商品を適正価格で提供するというファクトリエにも言えることだ。だから、こちらは売れ残りリスクを考え、定番デザインの商品に特化している。しかし、上質で高価な商品であっても、コスト吸収の問題は同じだ。

 メイドインジャパン回帰、日本製礼賛が先行するあまり、いちばん大事な売れる価格、適正利益、そして様々な技術といった工程がおざなりにされては意味がないのである。

 また、工場側の問題もある。これについては、先日、繊研新聞が「客寄せパンダ」というタイトルで、以下のようなコラムを掲載していた。

 「取材先の国内縫製工場を大手量販店のバイヤーが久しぶりに訪れ、「服を作って欲しい」と言ってきた。しかし、その縫製工場は量販店が要求する大ロットを生産する能力はない。それでも「何とか縫ってくれ」と懇願された。

 理由は「店頭で国産を打ち出したい」から。どうやらオーダーに継続性はなく、いわゆる客寄せパンダの発想で国産フェアをやろうというものだった。海外生産に目を向けていたのに、円安になって急に戻ってきて、しかもスポットの仕事。その経営者ははっきりと断った。気持ちは痛いほど分かる。

 ただし、継続的なオーダーがあれば仕事を請けていいのか、疑問が残る。最初は少ない仕事から始まり、徐々にその量販店からのオーダーの比重が増え、最終的に専属になる可能性もある。そうなると次第に工賃抑制の圧力が強まる。コストが合わずに断ると仕事を減らされる。最悪、全て切られる可能性もある。

 国産を守る意識を前提に、適正工賃で継続的に仕事を出す気があるか。そこを見極めないといいように使われるだけになってしまう。」

 これが国内工場に共通した認識だろう。甘い話への猜疑心は拭えていないはずである。

 従来、工場は国内外の大手アパレルやOEM業者などと取引し、ある程度まとまったロットで縫製を行い、収益を上げてきた。しかし、「作ってみたい商品」「お客が着てみたい商品」のロットがまとまるかということである。

 いくらシタテルやファクトリエが小ロットに対応できる工場を確保すると言っても、工場が収益を上げるのは「適量」であっても、「量産」でないと成り立たない。量産とは決して1.2枚ではありえないし、20~30枚でも不十分だと思う。

 ファッションライターの南充浩さんが先日、ご自身のブログで「中価格帯のドメスティックブランドのOEMを手掛けたことのある業者は、商品未引き取りや不当返品、不当値引きなんて普通にされたというし、1500枚のオーダーで1枚当たりの利益が50円しかなかったということもあった。」 と書かれていた。

 大量生産で工賃を下げられるのだから、仮に工賃を据え置いて適量で適正利益が出るのか。IT整備で中間業者を排除するにしても、適量でロットが150枚に下がって、本当に工場にとって十分な利益が出せるのか。課題は尽きない。

 解決するためは何にもまして、なおさらショップ側の価格決定と販売力がカギを握っているのではないか。

 工場もメーカーも適正利益が出せて、ショップも儲かる。そのためには小売り側がリスクを背負い、お客に売り切ることで、答えを出せるようにならないと、画期的なビジネスも絵空事で終わりかねない。

 作ってみたい商品、お客が着てみたい商品には、それなりの責任がついて回るのである。そう考えると、ショップ1店の問題ではなくなってしまう。

 今度はショップ側にもエリアが違い、取引先がバッティングしない店同士が組んで商品を発注する仕組みづくりが求められるのかもしれない。それこそネットを使って情報交換し、作ってみたい商品を統一させたアウトラインを完成させる。

 それをもとにデザイン、パターンから生地までのコストを持ち合い、ある程度のロットを増やして発注すれば、メーカー、工場も適正利益を出せるかもしれない。

 ファッション業界は作る側だけのイノベーションで変わるわけではない。地域を超えた小売り間のネットワークも必要だということだ。

 アパレル構造を変えたいと考えるビジネスの背景に潜む様々な問題。メイドインジャパン回帰、日本製礼賛の死角に隠れた盲点。まだまだ尽きないようである。
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