深く潜れ(Dive Deep)! キネシオロジー&クラニオセイクラル・ワーク(クラニオ)の蒼穹堂治療室

「ココロとカラダ」再生研究所、蒼穹堂治療室が送る、マニアックなまでに深く濃い、極私的治療論とお役立ち(?)情報の数々。

成功することの悲劇と喜劇

2008-09-11 17:55:49 | 趣味人的レビュー
演出家として、そして最近では映画監督としても名を馳せる蜷川幸夫。彼は演劇界、ショービジネスの世界で大成し、「世界のニナガワ」となったが、元々は売れない役者だった。多分、彼は役者として「世界のニナガワ」になりたかったはずだ。しかし、ある時、役者としての自分に見切りをつけて、演出家の道に転じた。それによって彼は大成功を収めるわけだが、大きな葛藤はあったと思う。同じショービジネスの世界とはいえ、最初に思い描いていたのと違う形で成功することになってしまったのだから。

根岸祟一(そういち)もまた、そんな望まぬ形で大成功を収めてしまった悲劇の人である。ミュージシャンになることを夢に東京の大学に進学。そこで音楽事務所の社長に才能を見出され、ついには日本はおろか世界にも名を知られるトップ・ミュージシャンへと上り詰めていく。しかし、それは彼にとって「成功物語」ではなかった。いや、それどころか、苦痛以外の何物でもなかった。その苦痛とは、よく言われるような「成功するには苦しみがつきものだ」という意味の苦痛ではない。自分のやっている音楽が、一番やりたくない音楽だったからだ。

…というのが、松山ケンイチ主演で映画化された『デトロイト・メタル・シティ』のオハナシ。松ケン演じる根岸祟一は、頭をレオナール・フジタ(って、ワカルかな~? エコール・ド・パリの画家の藤田嗣治ね)のようなカットにした、ミュージシャンを夢見る大学生。彼の夢は甘い甘~いポップなラブソングを歌って、みんなを幸せにすること。そんな彼が大学卒業後にステージで歌っているのは「殺せ、犯せ、fuck」を連発するデス・メタル・ロック。そう、彼こそ、その過激さで伝説と化している悪魔系デス・メタル・バンド、デトロイト・メタル・シティ(DMC)のボーカル、ヨハネ・クラウザーⅡ世その人だった。

もちろん、彼はそんな自分がイヤでたまらない。DMCは音楽事務所デス・レコーズの狂信的なデス・メタル・ファンの女社長に脅されて嫌々やっているだけで、本当の彼は甘~いラブソングを歌うポップな歌手を目指して、下北沢で路上ライブを行っている。ひとたび顔を白塗りにしてコスチュームを身につけ、ヨハネ・クラウザーⅡ世としてステージに立つと、熱狂的なファンを従えるカリスマ、根岸が、素顔ではフジタ・カットの頭に極端な内股で、体をフリフリしながら歌う気持ち悪いストリート・シンガー(松ケンがホントに気持ち悪い)で、歌っているとまわりから人がいなくなってしまう、というのがおかしい(この当たりの根岸とクラウザーのギャップは、映画『デトロイト・メタル・シティ』の公式HPを見てちょ)。

そんな彼の2重生活が、学生時代にあこがれだった相川さん(根岸の作る曲が好きで、DMCの音楽を嫌悪している)と出会ってしまったことで、大きく揺らぎ始めるのだ。揺らぐ根岸のアイデンティティ…。その頃、デス・メタル界の巨人、ジャック・イル・ダーク(演じるのは元KISSのボーカル、ジーン・シモンズ)が世界のデス・メタル・バンドを潰すためのワールド・ツアーを行うことを発表。日本ではその相手にDMCを指名した。かくして物語は、ジャック対クラウザーのデス・メタル対決へとなだれ込んでいく。

映画『DEATH NOTE』でL(エル)を演じた松ケンが、今度は『DMC』でクラウザーを演じる、ということで、「『デスノート』から『デスメタル』へ」などと言われたが、こういう「完全成り切り型」の役を演じさせると、松ケンは非常にウマい。根岸とクラウザーは二重人格なのではなく、1人の人の中の二面性を表しているのだが、松ケンの演技はその「二重人格のように見える二面性」というギリギリのところを巧みに表現している。

脚本は大森美香。NHKの朝ドラ『風のハルカ』も好きだったが、ここでも「壊れそうでいて壊れない家族」と「夢の再生」をしっかりと描いている。そして、その2つを支えているのが宮崎美子演じる祟一の母親だ。この物語の中で「宮崎母さん」の存在は欠かせない。朝日新聞にもあったが、ふくよかで、いつも笑って、何があっても少しも変わることなく、そこにいてくれる宮崎母さんは、新たな「日本の母親」像を体現しつつあるのかもしれない。

ところで、『DMC』と『ダークシティ』を観に行くなら、『ダークシティ』→『DMC』の順番で観ることをお勧めする。順序が逆になると、『ダークシティ』を観ている途中で『DMC』のことを思い出して、シリアスなシーンでつい笑い出してしまうかもしれないから。化粧を落とすと、ジョーカーも実は…ってね。あぁ『ダークシティ』の世界観が崩れていく~

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