HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

超えられない壁。

2016-10-05 07:36:48 | Weblog
 先週末の9月30日、ユニクロの新ライン「ユニクロ・U」が発売された。クリストフ・ルメール氏率いるパリR&Dセンターのグローバルデザインチームが企画するもので、ユニクロがハウスブランドという位置づけで販売していくものだ。昨シーズンに発売したアンドルメールは、ルメール氏とのコラボ第1弾ということもあり、1週間程度で欠品したアイテムが相次ぎ、全体を見ることができなかった。そこで、今年は発売初日に展開するキャナルシティ博多店を覗いてみた。

 今回は新ラインということもあり、イーストビル1階通路に面するウインドウ奥に専用コーナーを開設。本社から「告知を徹底しろ!」とのお達しがあったのだろうか。店舗スタッフが指示されたマニュアルに添ってぎこちないナレーションで精一杯、店内放送していた。だが、そうした力の入れように反して、商品を見ているお客はまばらだった。

 クリストフ・ルメールとのプロジェクトについては、昨年10月にスタートした。同氏はラコステやエルメスのレディスを手掛けた知名度から、初年度はプレス・プロモーションにも力が入り、クリエーションや斬新さに対する注目度は群を抜いていた。デザインに期待感を抱くルメールファンはもちろん、ユニクロの顧客までが何となく触発されて、購買行動に出たのは間違いないだろう。それが一部の欠品を招くほどの人気を生んだのだと思う。

 実際に商品を見てもディテールに遊びを施したジャケット、ケープ風のローゲージニットなど、アイテム、デザインの両面で斬新さな企画が打ち出されていた。その流れに期待したのか、今年の春夏企画でも発売初日にはファンのみならず、業界人らしき人々までもが売場を訪れ、カゴにどんどん商品を入れる光景が見られた。

 ところが、今年は買う側にも昨年ほどの期待は薄れたのか、初日にも関わらず前回ほどの盛況は影を潜めた感じだ。デザイナーズコラボなんて、ファストファッションを中心に世界中で行われており、今や珍しくもなんともない。確かに集客の目玉にはなるが好き嫌いが激しく、ツボを外せば売れないこともある。外部デザイナーとの契約上の問題などリスクもついてまわる。 売れても収益の柱には位置づけにくい。

 ユニクロとしては新ラインで継続的に売上げを取って行くには専門部署を設けて、コンセプトや方向性からデザインテイスト、コーディネートまで確立した方が良いとの判断だったと思う。同社は以前からパリやニューヨークにデザインセンターを開設している。「企業内ブランド」を開発していく上ではそうした手法を選択したようだが、あまりに強すぎる本社の意向からかクリエーション、MDがまとまりすぎた感じがする。

 初日の状況を見たくらいですべてを語ることはできない。それは十分承知の上だ。しかし、ファーストインプレッションが重要であることも確かだ。今回はあえて見た目で抱いた直感的な印象のみで、ユニクロ・Uの課題、待ち構える壁について、筆者なりに思い当たることを考えてみた。

①デザイナー名が全面に打ち出されていないこと。

 有名デザイナー名が前面に打ち出されると、日頃はユニクロに目もくれない層まで惹き付けられてしまう。でも、企画にあたるのが単なるデザインチームだとデザイナーの個性や世界観、クリエーションが薄れ、期待外れに陥る。

②プレス発表の写真を見た時点で、多くがデザイン進化を感じなかった。

 ユニクロはメディア向けのプレス発表と並行して、一般客にもメルマガなどでユニクロ・Uの写真を公開している。メディア、ジャーナリストの評価とは異なり、実際に商品を購入する側のお客はニット、ダウンなどの定番アイテムにおけるデザインでは、新鮮さが薄れたとの印象を受けた。

③カラリングは昨年の配色から大きくは変わっていない。

 お客がアイテムで最初に注目するのは、色だ。ユニクロはベーシックが売りだけにカラー展開で大胆な配色を採用することはほとんどない。16年初夏物のレディスではビビッドな赤が差し色的で目立ったが、秋冬になるとどうしてもトーンは抑え気味。昨年はグリーンのニットのケープ、カーキーのジャケットなど目当たらしさを感じたが、今年はレディスのオレンジ、グレイッシュピンクを除いて色目の新しさは半減した。

④素材はレギュラー商品の企画を流用するだけ。

 新ラインといっても、専用の素材が新たに企画開発されたわけではない。ユニクロ側は「ベーシックにトレンドや時代性を取り入れ、商品を作るということをもっと進化させるためのチャレンジ」と語るが、素材が進化したという印象は受けない。ジル・サンダーとコラボした+Jではレギュラー商品とほぼ同じものが使われていた。お客はアンドルメールでも同系の素材が流用されたと学習している。とすれば、ユニクロ・Uの写真をみて、今回も素材が変わらないと認識したはずだ。

⑤新しく企画されたアイテムの投入がない。

 アイテムはウールのジャケット、チェスターコート、ニット、ダウンが主体。これは昨年とほぼ同様。いくらベーシックを売りにしてもファッションである。せっかくのデザインチームを組織した割に新たに企画デザインされたアイテムがない。MA-1ブルゾンがラインナップされているが、他社も一斉に企画するようなベタなアイテムが必要なのか。デザインが変わり映えしないなら、お客はここで買う必要もなくなる。

⑥一般商品と同じVMD、詰め込み、ハンギングは権威低下

 +Jのときから感じているが、商品の展開方法、VMDがレギュラー商品と同じのため、売場ではコラボブランドのロイヤルティを感じない。在庫の大量展開はお客が商品を見やすい反面、売場は非常に荒れやすい。ハンギングはまだしも、畳のニットはすぐにぐちゃぐちゃになる。もともと素材のクオリティが高くないだけに、少し時間が経つと糸同士が擦れて毛羽立ちも目立ち、ブランドの魅力が半減している。コラボ企画やデザインチームの存在を知らないお客にとっては、少し価格の高い商品としか映らない。

⑦経営効率の追求が透けて見える

 +Jから続く一連のコラボレーションでは、ベーシックというユニクロDNAの延長線から大きく外れる企画ではない。それゆえ、カラー、素材、デザイン、VMDは、現状の製造工場、工場スタッフの技量、展開する売場でこなせる範囲に収められている。つまり、新ラインと言ってもユニクロの店舗で販売する限り、生産や販売の効率を重視して原材料や縫製は集約し、収益を上げるものでしかないことがよくわかる。ユニクロ側は進化やチャレンジを公言しても、お客からすると変化もイノベーションも感じられない。今までそれを認識していなかったお客さんも、今回の商品を見ると何となく気づくはずだ。

 グローバルSPAとして、グループ年商5兆円を目指す同社の方向性としては、ユニクロ部門を常に活性化していかなければならない。その命題をクリアするためにデザイン専門チームを組織するのは間違っていない。ただ、あまりに本社サイドの意向が強すぎるのではクリストフ・ルメールという個性、クリエーションが死んでしまう。

 まだ発売して間もないので結論を出すのは早急だが、ユニクロの営業戦略は初期投入分を売り減らしていくもの。期初に躓けば期中で修正など出来ないし、期末にセールで消化するしかない。その兆候が今回の新ラインの第一弾には感じられるのである。

 この冬が厳冬にでもなれば、別の意味で購買に火がつくこともあり得るが、それも期待薄だ。となると、商品そのもので常に新しく、買いたくなるようなものを生み出していかなければならない。ユニクロが手本にして来たGAPでも数年周期でベーシックとトレンドを交互に追っかけて来たが、そのゴールデンMDには辿り着けていない。ユニクロでも社内プロジェクトの次元では、超えられない壁があるようである。

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