HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ライセンスで回復は難しい。

2016-06-29 07:31:44 | Weblog
 三陽商会が2016年6月中間期の純損益見通しを15億円の赤字に下方修正した。昨年6月にバーバリー社との契約が切れたため、同年12月期決算では売上高が12%減の974億円、 純利益も対前期比59%減の25億円まで落ち込んだ。本年度も売上げ回復の道筋は立たないようで、立て直しのために全従業員の2割弱にあたる約250人の早期退職者を募集する。さらに複数ブランドの廃止も打ち出すというから、バーバリーを失った後遺症は経営陣の思惑を超える深刻な状況と言えそうだ。

 そもそも、三陽商会はバーバリーを失うことで、売上げ減になるのは想定済みだった。それを少しでも緩和しようと、英国のマッキントッシュ社とライセンス契約を結んで昨年秋には「マッキントッシュ ロンドン」を立ち上げ、主軸ブランドに位置付けた。またバーバリーのセカンドラインでも、新デザイナーに三原康裕氏を起用しヤングレディス向けのブルーレーベルを「ブルーレーベル・クレストブリッジ」に、メンズのブラックレーベルを「ブラックレーベル・クレストブリッジ」に転換した。その他、マッキントッシュフィロソフィー、ポール・スチュアート、エポカなど、7ブランドを基幹ブランドと位置づけて育成・強化するなど、矢継ぎ早に対策を打っていた。

 しかし、実際にはバーバリーの穴を埋めるどころか、すべてが輪をかけて凋落の一途を辿りそうな様相である。根本原因はいったい何か。やはりアパレルブランドのライセンスビジネスが時代、マーケットに合わなくなっているのではないか。マッキントッシュフィロソフィー、ポール・スチュアート然りである。経営陣は「百貨店との取引を継続すれば、ある程度売場を維持できる。あとはブランドさえ確保すれば、バーバリーファンの受け皿にはデザインをそのまま踏襲し、ライセンス生産でも十分行けるだろう」との目論見ではなかったかと思う。だが、中間決算をみる限り、あまりにお客を甘く見ていたことになる。

 なぜなら、ブランドライセンスという手法がすでに前近代的だからだ。バーバリー社が三陽商会との契約を解消したのは、「本物」を本社直轄でグローバルに展開し、ブランドバリュを確固としたものにしたいからである。その意味では、ライセンスは本国からすれば邪道であり、ブランド価値を下げる意外の何ものでもないのである。

 そもそも、ブランドのライセンスビジネスがなぜ生まれたか。発展途上にあるアパレルブランドがグローバル展開を試みる上では、店舗展開や広告投資など莫大な資金を要する。またサイズや志向の違いなどで各国、各人にきめ細かく対応することは難しい。だから、地域別で市場を知るアパレルや商社とライセンス契約を結び、ライセンシーにはその市場にあったブランドに焼き直させたのである。こうして本国のブランド側はライセンサーとしてロイヤルティを徴収して資金が潤沢になり、ビジネス展開が容易になるのと並行してブランドの知名度を世界中に浸透させていったのである。当時はお客の側にしてもブランド品に手が届くのなら、ライセンスでも構わなかったのだ。日本におけるバーバリーはその典型だろう。

 ところが、ブランド側が名実ともに実力をつけ、ビジネス展開に必要な資金を証券市場から調達し、コングロマリット化するようになると、ロイヤルティでちまちま稼ぐ必要は無くなる。グローバル戦略をしっかり構築し、商品政策から店づくり、広告展開まで一括して行った方が効率が良いし、何よりブランドバリュは上がっていく。特に市場、お客が成熟した地域では、何よりそうした戦略が有効になってきた。要はお客がカネを持てば、皆が「本物」を求めるようになるから、ライセンスなど必要ないのだ。

 マッキントッシュは真逆のケースを辿ったのである。このブランドはもともとアパレル商社の八木通商がインポート商品として開拓し、専門店、いわゆるセレクトショップと一緒になって日本市場に浸透させた。販売拠点がセレクトショップだから、売り方は百貨店とは全く異なる。代表的なゴム引きのコートは価格が20数万円もする。確かにクオリティは高いが、単品そのままでは売りづらい。だから、バイヤーはキーアイテムに位置付けながら、別ブランドのインナーのニットやボトムのパンツ、ブーツまでコーディネートすることで、アイテムそのもの良さを際立たせたのである。これは単品組み合わせの編集力をもつセレクトショップだから、成せる技だったのである。

 つまり、マッキントッシュが日本市場で売れ、浸透したのはこうしたセレクトショップ、バイヤーの地道な努力があったからだ。現在ではこうした市場もすでに成熟し、リピーターは親から子に移っている。コアなマッキントッシュのファンからすれば、マッキントッシュはインポートであって、ライセンスではないのである。コートはマッキントッシュロンドンが発売されるはるか前に某SPAによってコピーされた商品が出回り、こちらも一定のボリューム市場はつかんでいた。だから、なおさら「本物」の価値は際立ったと言える。

 三陽商会はこうしたマッキントッシュが売れた背景を細かく把握することなく、単にブランドネームが浸透したことだけに着目したのではないか。「うちのコート縫製の能力、販路としての百貨店ルートがあれば、ライセンスでも十分行けるだろう」と踏んだのだと思う。マッキントッシュ社がライセンス契約に応じたのは、日本の八木通商が経営権を握っているからに過ぎない。同社にとってはロイヤルティが入ればいいからである。

 しかし、ふたを開けてみると違った。バーバリーの顧客はライセンスでもバーバリーを好んだ。ところが、トレンチやステンカラーのデザインをコピーし、マッキントッシュで焼き直したところで、ロンドンはバーバリーではないから、バーバリーファンは簡単にはなびかない。逆にマッキントッシュのファンからすれば、ロンドンのコートは紛い物でしかないのである。

 もっとも、バーバリーはライセンスと言っても、アイテムはポロシャツ、子供服までに広がって一定のマーケットを作り上げ、売りやすい方向ではあったと思う。ワンポイントマークもブランド好きな中国人の爆買いを誘ったわけだから、契約解消前には駆け込み需要となったのは当然のことだ。しかし、それは伝統あるブランドの力があればこそだ。コアなファン以外知らないマッキントッシュになると、百貨店を拠点にしたところで、成熟した日本の市場を簡単に開拓できるとは思えない。

 ましてマッキントッシュロンドンがバーバリー同様にアイテムの裾野を広げたところで、こうしたMD戦略は従来通りのやり方で目新しさは感じない。アパレルお得意の効率主義が裏目に出てしまったということでもある。それはマッキントッシュフィロソフィー、ポールスチュアートにも言えることではないか。フィロソフィーは本家マッキントッシュとは全く異質なものだから、ショップやコーナーだけで完結してしまって新規客は呼び込めないし、ポールスチュアートもファンが歳をとればブランド離れしていく。

 マッキントッシュのコアなファンとライセンスであるマッキントッシュロンドンの客層は異なる。これは八木通商も三陽商会の承知の上で、スタートしたはずである。ただ、ロンドンが苦戦しているのは、ライセンスという中間層を攻略して来たビジネス手法がすでに通用しなくなった面もあるだろう。時代、市場の変化を三陽商会の経営陣は見間違ったのだ。同社を良く知る人の話では、経営の実権をプロパーの人間に代わり商社出向組が握っていることもあるそうだ。ゼロからもの作りを行うアパレルではなく、でき上がったものを買い付けて卸すだけのノウハウしかなければ、ブランドもアイテムもあり溢れている今のマーケット攻略では非常に厳しいのはわかる気もする。

 他のブランドにしても、メーン販路は百貨店のハコだ。店づくりはフラットで、品揃えもセレクトショップのように奥行きがない。トップスからボトムスまで揃っていても、単品がハンギングか、たたみで展開されるだけで、編集力からしても今の嗜好には合致しない。それが若い客層を呼べない根本的な要因だろう。 商品力のカギとなる素材や縫製についても、原価率の圧縮から低下は否めない。大人の洋服好きから見れば、いい加減辟易している。もし、マッキントッシュファンがロンドンのコートを見ると、一目でクオリティの低劣を見抜くはずだ。それほどお客の目は肥えているのである。

 三陽商会はコートづくりでは歴史もあるし、独自の縫製ノウハウをもつ。ならば、これを生かして独自の企画でブランドを作るか、デザイナーにノウハウを提供してコラボレーションに注力すべきではないか。その意味で、クレストブリッジは実験的な取り組みなのだろうが、バーバリーセカンドレーベルの受け皿にするには、あまりに無謀すぎる。メーンターゲットの若者はカネを持たないから価格的に手が出ず、逆にカネに余裕のある大人からすればデザインが若すぎで安っぽい。バーバリーのセカンドレーベルが軌道に乗ったのは、バーバリーチェックというデザインアイコンとブランドバリュの浸透があったからだ。業界人以外はほとんどその名を知らない三原康裕氏には、あまりに荷が重すぎるのである。

 どちらにしても、売上げ回復が図られなければ、リストラは今後も続くはずである。そして百貨店アパレルの一角としての存在すら危うくなっていくかもしれない。

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