HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

進化の先にあるものは。

2018-01-17 05:22:43 | Weblog
 新年が明けて2週間が過ぎた。マスメディアはもとより、業界紙誌でも企業代表の年頭所感の掲載が続いている。そこで、いろんな経営者が展望として判で押したように言及するのが、AIの可能性とECの強化である。

 AIは自動車や家電のメーカーで研究が先行しているが、ファッションではまだまだ素材や商品の開発、縫製、需要予測などに活用される段階にはない。せいぜい人型のロボットにAIを組み込み、人間に代わって接客対応やインフォメーションに活用される程度だ。AIから得た情報をさらなるマーケティングにどう生かすか。ようやく次のテーマが見えてきたというところだろう。

 反面、人間が行う仕事が問われているというか、業界への人材の流入は厳しいと思う。よほど知名度のあるブランドや企業でない限り、新卒も中途もスタッフの確保は容易ではなくなるのではないか。逆に若者の関心が企業の枠内で仕事をしなければならない企画&販売職よりも、自ら自由に発信できるインフルエンサー的な業種に向かっている。それが具体的に何かはわかっていない人間が多いが、裏方であるスタイリストに依然として人気があることを見てもそう感じる。

 もはやSNSは若者の消費文化の主力になっており、自分がネット社会の主人公になれるチャンスがあるのだから、なおさらである。トレンドファッションに身を包みたいが、企業、会社、店舗のレベルでは嫌で、もっとグローバルにスポットを浴びたいのだ。ネット社会を支えて行くような職種に人が集まる傾向はますます強くなっていくと思う。

 一方で、百貨店が厳しさを増していることを考えると、派遣社員を中心に30〜40代の幹部登用が進むとも考えにくい。女性管理職というポストはメディアも盛んに取り上げるが、それがアパレル業界のSVやエリアマネージャー、小売りチェーンの店長職でも注目されているかと言えば、決してそんなことはない。なおさら求人側は求人難であることからラインスタッフの育成には、男女とも見切りを付けているのが本音のところだろう。

 各企業の代表こそ、声高には叫んではいないが、EC強化の背景には「店舗」「人員」のコスト削減が念頭にあるのではないか。物が売れない時代である。利益を上げるには在庫を低減させて経費を抑えなくてはならない。ましてお客の大半はネットで情報を収集し、買い物するかを判断している。そうした現状を考えると、スペースが限られる店舗で在庫を十分に手当てするには限界がある。むしろ、店頭在庫がEC在庫の欠品をフォローしている状況なのだ。

 大手企業がオムニチャンネルに注力してショールーミング、スマートフォン対応、モールやSNSとの連動を進めれば進めるほど、ECは主販路となり、実店舗の存在は揺らいでいく。それでなくても、日本企業全体が人口減少で、深刻な人手不足に直面している。おそらく、今後、優秀な人材がアパレルや小売業に率先して向かうとは考えにくい。

 とすれば、実店舗の数を維持するのは難しくなり、淘汰は余儀なくされるだろう。店舗を維持するにしても、AIを活用した無人店舗を推進するコンビニにファッションが追随してもおかしくない。生き残ったにしても、i-Padでみるデジタルカタログで商品を検索し、そのままサイトで注文するショールーム型にならざるを得ない。今年は実店舗とECとの主役交代がより鮮明になるのではないか。では、ECという進化の先には何があるのか。経営者はもとより、業界各人が想像し、想定しているのだろうか。

 EC担当者の中には、「自動販売機にはなりたくない」と宣う方もいる。確かに自社ECでも季節提案などメッセージ性のある作り方をすれば、店舗と変わらない情報発信とコミュニケーションの場になることはできる。ただ、問題はECによって、本当にお客が求める商品が供給されていくかである。

 店舗販売の次元では注目のブランドやショップ、目玉商品がどうしても東京に集中し、地方店には大量生産の商品しか供給されなかった。これはECによってずいぶん解消されたと思う。しかし、ECが単にアパレル側が生産した在庫を売り減らすチャンネルでは、真の顧客関係管理(CRM)が構築できるとは思えない。今どき、企業側が売りたい商品なんて、お客が買いたくなるはずはないからだ。

 どこにでもあるショップの在庫を売り捌くのでは、お客にとって求める商品が見つかるはずもない。そうしたお客がもつ「飢え」にECはどこまで応えきれるかである。EC限定の商品と謳ったところで、素資材、デザイン、品質のどれもが店頭に並ぶ在庫を超えないと購入する価値はない。その辺にも斬り込んでいく必要があると思う。

 お客はネットモールはもちろん、海外ECにも目を向けている。そこでは何が求められ、何が売れているのか。そうした動向をいかに探り、適切に対応して行くか。極論すれば、個人のニーズ=わがままにどこまですり寄れるか。マスプロダクトのままでは個人個人の消費にはアプローチできなくなっているのである。それがECにとって今年の最大のテーマになるのではないか。 

 米国では一昨年辺りから個人が欲しい商品を登録すれば、専門のスタイリストが商品を探し出して提案してくれ、そのまま購入できるサービスが人気を集めている。日本でサービスが始まるのも時間の問題だろう。そう考えると、アパレル側は小売業との企業間取り引きだけを考えてもだめなのではないか。

 現状のECに絡むマーケティング程度では、個人個人の細かなニーズに応えることはできない。真のスタイリストという個人のコーディネート&販売のプロにも注目しなければ、顧客へのアプローチはままならないのだ。SNSがここまで生活に浸透すれば、やはり商品を売っていくのは、メディアでもタレントでもインフルエンサーでもない。情報を察知して商品を見極めるプロのスタイリスト=個人ではないかと思う。アパレルはそうした人間とどうコンタクトを取るのかである。

 個人間の取引が進んでいくことを考えると、小売業における店長や販売スタッフといったポジションやクラスは無意味になっていくだろう。ファッションというエモーショナルな世界で、意思疎通を行いながらお客の信頼を得られる人間こそが商品を流通させられるようになっていくと思うからだ。そこでは本当の意味でSNSがカギになる。アパレルや小売業といった企業、硬直化した組織にはできないリアルなファッション情報を発信できる人間こそがものを言うのである。

 企業の中には、ECの施策として1to1マーケティングなどに力を入れるところもあるが、それは個人のニーズを聞き入れて商品を企画生産し提供することではない。あくまでアプローチの一手段と言っているにすぎない。しかし、個人スタイリストサービスは完全な1to1マーケティングであるのは疑う余地もないのである。

 そして、AIが進歩しIoTとの連携させれば、人間が描くクリエイティビティがネットを通じてイラスト化され、さらに色や生地もそのまま写し出されて行くことも不可能ではない。それをテキスタイルメーカーや染色・加工業者などが形にし、イラストをもとにパターンも自動制作され、たちまちサンプルが完成するという流れになっていくと思う。こちらもクリエーターが個々人で仕事ができることを暗示する。

 一人の人間が頭の中で考えたファッションデザインがそのままダイレクトに服という形になるのは、もう目の前まで来ているということだ。米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)ではそうした研究も進んでいると聞く。

 AIとECを突き詰めていけば、人間が携わる仕事は何なのか。売り方が変わる。買い方が変わる。それだけでは済まされない。商品とそれを生み出す人間が変わらなければならない。その意味を考える1年にもなりそうである。
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