HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ビル開発で活性なし。

2021-11-24 07:01:39 | Weblog
 コロナ感染者が減ったこともあり、久々に県外出張に出た。目的地は鹿児島市と熊本市。前市は博多駅から九州新幹線で1時間20分、後市は同50分。スケジュールが合えば1日で仕事をこなすこともできるが、今回はそれぞれ単独となった。そこで仕事が終わった後、各中心市街地の「いま」を見て回った。

 鹿児島市は令和3年11月現在、人口約59万3,000人。中心部を歩くと電車通りを挟んで「天文館」アーケードがあり、それを軸に幾つかの商店街が左右に伸びる。その中で老舗百貨店の「山形屋」が核となって中心繁華街を形成する。ただ、訪れた日が平日だったため、人通りはそれほど多くはなかった。



 2004年3月、九州新幹線の鹿児島-八代ルートが開通し、鹿児島中央駅に駅ビル「アミュプラザかごしま」が開業。07年10月には郊外に「イオンモール鹿児島」がオープンした。逆に09年5月には電車通りに面する百貨店「鹿児島三越」が閉店。天文館入口の若者向けSC「タカシマヤプラザ(タカプラ)」も18年2月に営業を終えた。これは紛れもなく、中心部の商業構造の変化を物語る。

 2002年の売上げ比率は天文館地区60%、鹿児島中央駅地区7%だったが、07年には同43%、同25%と18%も縮まった。それまでになかった全国ブランドが駅ビルに集まれば、若者を中心にお客は吸い寄せられる。郊外SCはワンストップショッピングを可能にし、ファミリー層までもが持ち出された。天文館地区の売上げは現在、さらに低下しているだろう。

 変化はそれだけではない。駅ビルの開業は若者の雇用を増やし、地元ハローワーク開所以来の求人数を記録した。郊外SCは販売職のみならず、施設管理やメンテナンスなど多くの中高年を採用する。施設開業による雇用増は、そのまま消費を変化させた。天文館地区の賑わいが見られなくなったのが何よりの証拠で、地盤沈下は相当に進んでいると感じる。



 地元自治体は天文館地区への来訪者が減少し、売上げが右肩下がりとなっている現状を懸念。まちの顔である中心市街地の活性化を目的に新たな基本計画を策定した。その中で、最も大規模のものが「千日町1・4番街区第一種市街地再開発事業」。タカプラを主体にしたL字型の敷地約6,000㎡に、商業施設や集会場やオフィス、ホテルをもつ複合ビル「センテラス天文館」を建設するもので、来年春の開業を待つばかりだ。


 実際に見てみるとそれほど巨大ではないが、官民を挙げた再開発プロジェクトに地元の期待は大きい。1〜4階を占める商業施設は東京建物(株)傘下の「プライムプレイス」が運営し、物販や飲食のテナント誘致が進んでいる。果たして、再開発ビルは中心部にかつての賑わいを取り戻す起爆剤になれるのか。それともすぐに飽きられ、紋切り型のテナント集積に堕していくのか。開業を待たずとも、その行く末が見える気がしてならない。


地方で誘致できるテナントは限られる

 なぜなら、先に再開発を終えた熊本市の事例があるからだ。同市は令和3年10月現在の人口は約73万8,000人。中心部には上通り、下通りの二大商店街があり、鶴屋百貨店と一体で中心市街地を成している。ところが、市の郊外にはイオンモールやゆめタウンなどの大規模商業施設がいくつもあり、福岡市までは新幹線のほか、高速バスでも2時間という近さから、中心商店街からの持ち出し額は年間で120億円とも130億円とも言われている。

 そのため、ここ数年で3つもの再開発事業が実施された。平成29年、下通りのダイエーグルメシティ跡地に複合ビルが建設され、1〜4階は都市型SC「cocosa(ココサ)」となった。次いで岩田屋伊勢丹や阪神百貨店が撤退した桜町のバスターミナル一体が再開発され、令和元年9月には「SAKURA MACHI Kumamoto(サクラマチ ・クマモト)」が誕生。今年3月にはJR熊本駅に隣接し駅ビル「アミュプラザくまもと」が開業した。

 各施設の延床面積はココサ約1万600m²、サクラマチ・クマモト同約4万4,500㎡、アミュプラザくまもと約2万9,400m²(物販面積)で、8万4,000m²以上もの商業スペースが増えた。その分、中心部の売上げが増加したかと言えば、必ずしもそうとは言い切れない。

 昨年は新型コロナウイルスの感染拡大による店舗の休業や時短に加え、市民の自粛生活が響き、各商業施設は通常の営業状態ではなかった。3つの商業ビルが力を発揮するにはコロナ禍が完全に終息してからとの言い訳もできる。そうは言っても、熊本市は人口70万人に過ぎず、東京や福岡のように他県から集客できる力は高が知れている。



 コロナ禍以前に開業したココサは、既存店がなかった「ジャーナルスタンダード」や「フリークスストア」の誘致には漕ぎ着けた。しかし、今回リサーチで「ハレ」「ベイフロー」「ザ・スーツカンパニー」「スポーツオーソリティ」は3年も持たずに退店したのがわかった。跡地に出店したのは「ナストロ バイ リピネ(暫定的なポップアップショップ)」「ABCマート」「島村楽器」「100円ショップセリア」。またインテリアショップ「ウニコ」の撤退後には「ニトリ」が出店予定で、他都市の商業施設と何ら変わらない。

 計画段階でデベロッパーが立てたコンセプトは「Design Our Lifestyle」。「ファッションやライフスタイルへのこだわりを持つ人々の感性を刺激し、自分らしさを表現できるモノ・コトを一つ一つ丁寧にセレクトし、30代女性を中心にカップル、友人、ファミリーまたはひとりでも様々なシーンで充実した時を過ごせる熊本の『特別な場所』を提案する」だ。

 「セリア」も「ニトリ」もそのコンセプトに合致すると言えば、それまでだ。しかし、デベロッパーとしては競合2施設とテナント争奪を繰り広げた結果、売場スペースを効率よく埋められるものを入れるしかないのが本音ではないか。結局、テナントは実需に対応した紋切り型になっていくのだ。

 と言うか、東京の「パルコ」や「丸井」を除き、市場規模が限られる地方の都市型SCで誘致できるテナントの顔ぶれはほぼ決まっている。文化施設やホテルなどを組み合わせた複合ビルを新たに開発したところで、商業施設ではバッティングのないテナントしか集められない。競争を優位に進めるなど無理な話なのだ。

 センテラス天文館もココサもデベロッパーは、同じプライムプレイス。ココサの状況を見れば、センテラス天文館も開業景気を終わると、テナントが一つ抜け、二つ抜けといった状況になる予感さえする。


人通りや賑わいで商店は潤わない

 アパレルメーカーにいると、全国の取引先から様々な情報が得られる。1980年代には「◯◯◯から出店依頼が来た」という小売店も少なくなかった。ファッションデベロッパーからのオファーはその店の評価であり、競合店を出し抜くチャンス。地域一番店と言われるところは皆そうで、メーカーとしてもそれらに商品を卸していれば安泰だった。

 一方、小売店がビルイン出店するにはデベロッパーに保証金を納め、毎月の売上げからは歩率家賃を取られる。その分、デベロッパーは販促にも注力してくれ一定の集客があれば、小売店は黙っても売上げがついた。こうした状況はどこの都市型SCも同じだった。

 デベロッパーも販促によって施設のブランド力が増したと疑わなかった。ところが、バブルが弾け、郊外にショッピングモールが次々と開業すると、旧来の都市型SCはみな苦戦し始めた。鹿児島のタカプラもそうだ。それまでは競合がなかったため、代理店の「電通」が絡んで館の「イメージ作り」や「ブランド価値向上」に注力するだけで良く、肝心なテナント開拓やリーシングが二の次になっていた。

 後発のアミュプラザかごしまは駅ビルという集客装置を生かし、有力テナントを根こそぎリーシングした。この時点で、タカプラに勝ち目は無かった。ターゲットは異なるが、イオンモール鹿児島も天文館地区からお客を奪っていった。中心商店街の地盤沈下に慌てた地元自治体が再開発プロジェクトを急拵えしたところで、ハード中心のビルではテナントのラインナップには限界があり、失ったお客を奪い返すのは容易ではない。




 一方、アミュプラザくまもとは、かごしまとは異なり開業から苦戦が続く。その打開策としてイベントやキャンペーンに注力している。ただ、特設会場での地元産品の販売やクリスマス・イルミネーションくらいで、どこまでお客がテナントにカネを落としてくれるのか。カード会員への10%割引はテナントの利益を削る以上に売上げアップに貢献するとは言い難い。個店テナントにはなおさら過剰な負担となる。マイカー利用客を集める駐車料割引も、郊外SCに対する相対的な対策に過ぎず、強力な集客力には繋がらない。

 では、鶴屋百貨店が苦戦する3つの商業施設を尻目に、顧客予備軍となる30代を捉え切れるかと言えば、それも難しい。今の30代はネットショッピングに慣れ、ユーズドのファッションなども賢く着こなす。見せかけだけ上質の百貨店など眼中にない。店舗を見ると、本館2階は大規模なリニューアルを実施していた。同社は20〜30代の女性客の集客に成功したというが、上質な素材使いで高感度なミセスに人気の「マーコート」の誘致では、ココサに出し抜かれている。漁夫の利はありえないのだ。

 おそらく鹿児島の山形屋も、再開発事業による「賑わい創出」が自店の売上げ効果に繋がるのは一過性のものだろう。複合ビルを開発しテナントを集めれば、お客が来て物を買いカネを落としてくれる。その発想がいかに神話であるか。鹿児島の結果を待つまでもなく、熊本の今が示している。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« マスプロで一点もの。 | トップ | インキュデパートに進化。 »
最新の画像もっと見る

Weblog」カテゴリの最新記事