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『ピクニック・アット・ハンギングロック』という謎

2024-07-07 22:11:28 | 趣味人的レビュー
1900年のバレンタインデー、オーストラリアの寄宿女学校、アップルヤード学院では、近くにあるハンギング・ロックと呼ばれる岩山に引率教師2名と共に生徒たちのハイキングが行われた。その日は天候にも恵まれ、全員、夜8時には学院に戻ってくるはずだった。しかし、生徒3名と教師1名が姿を消し、その事件を機に学院もまた崩壊へと向かい始める。
 


オーストラリアの寄宿学校で起きた不可解な失踪事件を描いた映画『ピクニック at ハンギング・ロック』は、ピーター・ウィアー監督によって1975年に制作され、日本ではそのおよそ10年後にシネ・ヴィヴァン六本木で公開されて、私も見に行った。一部でカルト的人気を誇ったその作品が40年後の2024年、4Kレストア版という形で、東京ではBunkamuraル・シネマで6/7~20に期間限定公開されて、それも見に行ってきたのだが、その際、ネットでこの作品について調べていたところ、気になる情報があった。それは、この作品には原作となった小説があり、描かれた事件は架空のものである、というものだった。シネ・ヴィヴァン公開当時は原作小説があるなどということは知らされていなかったし、(私の記憶違いかもしれないが)当時買ったパンフレットには「これは実際に起こった事件に基づいている」と書かれていたからだ。

そこでその原作小説を探して見つかったのが、このジョーン・リンジーの『ピクニック・アット・ハンギングロック』である。ちなみに原書は1967年に書かれているが、東京創元社からこの日本語版が出たのは2018年12月で、映画の日本公開から約35年後のことだった(その経緯は「訳者あとがき」に書かれている)。

この『ピクニック~』という物語のアウトラインは上に述べた通りで、映画版も基本的にそれに準拠している(注1)。物語のもっと詳細が知りたければ、本書を読むか映画を見でほしい。以下では、この『ピクニック・アット・ハンギングロック』という作品が生まれることになった契機と、それにまつわる謎について述べたい。

「訳者あとがき」によれば、実はこの作品は70歳になったジョーン・リンジーが1週間の間、毎夜見続けた一連の夢の内容を、朝起きて書き綴ったものだという。リンジー自身、彼女がいると周囲の時計が止まってしまうような特異な体質の持ち主だったということで、この夢もそうした体質が関係していたのかもしれない。ただ完成した原稿を出版するに当たって、担当編集者のサンドラ・フォーブズから最終章を削除するように提案があり、現在流通している本は(日本語版も含めて)、元の原稿から最終章を削除した(上で加筆・修正が施された)ものとなっている。
では、その削除された最終章とはどういうものだったのか、だが、そのアウトラインが「訳者あとがき」に載っていて、それを読む限り、編集者の判断は正しかったと言えるだろう(少なくとも最終章がこれだったら、作品の評価が今とは全く違っていたはずだ)。

それで、リンジーがこの『ピクニック~』で描いた失踪事件は本当にあったことなのか、についてだが、ネットでもさまざまな考察があるものの本当のところは分からない。「訳者あとがき」にはこうある。
『ピクニック・アット・ハンギングロック』に類する事件が実際にあったのかどうか、リンジーがはっきり答えたことはないようだ。一度だけリンジーは、ジョン・テイラーから事件の真偽について尋ねられると、宙を見つめながらこんな風に答えたという。「何かが起こったことだけは確かね」また、作品冒頭に添えられたリンジーのひと言は、元々こう書かれていた。「『ピクニック・アット・ハンギングロック』が事実なのか創作なのか、あるいはその両方なのかは、読者の判断にゆだねる」(注2)
ところが「解説」では
ジャネル・マカロックのノンフィクション Beyond the Rock: The Life of Joan Lindsay and the Mystery of Picnic at Hanging Rock。このなかで、マカロックはこんな指摘をしている。「リンジーの元々の前書きの最後には『作者は子どもの頃から、マセドン山とハンギングロックのことはよく知っていて、この物語は間違いなく事実です』と書かれていたのだが、この一文が削除されている」(中略)また、ピーター・ウィアーがこの作品を映画化したいといってきたとき、「決して──どんなことがあっても──これが事実なのかフィクションなのかをたずねないようにしてほしい」といわれたらしい。
と書かれている。

消失と終焉の物語『ピクニック・アット・ハンギングロック』は、今もなおそれ自体が謎のままあり続ける。

(注1)ただし、終盤は小説には書かれているが映画では描かれていない部分がある。特筆すべきはアップルヤード校長についてエピソードで、ピーター・ウィアーはその部分を撮っていたにもかかわらず、本編からは省いて字幕による説明に変えた。その使用されなかったカットは今、YouTubeで検索すると見ることができる。
(注2)実際の本には、「『ピクニック・アット・ハンギングロック』が事実なのか創作なのかは読者の判断にゆだねる。だが、問題のピクニックがおこわれたのは1900年のことである。ここに登場する人物たちが亡くなって、すでに長い年月が経った。事件の真偽を取り沙汰する必要はないだろう。」と書かれている。
 
※「本が好き」に投稿したレビューを採録したもの。

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